比喩、その跳躍力のすごさに驚く
ルンバをかけるために掃除をするという不毛な生活に終わりを告げたいと願う夏の終わりです。
こんにちは、嫁です。
今、『砂の女』を久しぶりに読んでいますが、あまりにすごくてびっくりしたのでその衝撃を夫にぶつけました。
ちなみになぜ『砂の女』を読んでいるかはこちらです。
◇◇◇
嫁 『火車』読みましたぁ。やっぱり宮部みゆきはすごかった。
夫 へえ、どんな風に?
嫁 人物造形が深い。一筋縄じゃいかない。失踪した人を探す話なんだけど、一人一人をきちんと作り込んでいて、だからこそそれぞれのエピソードがひねられているし、要所要所の台詞もすごく練られてる。あとやっぱりまじめな印象を受けるよね。物語の軸となるキーワードの説明をすごく丁寧にしていてさ。たとえば『火車』だったらクレジット、『理由』だったら不動産。読者としたら本筋が気になっちゃうところなんだけど、それを経ているからこそ作品の重みがぐっと出るんだろうな。
夫 なるほど。たしかに言われてみれば『模倣犯』にもそういう感じはあったかも。
嫁 それで、それでですよ。『砂の女』。これすごいね。
夫 唐突(笑)。どうすごいの?
嫁 もう完璧。文学として、こりゃ小説として完璧だ。むかし、学生の頃に先生が「文学は描写がすべて」というようなことを言っていたけれど、その描写が完璧だと思った。比喩がすごいんだよ、明喩も暗喩もさ。
夫 そうね。テーマとしては短編でもよさそうなものだけど、そこをディテールをぎちぎちに作り込むことで中編として仕上げているよね。そしてそのディテールが徹底してる。
嫁 特にこの部分は最初に読んだときびっくりした。「ただ、声をかぎりに、ありったけの力でわめくのだ。そうすればこの悪夢がおどろいて目をさまし、思わぬ失態をわびながら、彼を砂の底から、はじき出してくれるとでもいうように。」悪夢に人格らしきものを与えて、しかもそれが「おもわぬ失態」をして「わびる」って。この畳みかける感じに圧倒されて何度も一人でつぶやいてたわ。比喩って、この意外性っていうのかな、それがもたらす衝撃、みたいなのがいいんだよね。ガツンと殴られる感じっていうのかな。
夫 そうそう。比喩っていうのは要は言葉の跳躍力であって、安部公房もそうだけど、村上春樹もそれがすごいって言われてるよね。全然結びつかない言葉を使っているのにバチーンって入ってくるっていう。
嫁 それだ。しかも難しい言葉なんて使ってないから読んでる時との時差もない。その瞬間に響くんだよね。解説でドナルド・キーンも比喩の豊富さと正確さについて書いてたし。いやあ、本当に正確なんだよね。
夫 『砂の女』にして正解だったかもね。でも『箱男』もおすすめだから読むといいよ。あと『壁』。
嫁 まあそこは順番だからさ、じゅんばん。ああでも、いい小説を立て続けに読んで心が休む暇がない。
夫 よかったねえ(笑)。
◇◇◇
なにやらはしゃいでいますが、『砂の女』はまだ前半部分。この調子だと、最後までどきどきしながら読めそうです。
はやく読んで次につなげる本を考えないといけないのだけれど、噛みしめて読みたいし、読んだ後もしばらく余韻にひたりたい…
そんな風に思うのです。
そうこうしている間にも、彼らが砂に埋もれてしまうかもしれないので今回はこの辺で!
あ、そうそう、髭男爵の山田ルイ53世の『ヒキコモリ漂流記』が文庫になりましたね。しかも加筆・訂正をした完全版。
著者がweb媒体のTOFUFU(いまはAMに統合)で連載していた「旦那様は貴族」をよく読んでいたので絶賛大注目中です。
天真爛漫な子どもや奥様とのエピソードを客観的かつ冷静に分析し、でも温かく包み込む書き味が心地良くて好きでした。
『一発屋芸人列伝』もゴロウデラックスに出るほど話題だし、これは売れるでしょ!書店の皆様には、文庫の棚だけではなく、新刊・話題書や文芸書の棚にも置いていただきたいところです。売り逃さないで!ルネッサンス!
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