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私にとっての「書くこと」

会社員として仕事をしていた頃、仕事に含まれるあらゆる作業のなかで一番好きだったのが、メールを書くことだった。

どうしたらすんなりと頭に入ってくるような文章を書けるだろうか、とか、どんな言葉を選べば感じが良いだろうか、とか、この人はここまでしか知らないはずだからここからは丁寧に説明しよう、とか。

読む人のことを色々と考えながらメールを打っている時が、一番集中していた。あ、私、文章書くの好きなんだな、とは、ぼんやりと思った。だからと言って、メール以外の文章を書くことは、なかった。


ある日、仕事帰りに少しだけ年上の上司に「1杯だけ飲みいくか」と誘われて(絶対1杯じゃ終わらないやつだと承知しながらも)、飲みに行った。少し酔っぱらった上司が、「将来なりたい像」について話し出した。ちょうど、キャリアビジョンがどうとかを書類にまとめて会社に提出しなければいけない時期だった。

「キャリアビジョンとかはそういうのはさ、いったん全部置いといてさ。○○は、将来どうなってたいとか、夢とかってあんの?」

そう言って、上司は「俺はとりあえず、アメリカに住みたいな〜」と言った。

「とりあえず、アメリカ住みたい。住んでみたい。マジで憧れる、アメリカ」

あ、そういうレベルの話?と一瞬思ったけれど、あぁ、上司も人の子だな、と少し安心した。大概の人間の欲望は、めちゃくちゃ直感的で単純で、深い理由なんてない。

「で、○○は、何?まーじで、なんでも良いよ」

『んー・・・・本を、書きたいです』

自分でも驚いた。
「本を書くこと」なんて、考えたこともなかった。はずだった。

私の把握している意思とは少し離れたところで、その夢はいつの間に形成されていたようだった。もうちょっと、早く言ってよ。自分で言って、自分で驚いちゃったじゃんか。

「えー、めっちゃ良いじゃん!そういえば○○のメール、読みやすいもんな」

こだわってるの、伝わってたんだ、と思って、少しだけ嬉しかった。少しだけね。その上司、ちゃんと酔っぱらっていたから。きっと、私の夢も、忘れてる。


それから1年も2年も経った頃、私は当時付き合っていた彼氏に、ヒドい振られ方をした。今思い出しても、笑えるくらいの振られ方だった。ここで書くのは勿体無いほどだから、とっておきの飲み会のネタにしている。

ひどく落ち込み、毎日泣き暮れていた時、友人にLINEで相談をしていた。相談も何も、解決策はないので、話を聞いてもらうだけ。

付き合っていた頃から感じていた気持ちのすれ違いや、どうしても拭えない孤独感や、やり場のない気持ち。たくさんの複雑で入り乱れた感情をぶり返しては、傷ついて、傷ついて、を繰り返していた。

あー、もっと鈍感で、バカで、ノーテンキで、どうしようもない人間であれればよかったのに、と思った。あまりにも人の言葉に敏感で、顔色を伺い、一つ一つの言葉を選びすぎ、いちいち傷つく自分が面倒で仕方がなかった。

でも、私はもういい歳で、そんな簡単に人の性格が変わることなんてないこともわかっていた。諦めもついていた。

『私さぁ、小説書こうと思うんだよね』

ふと、ついて出た言葉だった。

『もっと鈍感でありたかった、と思っても、どうしようもないじゃん笑
だからさ、寂しさとか辛さとか孤独感とか、そういうものも全部、「あぁ、感じれてよかった」って思えるようになりたいんだよね』

めんどくさい感情も、繊細さも、全部昇華させたいと思った。
どうせだったら、役立たせてやりたい、と。

「お、いいじゃん。私、さえちゃんの文章好きだよ」

どこで私の文章を読んだんだろう、と思ったけれど、それはどうでもいい気がしたから、聞かなかった。なんかもう、全ての言葉に支えられている精神状態だったから、沁み入った。嬉しかった。


それから何度か、小説を書こうとした。

全く書けなかった。キャラクター設定はなんとなく、イメージができた。ワードにカタカタと打ってみたりもした。でも、ストーリーが全く思い浮かばない。全く。

面白いものが書ける気がしなかった。
あー、別に、小説書けないな、私、と思った。


それからしばらくして、倒れた。休職した。
そして、noteを始めた。


「メール書くの、楽しい」

「本書きたい」

ボロクソな失恋

「小説でも書いてやるぅ!涙」

小説書けない。マジで書けない。

休職

note書いてみようかな

全部が、予測不能すぎた。

私にとっての「書くこと」は、こんなもんなのだと思う。
とても大事で、でもとても気まぐれで、自由なもの。
そして、どんどんとアップデートされていくもの。

言葉に救われて、生きている。
これからも気まぐれに、形を変えながらでも、救ってもらおうと思うよ。

Sae

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