【第1話】ふたごの兄は能力者
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わたしには双子の兄がいる。
世間では兄たちみたいな人を発達障がいとも言うらしいけど、それより能力者の方が合ってる、とわたしは思ってる。
おっと……!!詳しい説明はあとで。
今日も始まったみたい。2人のバトル。
さぁ、実況を始めようか。
■第1話 並んだ本とソファー■
「誰だよ、これやったの!」
2階の子ども部屋、本棚の前で龍が口火を切った。
わたしはすぐさま状況の確認に走る。
見ると、本棚には兄たちお気に入りのマンガが並んでいる。
「龍、どうしたの?」
「見ろよマナカ。これ、俺が昨日1巻から順番に並べたはずなのに、8巻だけないだろ?」
確かに、8巻だけが列から抜かれて消えている。
あたりを見回すも、どこにも落ちていない。
探すまでもない。
子ども部屋の左側、龍の空間は床に何もない。
龍はあらゆるものに対して、順番に、美しく、理路整然に並んでいることが大切だと思っている。
龍はあるべき場所にその物がないと気が済まない。
「8巻は、ここになきゃダメなんだ、絶対に。」
ふむ。龍の怒りレベル、10段階の4ってところ。
「絶対、白虎のしわざだ!オイ!白虎!!!」
龍は子ども部屋から、1階のリビングにいるはずの白虎を呼んだ。
「白虎!!白虎ー!聞いてんのか!?」
・・・。
いくら龍が呼んでも白虎の返事がない。
「わたし見て来るね。」
わたしは1階のリビングにいる白虎のもとへ走った。
白虎はリビングのソファーに座り、テレビでYoutubeを見ていた。
「白虎、龍が呼んでたよ?」
白虎の返事がない。
「ねぇ!白虎!聞いてる?」
白虎の返事がない。
「ねぇってば!!!」
白虎の返事がない。
そこでわたしはハッと気づいた。
すでに能力が発動されている。
これは……あれだ!!
白虎の能力 Ⅰ
ハイパーコンサントレ―ション!
「白虎!?オイ!!」
まずい。龍の怒りレベルが5に上がってる。
2階からリビングに降りてこようとしている。
「白虎!!ねぇ!龍が怒ってるよ!」
肩をゆすっても白虎には届かない。
バンッと音がして、龍がリビングの扉を開けた。
しまった、間に合わなかった。
「白虎!聞いてんのかって!」
龍はテレビの前に立ちはだかった。
「邪魔。どいて。」
「だから、聞けって!」
「邪魔だって。テレビ見えねぇだろ。」
「おまえに話があるんだよ!」
龍は白虎のハイパーコンサントレ―ションを解こうとしているが、うまくいかないようだ。
いつまでも話を聞かない白虎に対し、ついに龍は強硬手段に出た。
テレビの電源を消したのだ。
「何すんだおまえ!!??」
途端、白虎の怒りスイッチが入った。そのレベルは7。わりとやばい。
「俺のマンガ、8巻読んだのおまえだろ?どこやった?」
「しらねーよ!テレビつけろ!」
「しらねーじゃねぇよ!8巻、どこやった!?」
「しらねーもんはしらねーよ!」
あぁ、また口論が始まってしまった。今日はお母さんもいないし、止めるのは私しかいないみたい。さて、どうしようか。
ふと見ると、白虎が座っていたソファーにマンガの8巻が見えた。
「あの、龍、8巻あったからさ、ほら。」
わたしは喧嘩を止めようと、ソファーの方を指さす。
それがまずかったみたい。
「ほら見ろ!おまえ今知らないって言ったよな?じゃぁどうして、白虎が座っていたソファーに8巻が置いてあるんですか?マナカ、読んだ?読んでない?だよな?俺も読んでない。そして俺はマンガを読んだら必ず棚に戻す。順番にな。ということは、だ。俺か、マナカ以外がマンガを読んだことになる。そして、白虎。お前は今までこのソファーでテレビを見ていた。そのソファーにこの8巻が置いてある。つまり、この8巻を読んだのは白虎、お前しかいない。犯人はお前だ!!」
で…でた!!!
ここで炸裂……!!
龍の能力 Ⅰ
ソードオブライトアーギュメント!
龍の正論はいつも痛い。見ているわたしまで、責められている方がかわいそうになるほど。わたしが犯人だったら龍にだけは取り調べられたくない。すぐに降参してしまうと思う。
しかも今の白虎はバリア能力を使っていなかったから、この攻撃をモロにくらったはずだ。
「う……うるせぇぇぇ!!!!!」
白虎の怒りメーターが8を超えた。このままいくとつかみ合いの喧嘩が始まってしまう。なんとしても10を超える前に止めなくちゃ。
さらなる能力が発動する、その前に…!
「待って!!2人とも!マンガ見つかってよかったね! 白虎、龍にマンガ返してYoutubeの続き見たら?ね?ね?」
わたしはそう言いながらテレビの電源を再び入れる。2人は鼻息荒く見つめ合っていたが、今回は若干白虎の分が悪い。
さらに白虎はYoutubeのつづきが気になるようだ。
「チッ……そらよ。」
白虎がマンガを龍の足元に投げた。
第2ラウンドの始まりだーー
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▼第3話
※文中のイラストはcanvaAIを利用して作成したイメージ画像です。