観劇レポート『MEME』
趣味、演劇鑑賞。
お芝居観るの、大好きなんですよ。学生時代の恩師が劇団員をしてまして、幼少期から生の臨場感に触れる機会が多かった。別役実、成井豊、高橋いさを、永井愛、高泉淳子。挙げ始めたらキリンがない、とはいえコロナ以降なかなか劇場とも疎遠になってまして。今回ようやっと。しかも今月別連載でご一緒するメンバーのオリジナルとあって。
初訪問となる「神戸水道筋 イカロスの森」さんは1996年創立。JR摩耶、阪神大石、阪急だと王子公園が最寄りでしょうか。間口4間、奥行3間、客席40ですってもうたまんないわ。役者さんと目が合う瞬間のドキドキや、汗やら唾やら喜怒哀楽様々な感情やらが客席へ次々降り掛かってくる。これぞ「芝居小屋」の醍醐味、さながらどこへ座っても溜席というような。
「中日」を選んだ理由。
ドラゴンズの話じゃないですよ。観劇の面白いところは、同じ脚本なのに初日・中日・千秋楽で見え方や演じ方が大きく変化していくところ。そのどれにも魅力があってまさに瞬間芸術、お芝居って生き物なんだなあと感じられる。新卒1年目の頃、関西→関東でたまたま某アーティストの初日と千秋楽を観る機会に恵まれた。
そこにはもう、全く別の世界が展開されていきました。同じセトリなのにこうも聞こえ方が違うものなのかと。土地がそうさせるのかハコがそうさせるのか、お客様がそうさせるのかあるいはその全部。オンライン配信、見逃し再生では味わい切れない要素だと思います。という訳で、役者個々人のアドリブ欲や新たな方向性が見え始める文字通り「脂の乗った」4公演目を。
あらすじ。
"インターネットミームをこよなく愛するミーム職人ユニット『MEME(ミーム)』、彼女たちの奇想天外なパフォーマンスに人々は熱狂した。人気絶頂の最中、リーダーの戸森メメが急死。残された3人は、彼女の遺言により前代未聞のミームサプライズパフォーマンスを行う。"なるほど、とんでもSFコメディ集団を標榜する彼らの十八番的舞台設定です。
今回、作演出を務めるウチポケっと.Incの潤之介さん。主宰も何度かご一緒する機会があったのですけれど、舞台作品のみならず映画やサブカルチャーにも大変造詣が深く短編から長尺まで幅広くこなせる確かな実力派。パペット不条理劇をこよなく愛し、社会風刺やブラックコメディの引き出しも豊富。そりゃあどおりで話が合う訳だ。
せっかくの王子公園駅下車旅ですし。
動物園寄っときましょうよ、最後に訪れたのはそれこそ動物大好きなジャズ研の先輩後輩を引き連れ午前一杯鳥類コーナーに浪費したガチツアー以来。30過ぎのおじさん単騎での再訪はさすがに不審者感マックスでしたが心の底から満喫致しました。キリンの赤ちゃんは本当にかわいくて4周。あんまり聞いたことないぞ、動物園からの芝居小屋ルートって。
思い出の店、潰れてました…朝寝坊の連れを待つ間ふと入った喫茶店。たしか名はジゼル。どこ探してもないんですよ、慌ててGoogleマップを開いた瞬間。最後に訪れたのが丁度11年前、いやはや時の流れは残酷です。気持ちを新たに「広東料理 天天」にて週替わりランチ、前菜5種に油淋鶏。これで1000円!?いや信じられない美味さだわ、次回はディナーで豪遊確定。
舞台は、上段下段のシンプルな二層構造。
小道具はわずか上段に一つ、ひな壇のような長椅子のような直方体があるだけ。それが棺だと気付くのにさほど時間はかかりませんでした。昔とんねるずがタクシードライバーを描いたコントで、パイプ椅子二つのみで全ての物語を演じ切り界隈に衝撃が走りました。そのシーンそのくだりに必要なものだけちょこんと添えてやるというような、潤之介さんの美学がここにも。
結果、劇中に登場した比較的大き目の小道具は背の低い白テーブルとシーツのみ。対照的にメメ役の北枕さん以外は黒基調でコーディネート、つまり喪服です。各人それぞれに丈や露出感まで様々な着こなしがありましたので、恐らくはキャスト固有のモチーフがあったものと思われます。例えばカレン役もちのかんずめさんには上坂すみれの幻影を見た。
「アイドル」をテーマに60分間描き切った。
ひとえにコロナ禍の反映あるいは現場感覚の奪回、これに尽きると思います。主宰の肌感覚として、恐らく自分以外のお客様はほぼ全員演劇経験者あるいは現役世代と見えた。派手で個性的な癖の強い子達がどんどん席に招かれていく。細かなギミックへの反応、舞台を知るからこそのリアクションで終始会場が温かく包まれる様子にもそれが現れていて。
「コミュニティ芸術」ゆえ得手不得手があることは百も承知、主宰のいたジャズ界隈がまさにそうでしたから。そんな暗い話は良いんです。コミュニティにしか守れない表現があり、お客様あってこそ小箱の管理運営が保たれる。この絶妙な持ちつ持たれつが、流行病のせいで根底から覆されてしまった。つまり忘れ物を取り返すための60分間だったのだと。
現場感=地下アイドル感の演出というアイロニー。
正直痺れました、こういう描き方のバランスがあるものかと。つまり昨今のジェンダー観あるいはポリコレ論争まで包括的に戯曲へ落とし込めていた、これは特筆すべき点だと思います。例えば本作のロゴにあしらわれているユニコーン、通称「ミムミム」は古来中世ヨーロッパの時代から処女性のモチーフとして描かれてきた文脈があり。
そういえば劇中にも幾度となくそんなシーンが散りばめられていた。男子校出身の主宰にはそれが「同性愛」のメタファーである可能性やコンテクストまでビシビシ感じ取れて。時代観や世相を漏れなく作品性に認め、限りなく肯定的に打ち出す姿勢。ここら辺が「クリエイティブの今」を感じさせ尚更鳥肌ポイントでした。 勿論、フェミニズム風刺と読めなくもない。
恋愛模様を色付ける、巧みな「記号」捌き。
炭酸水、他人のシャツや靴下を借りるという行為、そしてソプラノリコーダーで間接なんちゃらみたいなくだりまで。全て「恋愛」を描くためのツールでした。例えばこれをモカとメメの親密度に置き換えると無色透明な販売員とアイドルの関係から、パプリカのおかゆをご馳走できるまでになった。そういえばソプラノリコーダーって白と黒が混ざっていたような。
もうあなたにどう触れて良いのかわからない、から始まるのはaiko「サイダー」ソーダにまつわる恋愛ソングは彼女の十八番で。元々死生観を表すはずだった白黒アイテムが暗に人と人との距離感を埋める役割も果たしていたこと、各人のエピソードは必ず色にまつわるくだりで締められていたこと。生活が色めき世界が華やぐ、そんなイメージすら演出できていた。
矢継ぎ早に繰り出されるインターネットミーム。
まさに令和版「Ebony And Ibory」と表現すべき代物かも。ただ、問題はここからです。つまりSNSを撤退して久しいためか、インターネットミーム界隈に滅法疎い。できる限り事前情報は入れず観劇するのが主宰流なので、今回もそれに則り粛々と…なんて思ってましたが正直激しく後悔しております。せめて有名どころだけでも押さえとくべきでした。
劇中流れた映像作品は実に20以上。スペースキャット、だが断るといった基本中の基本くらいは回収できましたが。これは二度三度と観劇していくと、さらに理解の深まるそんな作りで。是非、映像化を待ちたいところですね。返す返すも、広大なネットの世界と現実世界のアイドルパフォーマンスとをフュージョンしてしまおうという奇想天外さが、ウチぽけさんの神髄か。
「ダンス」の真意と、その他解読不明事項等。
とはいえ語り得ぬ世界線の存在も大きい。つまりあの不可解な振付にすら、何らかのメッセージ性を感じてしまって。意味があったのかなかったのか。あくまで振付注目で観た時、真っ先に思い浮かべたのは「坂道シリーズ」の文脈でした。正直根拠はあってないようなものです。少なくとも、ハロプロにはない動線や味付けと見受けられましたが果たして。
あるいはキャスト個人の苗字について。戸森、大我、琴奈、青前。戸森には地形由来の「権力者」あるいは「有力者」、琴奈には「競争力」や「協調性」を兼ね備えたイメージがあるそう。古く、江戸時代は佐賀藩士の頃から残るとされる大我。気掛かりなのは青前ですね、どこ探しても文献がなく。この辺りはさすがにもう、考え始めたらキリンがない状態。
複層的サンドウィッチ構造と、徹底した時間管理。
舞台がお葬式で始まり、お葬式で終わったこと。観覧注意から脚本が始まり、キャストの次回公演案内で終わった点。あるいは舞台中ダンス練習の模様が三脚マウントiPhoneで撮影されていたかと思えば、本公演全体がミキサー席に鎮座する三脚マウントiPhoneで録画保存されていた事実。主宰は意味もなくキョロキョロする癖があり、こういう仕掛けに気付いてしまう。
つまり我々は最初からずーっと、潤之介さんの術中にハマっていた。尚且つアタマ5分とケツ5分、中盤メメさんと各人の関係を描く時間がキャスト辺り20分弱。5分順延で始まった舞台がキッチリ5分オーバーで終了。もう完璧ですわ、これ以上のタイムマネジメントがあるか。丁度中日のアドリブ合戦を期待してたおじさんが、こうもいなされるか。最高。ごちそうさん。
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(10月初旬、追記)
青前=「ブルータス、お前もか」説が浮上したため、急遽追加稿を打ちました。そうとなれば話が随分変わってくる、つまり登場人物の苗字全てにインターネットミームがあてがわれている可能性すら浮上してきた。事なかれ主義→琴奈→『決戦は金曜日』という読み筋まである。ホンマに潤之介さんはどこまで周到に準備しとんのや、たいへん恐れ入りました。
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