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個人的な体験を掘っていくと見えてくるもの

年末年始を日本で過ごし、常夏の国へ戻ってきました。

2025年、どのように仕事と向き合っていくか、年末年始に考えを深めて目標を立てた方もいらっしゃるかもしれませんね。

私は夫の実家へ帰省中、ぽっかり時間があいたときにこちらの本を読んで、仕事について考えを深めることができました。

デザインやものづくりに携わる人たちへのインタビューを通じて、「自分の仕事とは何か」「いい仕事とは何か」を考えた、「働き方をめぐる探索の、小さな報告書(まえがきより)」。

インタビューが行われたのが1990年代ということもあり、描かれている仕事の環境に若干時代を感じるものの、現代に通じる本質的な内容も多く、示唆に富む一冊だと私は感じました。

この本の中で、私が本づくりにおいて大切にしているけれど、言語化できていなかったことが表現されていたので、今回はその部分をご紹介したいと思います。

自分が感じた、言葉にできない魅力や違和感について「これはいったい何だろう?」と掘り下げる。

きっかけはあくまで個人的な気づきに過ぎない。

だが、そこを掘って掘って、掘り下げてゆくと、深いところで他の人々の無意識と繋がる層に達する。


(中略)

歴代の芸術家や表現者が行ってきた創作活動は、まさにこのくり返しだ。

自我のこだわりではなく、世界にひらかれた感覚をもってその仕事を行えるかどうかが、作り手の器の大きさにあたるのだと思う。

『自分の仕事をつくる』西村佳哲(ちくま文庫)

著者さん自身の、そして編集者である私自身の感覚を大切にして、しっかり掘り下げる。

そうすることで、多くの読者とつながる水脈に触れるコンテンツをつくることができる。

私の本づくりにおける信条のひとつです。

本の中で著者さんが語ることは、N=1の極めて個人的な経験かもしれません。

しかし、その個人的な経験から著者さんが感じたこと、学んだことを深く掘り下げていったその先に、多くの人の心の底に同じように流れている「何か」が見えてくるはず。

同時に、私自身が著者さんの考えや生き方に共感し、原稿を読んだときに心をぐっとつかまれた感覚があったのであれば、その人が生み出すコンテンツは、多くの人の心をつかむ潜在的可能性を持っているはず。

そう信じて、今まで本づくりをしてきました。

こころの実感に触れて、その質を感じとる力能を内的感受性(self sensitivity)と呼んでみる。

ものづくりにはこれが欠かせないと書いたが、つくるものが企画書であれ、あるいは接客にせよどんな仕事においてもこの力は欠かせないだろう。

それがなかったら、自分の仕事に対する判断は常に外から与えられるものに依存してしまう。

一方、多くの人に喜ばれ・共感される成果を形にしている人には、自身の実感に触れるこの力能と同時に、もう一つ、この社会で生きている、他の人々が感じていることを感じる力能。社会的感受性(social sensitivity)とでもいうものが具わっていると思う。

これは、他者の視線や評価を気にすることではない。他者の願いや喜びやつらさを、ともに感じる力だ。

『自分の仕事をつくる』西村佳哲(ちくま文庫)

ああ、まさに……!

私が編集者として常にほしい、磨きたいと思っているのは、この2つの感受性です。

内的感受性を極めていけばいくほど社会的感受性に通じる、ともいえるのかもしれません。

この本の著者さんが書いていらっしゃるように、ものづくり(コンテンツ制作を含む)だけでなく、あらゆる仕事に携わる人に、この2つの感受性は必要なのだと思います。

自分の中に存在していてもなかなか言葉にできていない思いを言語化してくれている本に出会うと、その思いが確かな輪郭を得ていきいきと力を放つような、そんな感覚を覚えてうれしくなりますね。

この『自分の仕事をつくる』という本は、私にとってそういった言葉がたくさん見つかる一冊でした。

デザインやものづくりに携わっている方、日々仕事をする中で自分自身を見失いそうになっている方、顧客の幸せよりも効率重視、売上重視、数字偏重のビジネスに違和感を覚えている方、日頃から「誰でもできる仕事ではなく、 自分の仕事をしたい」と考えている方は、この本の中に「今の自分に響く言葉」を見つけられるのではないでしょうか。

今年の仕事をどうやってデザインしていくか。改めてじっくり考えてみたいと思います。

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