WHEN BREATH BECOMES AIR
イギリスではロックダウンが少しずつ解除されてき、週末もお天気に恵まれ、少しずつ明るい「日常」が戻ってきたような気がします。
久しぶりの本屋さん、コーヒーショップ、家族に会えること。
いつも当たり前だと思っていた「日常」、今ではそのありがたみがわかります。
そんな明るい日々の訪れと同時に、一年以上にわたり今日も最前線で戦い続けている医療従事者の方々のは頭が上がりません。
そんな思いを込めて、今日は、30代で癌と戦った脳神経外科医によるノンフィクションをご紹介。
ノンフィクションといってもお医者さんでもある彼は、お医者になる前にスタンフォード大学で英文学を勉強しただけあり、文章がとてもユニーク。
今日は彼の物語を紐解いていきたいと思います。
あらすじ
著者のポール・カラニシさんは、スタンフォード大学で英文学の学士号と修士号を得るなど文学のバックグランドを持つ方です。
本書には、その背景もあり、古典文学や聖書などの引用もみられます。
長きにわたり「生と死について」、その答えの見えない問いにじっと向き合ってた彼。
その答えを「医学」で見つけようと、そしてまだ謎の多い人間の「脳」にこの難題を問いかけることにした。
ヒト生物学の学士号を取得し、ケンブリッジ大学で科学および医学の歴史・哲学の博士号を修め、イェール大学メディカル・スクールを卒業し、医師としての順調なキャリアを積んで行く。
しかし、2013年5月、36歳の彼に末期がんの診断が下される。
「生と死」について、今までの経験や学びから診断後も「科学的」、そして「事実」と根拠」に基づくことを選ぶ。
診断後すぐに担当医にカプラン=マイヤー法(Kaplan-Meier method:生存時間分析の手法)の提示を要求したりし、
自分の「死」に「根拠に基づき」向き合おうとする彼。
しかしそんな彼も、いざ直面した「死」に対して、コントロールできない感情に気付く。
数値では測れない、小さな小さな、
"HOPE"(希望)に触れる。
感想
素晴らしかった。ほんとうに、一気に読みました。
詩を読むかのように美しい言葉から、
嘘のない感情からそのまま出てきた言葉たち。
戸惑い、悔しさ、悲しさ、怖さの感情はついつい隠したくなるもの。
その「隠したくなる」、そんな感情も丸ごと受け止めて書かれている。
愛、家族、そして未来。
本を閉じた後、悲しさの中に小さな、小さな暖かさが残った一冊。
間違いなくお勧めできる一冊です。
ただ、
ただ、、、、
邦題が残念。。。
原題の"When breath becomes air" とは
「吐息(生)が(無機質な)空気(死)となるとき」
という意味なのですが、
邦訳版のタイトルは、
「希望を語ろう、末期がんの若き医師が家族と見つけた「生きる希望」」。
本は売らなければらならない。
だからこの題名を見て、そのキーワード(若き医師、希望、末期がん、生きる意味)なのでこの本を取る人もいると思うし、
翻訳の内容は、聖書や古典・近代文学などの難しい訳もわかりやすく訳されているようで、ますます多くの人に読んでほしいと私も思う。
だからある意味正解なのかもしれない。
ただ、読了後感じられた題名(原題)の深さが、この邦題では感じられなく、作者の思いが伝わらないのでは、、と思うと残念です。
ですが、素晴らしい一冊なので、ぜひお勧め。
そして読了後はぜひ原題を見つめながら本作を振り返ってみてください。
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