マガジンのカバー画像

佐佐木政治

42
運営しているクリエイター

#詩

神へ捧げるソネット 抄5 #38

神へ捧げるソネット 抄5 #38

佐佐木 政治    1991年8月 かおす 67より

わたしの ほんのわずか頭上
わたしのさし挙げる手を 無の淵にひたし
わたしの髪の森がちょっぴり あなたの栄光で濡れるあたりから
神よ 触れるだけで神聖な あなたの領土がはじまる

もっとみる
神へ捧げるソネット 抄5 #45

神へ捧げるソネット 抄5 #45

佐佐木 政治  1991年8月 かおす67より

あなたが この世の終焉と一緒に 閉ざされることはない
永遠に ぼくらが不安の美学をひさぐ荒野
踏みはずすことのない大地 球の中心にひきつけられた輪廻の楽園
あなたは ぼくらの思考の果てるところ そのすぐ先から始まる領土

もっとみる
神へ捧げるソネット 抄4 #35

神へ捧げるソネット 抄4 #35

佐佐木 政治   1991年4月 かおす 66より

神よ あなたの壮大な名で烟る テアートル
四つの舞台が 互いに翼をさし交わし
それらの峰々から 降りてゆく傾斜は
アナロジーの谷間へと 溶け込んでいる

もっとみる

神へ捧げるソネット 抄6 #48

佐佐木 政治   1992年1月  かおす 68より

所有がひとしきり問われるこの無縁の庭に ぼくらは佇つ
あなたへ問いかける由来もない 断絶の彼方からやってきて
どんな契りや絆が 結べるというのだろう いや
ひょっとしてぼくらの存在は いつも手詰りなあなたの碁盤の石かもしれない

もっとみる
神へ捧げるソネット 抄6 #47

神へ捧げるソネット 抄6 #47

佐佐木 政治   1992年1月 かおす 68より

神よ もちろんあなたにも たったひとつの面輪がなくてはなるまい
あなたがこの世に存在する すべてのものに分ち与えた意味が
そのために失われて問われている 抽象の城へとむらがる
すべてに意味を与えたばかりの非在の証となって

もっとみる
神へ捧げるソネット 抄6 #46

神へ捧げるソネット 抄6 #46

佐佐木 政治   1992年1月 かおす 68より

この世では たったひとつの詩がすでに成就している
完膚なきまでにぼくらのまなざしを集め 非在で構築され
消された意味が鏡の中で神話となる国では
大輪のバラの火の渦が いまも虚空に掲げられたままだ

もっとみる
神へ捧げるソネット 抄5 #44

神へ捧げるソネット 抄5 #44

佐佐木 政治   1991年8月 かおす 67より

生きている限り 詩は書き継がれるだろう
あなたの落度なき沈黙の織布の上に ぼくらの存在が影を落とす限りは
むしろ永い間 あなたの恩寵に気づくことのなかったものが
いま ぼくらの船の羅針儀を あなたの港に向かわせる

もっとみる
神へ捧げるソネット 抄6 #52

神へ捧げるソネット 抄6 #52

佐佐木 政治     1992年1月  かおす 68より

ぼくらの存在は 奇蹟というよりも むしろ危険というにふさわしい
あらゆる可能性を閉ざしながら 絞り出されてくる 一筋の道は
裏打されないもののたえがたい 不安に問われながら
無縁の契機の 粉雪にさらされている

もっとみる
ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#77

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#77

佐佐木 政治

たった一冊の純白のノートのためにこの世はある 
悲しみも喜びも何も持たないこの一冊のノート
このノートに向かうためにわたしたちは昼と夜を持つ

もっとみる
ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#76

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#76

佐佐木 政治

神の恩恵に浴するものたちよ
かれらにとってひもじさや寒さは身の不運とはならない
かれらの翼やたて髪の中に 過去や未来の影が行き交うことはない
思い出や夢を封ずる袋を持たない

なんという狂気 あなたの枝枝は、そのままかれらをなぞる
一瞬の光となって 栄誉の重みにはじけるのだ
そして人間だけが帰ってくる

あなたの栄誉を蹴って 意識の海が立ち騒ぐ渚へと 
過去や未来が忽然と浮上する

もっとみる
ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#75

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#75

佐佐木 政治

神よ あまりにも茂りすぎた網目の中で 過去は霧の中に没し去る
霧の歴史の中で われわれの由来を処刑する 
焚書の血を流し続ける 否決する過去を踏み台として 
身びいきの捏造の空歌が唄われ また果てる

もっとみる
ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#74

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#74

佐佐木 政治

おゝ 燠火の袋よ 人間の形となって燃えている宇宙 秩序が眠る草原
眼と眼が合い、唇と唇が合い、静かに流れ下る感情の瀑布
己の火は意識せずとも われわれはたえず火を持ち歩く
原初の核融合の夢を静かに漲らせて

なんという不思議な秩序 だれもみとらない不思議な静寂
己自身でないものが奏でる音楽 聚なる静寂の包囲
それにも増して 他者であることの栄誉よ

火は火に近づく 火袋が火袋を恋う

もっとみる
ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#73

ミュトスの雨<神へ捧げるソネット>#73

佐佐木 政治

血は静かに皮袋の中に納まっている 
心臓に始まり心臓に果てる血は
われわれの体のページを巡る 
円環軸通は永遠への擬体

言葉の巣をかけるのだ 
巡る血から言葉の霧が立ちのぼる
ほのかな体温を掲げ 岬や湾に灯が揺れる 
摂氏36℃の灯の絃にはいつも
冷たい月がかかっている

火は火をたしかめる 
重ねられる手と手の間隙を走る 閃光の記憶が蘇るのだ
体温計の目盛に浮上するふるさと

もっとみる
神へ捧げるソネット  #71

神へ捧げるソネット  #71

佐佐木 政治

森の頂きに輝くひとつ星から こよいはしきりと言葉が届く
こんな辺境の谷間の枝枝をかきわけて 無縁をかこつわたしの小さな窓辺にさえも
どんなにはるかな距離が その奥に痺れてあるというのだろう
ほとんど虚構としか思えない幻の 夜毎の言葉をたずさえて

言葉は星の実体を残してたえず出発するが たとえその星が消滅したとしても何の責任をも転化されることはない
むしろ神よ あなたの壮大な沈黙が

もっとみる