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猫エッセイ

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猫についてのエッセイです。
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#ネコ

迷い猫チョビ

ハチ公の気持ちを思う 戻らない猫の帰りを待つ玄関であの日は、なんだか変な日だった。

いま思い出しても、あまり現実感がないのだけれど、妻もはっきり覚えているし、写真もあるから本当にあった日なのだ、とわかる。

あんなに「いいことをした」気持ちになったのは、生まれて初めてだった。
あの日以降もそんな気持ちになっていない。
つまり、僕史上最高に「いいことをした」気持ちになった日の話だ。

今の家に引

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残された者になるのを前提に猫との日々を楽しんでいる

残された者になるのを前提に猫との日々を楽しんでいる

猫の日である。

昨年末にいただいた質問と、自分の回答を読み返しては、考えている。

<質問>
去年愛猫を亡くし、娘のたっての希望で保護猫を迎えました。今の猫もずっと居てくれるわけではないし、逝ってしまう頃は娘も家にいないでしょうし、乗り越えられる気がしません。乗り越えていくには時間しかないでしょうか?

<回答>
僕は「猫との時間は『幸せの前借り』で、借りていた分は看取ることでのみ返済で

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わかっているのかいないのか

わかっているのかいないのか

なにもかも見透かした目で僕を見る猫の前ではうまく笑える猫の魅力は、わかっているのか、わかっていないのか、わからないところだ。

「猫は、自分の名前を─A:わかっている B:わかっていない」というアンケートを採ったことがある。母数も少なく、これで何かがわかるとは思わないけれど、結果はAが67%、Bが33%だった。ちなみに僕は断然B派だ。「自分に向けて何か言ってるな」くらいはわかるけれど、名前までは認

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知らぬが仏

知らぬが仏

猫が増え消臭グッズも増え続け普通の匂いがもうわからない猫を飼っていて「とほほ……」と思う心のベストテン第1位は、「におい」だ。

結婚3年目に成り行きで田舎に一戸建てを購入した。当初は「無印良品的な」とか「シンプルでロハスでカンファタブルな」とか、そんな野望が確かにあった。猫は4匹しかいなかったし、まだ夢見がちな頃のことだから許してほしい。(そして、4匹を「しか」とか書いている時点で結構普通じゃな

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コップコップ

コップコップ

猫は、高貴で上品な生き物だ。

振るまいも、時に傲慢に見えることもあるけれど、おおむね奥ゆかしく、つつましやかだ。

そんな猫だから、最終電車でよく見る人間のように突然吐くような下品なことはしない。猫が吐くときには、必ず予備動作がある。ある、というか上品であるがゆえに、きちんと周囲に知らせてくれているのだ。(この辺りでお気づきになる方もおられると思いますが、今回は平たく言うと「猫のゲロ」の話です)

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猫と寝床

猫と寝床

右に妻 左には壁 胸に猫 枕元に猫 股ぐらに猫最近、朝晩そこそこ冷えるので、毛布を出した。

寒くなってくると、これまで床や猫タワーで寝ていた寝室組の猫が、ベッドに集まってくる。

寝室組は現在5匹。それもみな重さも幅もある立派なデブ猫である。

要するに、狭い。毎年、寒くなってくると、寝場所の確保が熾烈になる。我が家の基本ルールは「早い者勝ち」。

少し夜更かしをして寝室に行くと、「寝場所が……

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purr

purr

ひざの猫とヱビスを流し込む僕がなかよくのどを鳴らす食卓猫がのどを鳴らすことを、英語で「purr」というらしい。

発音は多分「パー」だ。

少なくとも僕はそう発音しているけれど、確かではない。

イスに座ると、猫はすかさずひざに乗り、丸くなり、のどを鳴らし、いかにも質のよさそうな眠りに落ちていく。この一連の流れはあくまでも淀みなく、心地いい。

この世で一番好きな音は、猫が鳴らすのどの音だ。(「こ

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かすがいだらけ

かすがいだらけ

おたがいに猫優先のこの家に子はないけれどかすがいだらけ20代後半から数年間、社長と2人きりという環境で働いていた。1日中狭い事務所で2人、パソコンに向かって黙々と仕事をしていた。
社長の机と僕の机は向かい合わせでも横並びでもなく、なぜか前後に並んでいて、しかも社長の机は僕の後ろにあった。
社長が背後で「あれ……?」とつぶやけば、それは確実に僕が何かをしでかしたということになる。
背中全体が耳になっ

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いちの一歩

1階に降りていけない猫といて きょうは仕事をサボる気がする我が家には幻の猫がいる。

臆病で2階の寝室だけを行動範囲としているため、僕と妻以外には、ほとんど姿を見せない猫。

それが「いち」(12歳/メス)だ。

いちは寂しがりやで、夜、僕たちが1階に長居すると「まだー? はやく2階に上がってきてよー」と言っているかのように鳴き続ける。

仕方なく僕あるいは妻が、まだ眠くもないのに2階の寝室に

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ネコジェクトX

ネコジェクトX

空腹だ 猫のえさしかないけれど 猫のえさならある 空腹だ(仁尾智)最近、我が家の猫のエサの在庫管理や発注、入荷する銘柄指定まで一任されるようになった。

結婚して12年(当時)になるが、こんなに重要な案件を任されるのは、初めてのことだ。「やってやる」という気持ちになっていた。

猫を飼っていない方にはピンと来ないかもしれないが、いまや猫のエサは味や食感から産地、機能性に至るまであらゆる種類の商品が

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会いたい誰かに会えるなら

会いたい誰かに会えるなら

とても優秀な探偵が、過去に関わった人の中でひとりだけ確実に探し出してくれるとしたら、小学校のときに好きだった子でも、音信が途絶えてしまった友人でもなく、あの女の子を探してもらう。

11年前の今日7月6日。

晩ご飯は駅前の「オリジン弁当」で買ってすまそう、ということになった。
駅前のバスロータリーは、いつも通り多くの車が止まっていたが、運よく弁当屋付近に1台止められるスペースが空いていた。僕たち

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