4月に読んだ本の振り返り
5月ももう半ばまで来たところで書くのがこれか!?と私自身も思わなくもないですが。書きたい時に書きたいものを書くぞ精神で、これからもゆるゆるっと書いていきます。どうぞよしなに。
以前の日記にも書きましたが、4月からシャワー生活改めお風呂にゆっくりじっくり浸かる生活を始めたんです。
そのおかげで本を読む時間が出来た事も影響して、久々にたくさん読めたひと月でもありました。
さらりと振り返ってみます。以下読了順。
01. カールの降誕祭
フェルディナント・フォン・シーラッハ/東京創元社
著者は刑事事件弁護士でもあって、犯罪とそれに関わる事になってしまった人間の生きざまといったものを、事実を淡々と述べる報告書のような文体で書くのが特徴的な作家さんです。
一線を越えるまでの過程に同情を禁じ得ないものがある事を実感する事で自分の倫理観を振り返ったり、公明正大を求められる裁判官ではなく「弁護士」という立場ゆえに遭遇する難しさを突き付けられる場面もあったりで興味深い作品が多く、3月下旬頃から何作か続けて読んだものでした。
本作は3話収録の短編集。薄くて軽い単行本に、三者三様の崩壊と解放が描かれています。個人的に一番印象的なのは『ザイボルト』。時間かけて頑張って拵えた見事な砂のお城を思い浮かべながら読んでた。寄せる波は一度だとささやかなものだけど重なってしまうと、、、という。遣る瀬ないって感じた気持ちに嘘はないけど、それでもそう言ってしまうのは勝手なラベリングを施すようで抵抗がなくもない。
あと表題作のラスト一行に胸抉られました。抉られて読み終えてため息ひとつ。
02. 月の部屋で会いましょう
レイ・ヴクサヴィッチ/創元SF文庫
著者を知ったのは、岸本佐知子さんが翻訳・編集を担当したアンソロジー『居心地の悪い部屋』(河出文庫)に収録されていた短篇『ささやき』がきっかけ。ユーモラスと不穏が混在する読み心地に、他の作品も読んでみたい!と思い立って本作を手にしました。
本作は34話収録の掌編集。創元SF文庫から出ているのも納得というか、奇想天外というか天衣無縫というか、、、なんでこんな設定思いついたんだ??というトリッキーな作品たちが次から次へと繰り出されます。思いつくだけでなくそれを掌編として成立させてるのがすごくて、素っ頓狂な設定や展開で幕を開けても終わりにはしっかり人間の懸命さや切なさを湛えた余韻をくれたりする。
これ好きな人は道満晴明さんの漫画も好きなんじゃないかな。というか私が読みたい。『ピンクの煙』は読みながら道満さんの絵で脳内再生しました。
03. 惑いの森
中村文則/文春文庫
『月の部屋で会いましょう』読了後、満身創痍な気持ちで本棚を目にした時に視界に入って再読。
とっても優しい50の掌編集。
優しいって言葉を使いましたけど、本作には目を背けたい欲望とか足掻く気も失せる絶望もあります。でも独りきりでどこまでも深く沈み込む事で、初めて癒せる孤独だってあるものです。他者がくれる光に胸震えてまた歩き出せる、そんな希望とも同価値のはず。
そうやって織りなされる50話。だからわたしにとってはとても優しい掌編集です。おかげでたまに読みたくなる。
04. 脳のなかの幽霊
V・S・ラマチャンドラン/角川文庫
著者はインド出身の神経科医。脳の損傷で生じた様々な症例を取り上げつつ、脳味噌というブラックボックスな器官の不思議を軽妙な文体で解き明かす事に挑戦する作品です。
いつも思うけど科学者や医者といった理系な方々の文章が詩情を帯びるのは何なんだろう。そういう文体も影響しつつ、頭の中に確かに存在しているけど多分一生目にする事は無いだろう部分に関する話題なのだからそりゃ読んでてわくわくしますよ。なので数年に一度の頻度で再読してますが、毎回新たな発見があるのも面白いです。今回は半側無視の症例のところに書いていた、右脳という直感や創造を司る側であるはずの場所が、矛盾を検出するという理性的な役割を担っているという指摘が興味深かった。矛盾を内包しつつ破綻せずにいられるって、機械には無理な人間ならではのありようだと思う。脳のあり方を俯瞰しながら人間のあり方に想いを馳せる。
05. 八月の銀の雪
伊与原新/新潮社
恋人が推していたので、借りて読みました。本屋大賞にもノミネートされていた短編集。おもしろかった。ひとりの人間の内側には、外側の世界にも匹敵する程の計り知れない未知が広がっているもの。そんな認識を再読したばかりの『脳のなかの幽霊』で新たにした直後だったので、このタイミングでこんな物語に出会うってのも乱読の効用で高揚だよなと実感したり。
知らなかった事を知るのはいくつになっても楽しいし、こういった出会い方が出来たおかげで、単なる情報として通り過ぎるのではなく思い出のように見える光景として自分に根付いてくれているのを、読了からひと月以上経った今振り返ってしみじみと感じる。銀の雪。うつくしい未知。
06. 35歳の教科書――今から始める戦略的人生計画
藤原和博/ちくま文庫
あと少しで35歳になるので読んでみました。過去を振り返る事を通して気付きを得られる、という点では35歳に限らず手に取るべきだと思うけれど、1万時間を5年2か月で計算するなら30歳前後で読む方が良くない?と思わなくもない。30歳は既に似たような書籍が何冊も出ているので、ニッチな部分を狙ったのかもしれないけども。
単行本発売が2009年なのでSNS普及前だし、テレビや新聞とかの部分も適宜現代の最適なものに読み替えるのがおすすめです。身銭を切るボランティアもやりがい搾取ってワードが脳裏にチラついちゃうし。
07. メタ思考トレーニングーー発想力が飛躍的にアップする34問
細谷功/PHPビジネス新書
いわゆる「無知の知」はより精確に言うなら「不知の知」になるという指摘を、『八月の銀の雪』読了直後に読めたのもまた乱読の効用というやつです。知らなかった、無知である事すらも無知だった自分を俯瞰する状態って、地球の内側に想いを馳せたり知ろうとしたりした経験がこれまで全くなかった自分を自覚する事でもあった。
そういった流れでメタ思考の重要性を自覚出来たのは良い経験だったけど、Why型思考の演習問題で解説されていた、相手が言葉にしていない事を徹底的に汲み取る事を推奨するのは納得しがたい部分もある。成人の発達障害が周知されてきたのって比較的最近の話だと感じているけれど、本書の内容が賛美される事に比べるとずっと良い傾向だと思う。
08. 手のひら返し de あっせんなよ ≪内藤哲也のホンネ録≫
内藤哲也/ベースボール・マガジン社
初読が2020年前半で、まだ今ほどプロレスに詳しくない時期だった事をふと思い出しまして。いま改めて読んだらもっと楽しめるんじゃないか手に取ってゆるっと再読。目論見どおりめちゃくちゃ楽しかったのと、ある一点が決して叶えられない過去の望みになってしまった事が切なくなったのとで複雑な心境で読み終えました。
リング上でもリング外でも関係なくファンから見えるところでは常に「プロレスラー」でいるという矜持と、幼少期から培われた筋金入りの「新日本プロレスファン」である点の両方が、素養と天才的なプロレス頭を兼ね備えた肉体に宿った奇跡のような人。内藤さんのプロレスをもっと観ていたい。これからも応援してます。
09. 珪藻美術館 ちいさな・ちいさな・ガラスの世界(たくさんのふしぎ傑作集)
奥修/福音館書店
『八月の銀の雪』の参考文献として紹介されていた事で興味を持った一冊。単なる写真集に留まらず「ガラスアート」作品としての珪藻を、蒐集方法から使用器具まで分かりやすく解説している良書。
あまりにも分かりやすいので、『八月の銀の雪』収録のあの短編を読む前にこちらを読んでしまうと完全にネタバレになってしまうレベル。読了後に読んだおかげで、文字で読んで脳内で思い描いていた想像を保管してくれる面もあったのが良かった。美を目的としない存在を輝かせ愛でるって最高だ。そこに伴う苦労が想像を絶する事実にも恐れ入る。
10. カルト脱出記:エホバの証人元信者が語る25年間の記録
佐藤典雅/河出文庫
書名どおりの内容。当事者ならではの臨場感をもって綴られる筆致に読みごたえがあって終盤は一気読み。読みながら高校時代の同級生を思い出さずにいられなかった…。
著者は振り返って手放す事が出来たけれど、一方で費やした歳月の重みに耐えかねて、抱いた疑問を自ら打ち消し現状維持を選択してしまう人もいる。特に幼少期だと環境も選べないし、家族であっても他人だという認識は大事なんじゃないかな。一番近しい他人。度が過ぎると切り捨てる事を躊躇しなくなるけど、境界がなくなって癒着するよりは健全だと信じている。
11. ひと
小野寺史宣/祥伝社文庫
2019年の本屋大賞第2位になった小説。文庫化を待ってたー!ってすぐに買って読んだ。初読み作家さん。衒いのない文体が主人公の朴訥さと相まってほのぼの読めるのだけど、どん底スタートだし起きる出来事も必ずしも楽しいことばかりではなく。それでも温かい読後感で読み終えたのは、育まれた縁が次の世代へと続いていく様に胸打たれた結果なのかも。
ひとが生きる事って選択の連続でもある。後になって悔やまないでいられるかどうかって結局は他人任せにせず、自分で考えて決めたかどうかという一点が一番重要になるもの。降りかかる悲しみや悪意に対しても言えること。
12. ZOO
乙一/集英社
高校生の頃に図書室で見つけて読んで衝撃を受けた一冊。思い出話をしていたら無性に再読したくなって、でも文庫版だと2冊に分かれている!わたしはあの収録順で読みたいんだ!!って事で単行本を買い直して再読しました。懐かしかったし、小説の読み方や楽しみ方が本作からかなり影響を受けている事実を振り返れたのも面白い読書体験だったな。
内容は、死をテーマにした10話収録の短編集。読書メーターに書いた感想をそのまま引用しますが、先頭から順番に「解放・笑劇・喪失・訣別・安息・観察・独裁・演出・超克・勝負」という多彩な振り幅で魅了してくれるのです。
13. フィツジェラルド短編集
F・S・フィツジェラルド/新潮文庫
あまり沢山読んでいるわけではないけど。それでもフィツジェラルドの作品はほんと、時が過ぎる事とか歳を重ねる事などについて回る不可逆の数々を物語へと昇華させるのがとてもうまいなと思う。『冬の夢』なんてその最たるものだし、それを軽く読みやすくしたのが『乗継ぎのための三時間』、もっとエグい結末にしたのが『金持の御曹司』なんじゃないかな…。特に後者は短編なのに100頁近くあって長ぁ!って感じるけど、読んでみればこの長さが必要だったんだなと分かるというか。
他にも好きなだけではどうにもならない隔たりや、変えられない過去が亡霊のように追いかけてきたりといった「どうしようもないこと」を描く収録作の中に、唯一痛感で前向きな作品の『泳ぐ人たち』という布陣。つよい。
14. gift
古川日出男/集英社文庫
4月のナンバー1作品。初読み作家さんなんだけど、軽やかさと発想の飛距離を見事に両立させてる文章素晴らしかったな…。掌編で肝要なのは「登場人物が生きる人生の一刹那を鮮やかに切り取ること」だと個人的に思っていて、それって例えば写真でやるような事を少ない言葉で表現する手腕でもあって。そんな事を夢と現実のあわいで発揮されたらそりゃ惚れますとも。
とりあえず『夏が、空に、泳いで』が好き過ぎる…。何度でも読みたい掌編集になりました。読友さんに感謝。
15. 本のエンドロール
安藤祐介/講談社文庫
またも初読み作家さん。単行本発売から気になってたんですが、いつのまにやら文庫化されてる!と驚いてすぐ読みました。いわゆる「お仕事小説」というジャンルを普段あまり読まないので新鮮だったな。
物語が作家の手を離れた後、紙の本となって読者に届くまでの間で、自分の仕事を全うする人々。本はこういった人々の矜持の結晶でもあるのだ。
ところで本の装丁に関して我を押し通す人をうわあ、、、という気持ちで眺めたものでしたが、後日読んだサリンジャー評伝で大好きな作家が似たような事やってる事実を突きつけられて閉口しました。彼の場合は編集者からの度重なる裏切りの末だから、必ずしも同列には語れないけれども。
16. 教科書で読む名作 夢十夜・文鳥ほか
夏目漱石/ちくま文庫
いろんな出版社から文庫が発売されていますが、幻想的な『夢十夜』と晩年の随筆『硝子戸の中』が一冊でまとめて読めるちくま文庫版が好きです。
『硝子戸の中』はお風呂に浸かる時のおともにしてたらなんだかんだで2週間ぐらいかけて読む事になった。生命が死へと続いている自覚と、それを迎える時がそう遠くないのだと実感をもって語られる言葉。振り返ったり想いを馳せたり。時を超えて今こうして届いていること。
『夢十夜』は何夜目が好きかを語り合うのも楽しいですよね。そういう私は読み返す度に好きな話が変わります。今回は第七夜の余韻がいまだ残っている。
17. ポー詩集
エドガー・アラン・ポー/新潮文庫
読書メーターにもnoteで言うスキと同じ機能があって、自分が書いた感想に「ナイス」がつくと通知が来るんですよ。で、その通知をきっかけに、3年前に書いた自分の感想をたまたま読む機会があって、無性に再読したくなったのが読み返したきっかけです。書いてから3年も経ったらそりゃ自分の言葉ではないみたいに新鮮に映るってもんだよ。
初読時は、暗闇やそこに溶け込んだ死といった概念が、そういった言葉を使わずに表現されている事に感銘を受けたみたいだけど。今回は詩の中で息づく愛しい人の描写がやけに胸を打つ再読になったのが自分でも意外でした。時が立てば響き方も変わる。良き断章とは長く付き合いたいものです。
18. 雲と鉛筆
吉田篤弘/ちくまプリマ―新書
ひっさびさに吉田さんの作品を読んだ!そして好きを再認識。もともと独自の世界観を作品に託すことに長けている方だけれど、本作は特に小説とも随筆とも長い詩とも呼べる、と同時にそういったいずれかの枠に押し込める行為の無意味さをも実感させられる文章。好きな作家の哲学が落とし込まれた言葉を手元に置けるしあわせを思わずにはいられないな。
スタバでコーヒーを飲むあいだぐらいの時間でさらっと読める一冊であり、そんな中で心ほどけるひとときを与えてくれたりもするのです。生涯の一冊。
以上です。
振り返る事で思い起こせるの、悪くない時間かも。
それにしても「さらりと」と言いつつ結局長くなってしまう…。短く的確なコメントでまとめられるようになりたいものです。
※以下どうでもいい雑談。
先日、水道代の請求書が届いたんですよ。
3月半ばから5月半ばまでの2か月分。
4月1日から出来る限りお風呂に浸かる生活を始めたわけだし、さすがに増えてるんだろうな~快適さと引き換えだから仕方ないよな~~などとある程度覚悟していたのですが。
蓋を開けてみれば前回請求と同額。完全一致。
(これむしろ今までが使い過ぎていた説…?)