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2020年後半に読んだ中で心に残った本10冊+おまけ

こんにちは。
いまだに2021年という響きに慣れないままなんですが、前半と同じく怒涛のように過ぎ去った2020年後半(7月1日~12月31日の6か月間)に読んだ本の振り返りをやってみようと思います。

おうちにいる時間は長かったけれど、終わってみれば一年間の総読了冊数は151冊と、2019年より100冊近く減っていました。
特に後半の減り具合が顕著で、おうち時間の大半をnoteを書く事に使っていた事が影響しています。でもインプットとアウトプットの理想比率は3:7と『アウトプット大全』で読んだのでこれもまたヨシ!と思うことにする。

そしてそれでも後半の半年間の中からいざ10冊を選ぼうとするとなかなかに苦心のひとときとなったので、濃い出会いが多かった半年間でもあったんだなと思えるのが嬉しいです。
・萩尾望都『半神』
・トルーマン・カポーティ『カメレオンのための音楽』
・スティーヴン・キング『書くことについて』

あたりも入れたかったのですが泣く泣く削り、前半同様に小説からノンフィクションまでごった煮な10冊です。

以下、おまけ以外の10冊は読了順に並んでいます。ネタバレだと感じられる表現を含む部分もあるのでご注意ください。


①灯台へ

ヴァージニア・ウルフ/岩波文庫
いつになったら灯台に行くんだ?なんて具合に正直退屈だと思いながら読み進めた事を心底ごめんなさいと思う。いやもうびっくりした。驚かされました。
村上春樹の『風の歌を聴け』を読んだ時にも感じたものでしたが、ひとが思索に耽ったり何かを思い出したりする時ってわりと雑然としているというか、きちんきちんと時系列順であるわけがないのが本当のところなんですよね。そういった「他人の日常」や「他人の思考の断片」といったものを日常的に浴びる事に対して特段抵抗が無いのは、わたしたちがSNSを介してそれにすっかり慣れ切ってしまっているからで。今から百年近くも前に小説という形式でこの作品を書いた著者に素直に敬意を表したいです。あと、それだけでは終わらない続きが待っている事にも。
再読だとまた全然違う風景が見えるはずなので、時間を置いて挑戦してみるつもり。とても楽しみです。


②ボッティチェリ 疫病の時代の寓話

バリー・ユアグロー/ignition gallery
もともと好きな作家で、新潮文庫から出ている掌編集『一人の男が飛行機から飛び降りる』は愛読書でもあります。収録されている149話のうち特に好きな何話かを繰り返し読んでいる状態で愛読書と呼べるのかはひとまず置いておいて。
本作はもう書名に『疫病』とあるので伝わる部分もあるかと思いますが、ひとりの作家が2020年4月という混沌の時をニューヨーク在住者として生きる中で「正気を保つために書いた」掌編が収録されています。
一番長いものでも一話が五ページ、という12の掌編の中には感染とかマスクとかの2020年を語るうえで避けて通れないワードが散りばめられ、寓話として切り取られた世界が広がっています。
好きな作家が同じ時代を生きている事実を作品から感じられる、それを嬉しいと言ったら不謹慎だろうか。どうしようもない事が多かった2020年だけれど、惚れた才能が今この時を確かに生きているのだという躍動を確かに感じたんです。だからこそ2020年を振り返るうえでは決して欠かせない一冊になった。
見つけたらぜひ手に取ってみてください。薄くて軽い一冊の中に、作家の生への希求の切実さが落とし込まれた寓話が詰まっています。


③宮沢賢治の真実

今野勉/新潮文庫
膨大な資料と閃きからの行動力を駆使して、人間・宮沢賢治の足跡を追った傑作ノンフィクション。
思えば国語の教科書で出会った『永訣の朝』は、登場する言葉の意味や書かれた背景、当時の状況といったものを学ぶことが、その詩を読む事とワンセットでついてきたものでした。大人になってからはなかなかそういった読み方をする機会も無く。
心の内などわからないことが当然である認識は間違いではないし、見たまま読んだままを美しいと感じられればその受け止め方を大事にすればいい。それに作品と作者は別だという考えにも変わりはないです。
でも作者の生きた時を丁寧に辿って読み解けば、全く違った景色が見える。その奥行きに唸らされる体験は、自分一人だけの読みでは決して成し得なかったこと。
作者を知る事で作品に深みが出る事も確かにあるのだと思い知らされたし、実際『銀河鉄道の夜』と『春と修羅』は本作のおかげで印象がガラッと変わりました。懸想し懊悩するひとりの人間をたどる、著者の執念の結実。


④掃除婦のための手引き書

ルシア・ベルリン/講談社
24話収録の短編集。このくだりはさっきも目にしたな、何人かいる主人公達の生活が緩やかにつながり合う作品集って事なのかな、ぐらいに考えながら読んでいたので、すべての作品が著者自身の経験を題材にしていると知って少なからず驚きました。区切る時代ごとに様々な姿が現れるから、何人かいると思ったのもやむなしです。波乱万丈そのもの…。
そしてそういった驚きとは別に、突飛ながらも五感にダイレクトに響く情景描写や、述懐を物語にひそむ詩へと昇華させている文章。こういう言葉に出会える事こそ小説を読む歓びと呼んだっていい。
日本語で読んでいるのでこれはもう訳者・岸本佐知子さんの功績でもあります。この一作をこれからも何度でも読んでいくのだ。


⑤ヴォイド・シェイパ

森博嗣/中公文庫
9月のシルバーウイークが終わった後の週末のこと。
ひたすら文章を書いて書いて書きまくる、自分なりのアウトプットに時間を費やす日々を過ごすうち、無性に美しい文章の小説が読みたくて堪らなくなりました。
自分でも驚くばかりの渇望を前に、とりあえず本棚から吉田篤弘の小説『針がとぶ』を引っ張り出して出先のカフェ(文章を書く環境から離れて、の意味)で読んだらもう一気に渇きが癒される恍惚を感じたんです。
そのままの流れで個人的に美しいと思う「小説」を読もうと思った時、真っ先に思いついたのが、森博嗣さんのこの一冊でした。

全部で5巻あるシリーズの一作目で、ジャンルで言うと剣豪ものとなる作品。主人公・ゼンは人里から隔絶された状態で師匠と二人生きてきた侍で、師匠の死をきっかけに旅に出る事になります。
世間を知らぬゼンの視点で進む物語は、常識や慣習に囚われない素直な眼差しを追うことであり、同時に他者との出会いを経て変化していくことや、自分自身の選択の積み重ねが人生を形作っていく様を見届けることでもあります。紛れもなく人間賛歌と呼ぶに相応しい一冊。

ちなみにこの⑤を吉田篤弘『針がとぶ』にしなかった理由は、下記の記事で語りつくしたからです。吉田篤弘はいいぞ。もちろん森博嗣も。


⑥サリンジャー選集(2) 若者たち

J・D・サリンジャー/荒地出版社
2019年に読了した(そして私の中で2019年のナンバーワンになった)ケネス・スラウェンスキーによるサリンジャー評伝『サリンジャー 生涯91年の真実』(晶文社)のおかげで未読のサリンジャー作品をどうしても読みたくなって、Amazonのマーケットプレイスで購入した古書です。
奥付によると今わたしの手元にあるのは2004年発売の新装第9刷だけど、第1刷の発売はなんとまあ1986年だそうで。
当時の言葉で翻訳されているので訳文に違和感があるのはもう仕方ないことです。どうしても気になるなら、新潮モダン・クラシックスから収録作がいくつか被っている新訳版が発売されているのでそちらを読んだほうがいい。

でもそれを抜きにしても、本作で初読みとなった作品たちがどれもこれもサリンジャーらしさ全開でひたすらに嬉しかったのです。『「じき要領をおぼえます」』のお約束感めっちゃツボだ。『できそこないのラヴ・ロマンス』は面白そうだな~~って読み進めていったら唐突に作者が登場するデタラメさに太宰治かよ!とツッコミを入れてしまったし、あと途中の手紙の場面は新潮文庫『ナイン・ストーリーズ』収録の『ド・ドーミエ=スミスの青の時代』の前身といった趣きでグッときました。そして『二人で愛し合うならば』『やさしい軍曹』の一人称な文体は『ライ麦畑でつかまえて』へと続く重要な足跡にも思えて、ファン心をくすぐられまくるという嬉しい驚きもあり。
なんだかんだで一番好きな海外作家だし、もう新作は読めないので既刊を生涯大事に読み続けるのだと思っていたから初めて読む話はそりゃ嬉しいし特別な一冊にもなるってものです。これからも何度でも読もうじゃないか。


⑦AIとBIはいかに人間を変えるのか

波頭亮/幻冬舎
AIは『人工知能』、BIは『ベーシックインカム』のこと。
10万円の給付金をありがたく受け取って使わせてもらった2020年、現金の一律給付って現実的に可能なんだな、、、と実感した事でベーシックインカムに興味が湧いて読んでみたら、BIだけでなくAIに関する章でも気付きが多くて読んでよかったなと思えた一冊です。それこそ緊急事態宣言下でもいつも通り働いてくださってた方々の仕事のほとんどはAIには代替不可能という現実を突きつけられた。
BIに関しては生活保護との比較で本当に困っている人に迅速に届けられる事を筆頭に、どう見ても良い点しか無いように思える制度です。そしてBI導入でただ生きるための労働から解放され、働き手の選択肢が増える事でブラック企業が淘汰される好循環。
実際に導入となると今ある様々な制度の抜本的な見直しが必要になってくるので議論は必要だけれど、現実的にBI導入を俎上に載せてくれる政党が出てこないものかな。とりあえずAIの実際やBIの存在をよく知らないという人もまだまだ多いと思うので、こういった本から広まって深まっていったらいいよね。


⑧グッドモーニング

最果タヒ/新潮文庫nex
新藤晴一さんが話題に出していた事をきっかけに、渡邊十絲子さんの著作『今を生きるための現代詩』(講談社現代新書)を知って読んでみたんですよ。そしたら読み進めている途中で、無性に最果タヒさんのこの詩集を再読したい欲に襲われたんです。
初読は2017年2月で、あの時はまだ受け止め方を掴みきれないまま読み終えてしまっていた自覚があった。でも渡邊さんの新書で日本語で書かれているにもかかわらず音読不可能な現代詩の楽しみ方を読んだ時に真っ先にこの詩集が思い出されて、今の私なら全く違う読み方が出来るかもしれないと期待して。

結論から言うと大正解でした。
当時は多用される改行やスペース、記号の羅列としか思えなかった文章が、言葉や文章であることを超えて、詩人の手によって築き上げられた唯一無二のうつくしい風景に見えるのが自分でも不思議だった。言葉が言葉であることを超越して美しくあるって凄いことだし、だからこそ詩人は開拓者とも呼べるんだろう。
最果タヒさんの本はずっと『死んでしまう系のぼくらに』(リトルモア)が一番好きだったんですが、今回の再読で見事に本作がナンバーワンになりました。今でもときどき本棚から引っ張り出して、適当なページをぱらっとめくって読んだりなどしてます。初読からの時間経過や読んだ経験ごとひっくるめて特別な一冊になってくれた。


⑨日本製

三浦春馬/株式会社ワニブックス
いきなりわたしの話をしますが、以前noteに『行ったことがある都道府県の思い出を写真とともに振り返る』という記事を書いたんですね。
で、この記事を書こうと思いついたのが9月26日の土曜日、大泉学園のタリーズコーヒーで朝ごはんを食べていた時なんです。いいアイデアかも!なんてわくわくして、このあと本屋さん覗いたらすぐおうちに帰って書くぞって気合い入れて、10時になってすぐに上階のジュンク堂書店に行ったらこの本が平積みされているのを見つけたのでした。
雑誌連載の一環で、三浦春馬さんが47都道府県を巡り、47種類の「日本製」とそれらに関わる人々に出会った記録。
行ったことがある都道府県の思い出について書こうと思い立った矢先に47都道府県を訪れた人の本に出会うってなんつー偶然や……と思いつつ、すごく気になったので自分の思い出をnoteにひととおり書き終わってから読みました。

素晴らしい一冊でした。
お醤油、わさび、日本酒、和紙、打ち上げ花火などなどなど、、、全国各地47種類のメイド・イン・ジャパンに携わる人のお話を聞きながら、それらに関するお話を聞いていく。
ほとんどが日頃から馴染み深いものでありながら、どういった工程でつくられるのかを意識した事は全然無かったなぁと思い知らされる読書でもありました。読み進める事が一緒に旅をする事でもあって、知らなかった日本の魅力に出会える事でもあるのが嬉しかった。
今はなかなか難しいけど、本書のおかげで行ってみたい場所や自分の目で見てみたい風景がたくさん増えたよ。いつか携えて国内旅行をしてみたい。

あと、三浦春馬さんのお人柄がすごく表れている一冊でもありました。
聡明な方なんだな…と読んでるこっちにも伝わるぐらい質問や意見が毎回的確だし、人懐っこい笑顔に始まり全身から感情が伝わってくるお写真がどれも本当に魅力的で。ずっと読み続けていきたい一冊です。


⑩自由の牢獄

ミヒャエル・エンデ/岩波現代文庫
2020年前半に読んだ『モモ』がなかなかに衝撃的だったので、ずっと気になっていたこちらを満を持して読んでみました。
削ぎ落とされているのに濃密、という矛盾を両立させる文章表現にじっくり浸って物語を追うことは、全く違う世界に住む登場人物の人生を追体験すること。そんなふうに感じられる読書体験が出来た。それこそ長い旅のような。しかもこれ短編集なので、各話ごとにそういった陶酔を堪能できるという贅沢。
表題作以外の作品も「自由の牢獄」が通底するテーマになっていたように思います。何だって好きに選べる自由は、同時に選び取ったものへの責任と選ばなかったものへの後悔を伴うもの。
自由と隷属のどちらにもついて回る地獄を描いた表題作や、違う視点を得ることで信じてきたものを失う『ミスライムのカタコンベ』が特に印象的です。


おまけ①「とても大切な一冊」と言えば?

12月30日の夜、読友さん(読書メーターで繋がっている人)が「大晦日は大切な一冊へラブレターのようなレビューを書きませんか」という提案のつぶやきをされているのを目にしまして。

ちょうど12月31日はおうち大好き人間の休日として過ごすつもりだったので、読んでそして本気でレビューを書こう!と気合いを入れた時「大切な一冊」として真っ先に思いついたのが、森博嗣さんの小説『喜嶋先生の静かな世界』(講談社文庫)でした。
翌日。起きてお洗濯と大掃除を済ませて、本棚から引っ張り出して一気読み。
わたしは研究職でもないし大学とは縁が無いまま今に至っているけれど。それでも本作に書かれている、人間として生きていくとは、優しいとはどういうことか、などのひとつの答えとして提示されるものの尊さに想いを馳せずにはいられないのです。
書かれた物語は本のかたちでずっと変わらずに手許にあるのに、自分が生き続けているからこそ読み返す度に新たな表情を見せてくれる。

先日「#本棚の10冊で自分を表現する」という記事を書く際にこの本の話も書きましたが、改めて読んで本当に、自分の中で掛け値なしの一冊だと実感した次第。
2020年という特異な一年の最後に、そんなふうに感じるきっかけをくれた読友さんには心から感謝しています。

誰にだってそういう特別な一冊があるものだと思っているのですが。
あなたにとっての、ラブレターを書きたくなるほどの大切な一冊はどんな本でしょうか?


おまけ②すでにnoteに記事を書いているという理由で削った名作たち

・なにかが首のまわりに/チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ(河出文庫)
・セヘルが見なかった夜明け/セラハッティン・デミルタシュ(早川書房)


おまけ③2020年おすすめランキング

ひとに本を勧めるというのはそれだけで「私が勧めた」という先入観を与えてしまう事になるので苦手な行為ではあるのですが、名前を変えられないからやむを得ず毎年この名称でランキングを作成してます。
noteで前半と後半に10冊ずつ選ぶ時は初読・再読問わず心に残った本を選んでいますが、このランキングはその年の初読本から選ぶことにしています。なのでnoteで挙げた20冊+αとはだいぶ異なるラインナップのはず。よかったら見てみてくださいな。



※2020年前半の10冊はこちら。



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