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まいにち易経_1216【欠けるから満ちる:謙が導く均衡の道】君子以て多きを裒し寡きを益し、物を称って施しを平しくす。[15䷎地山謙:象伝]

象曰。地中有山謙。君子以裒多益寡。稱物平施。

象に曰く、地中に山あるは謙なり。君子以て多きをへらすくなきを益し、物をかなって施しをひとしくす。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

易経の中で「謙」という言葉は、物事のバランスを取ること、つまり均衡をはかることの重要性を説いています。具体的には、満ちているものを適度に減らし、足りない部分を補うことを意味します。これは単に物の量を調整するだけでなく、もっと深い意味で人間関係や組織運営、さらには社会全体におけるバランスを指しているのです。

例えば、あるチームで一人のメンバーが非常に多くのタスクを抱えている一方で、別のメンバーは比較的余裕があるとしましょう。この場合、「謙」の精神を持つリーダーは、全体のバランスを見ながら、タスクを再分配することでチーム全体のパフォーマンスを最大化しようとします。こうすることで、メンバー一人ひとりが適切に能力を発揮できる環境を整えることができるのです。

均衡という考え方は、何もチーム運営に限ったことではありません。社会全体の仕組みや、私たちが生きるこの世界の基盤にも深く関わっています。たとえば、自然界を見てみると、動物や植物、さらには気候までもが絶妙なバランスを保ちながら存在しています。このバランスが崩れると、災害や環境問題が発生し、私たちの生活に大きな影響を及ぼします。同様に、私たちが関わる組織や社会もバランスが重要です。特定の人やグループが過度に利益を享受すると、そのしわ寄せは必ずどこかに現れます。だからこそ、「謙」の精神を持ち、均衡を意識した行動が求められるのです。

これからリーダーとしての道を歩んでいく皆さんにとって、「謙」の精神は非常に重要です。リーダーとは、単に命令を下す存在ではなく、組織全体のバランスを見極め、それを調整する役割を持つ人です。あるいは、自分が目立つことよりも、チーム全体が成長し、成果を上げることに注力するリーダーであるべきでしょう。時には、自分の利益や評価を一時的に控えめにすることで、他のメンバーが輝く場を提供することも大切です。これが「謙」の精神に基づくリーダーシップです。

「謙」の精神を持つことは、大きな成果を生むための土台です。しかし、これを実践するためには、まず小さな行動から始めることが必要です。たとえば、日常の会話の中で相手の話をよく聞き、適切なフィードバックを返すこと。あるいは、困っている同僚に手を差し伸べること。これらの小さな行動が、最終的には大きな組織や社会のバランスを取る力となります。
実際、歴史を見ても偉大なリーダーたちは、謙虚さとバランス感覚を持ち合わせていました。ナポレオンやリンカーン、さらには日本の徳川家康も、困難な状況下でバランスを取りながら大きな業績を成し遂げました。彼らが成功したのは、自分だけが目立とうとするのではなく、全体の利益を考え、適切な行動を取ったからにほかなりません。

これからの時代を創っていくのは、皆さんのような若い力です。世界は日々変化し、新たな課題が次々と現れるでしょう。その中でリーダーとして求められるのは、瞬間的な判断力や強い意志だけではありません。むしろ、全体を見渡し、どのようにバランスを取っていくか、どのように「謙」の精神を持って行動するかが重要になってきます。

「謙」という言葉は、単なる謙虚さや控えめな態度を意味するのではありません。むしろ、全体の利益を考え、適切なバランスを取りながら前進する力強さを表しています。皆さんもこれからのリーダーシップにおいて、「謙」の精神を大切にしながら、自分自身と周りを成長させていってほしいと願っています。


参考出典

均衡をはかる
「謙」は満ちているものを欠けさせ、欠けているところを満たすという意味がある。
多いところから集めて少ないところへ益し、物事の全体を考えて施して均衡をはかる。
たとえば、人が必要とするものが余っていたなら、それを集め、足りないところへ回す。そうすることで、社会や組織は安定し、伸びてゆくのである。

易経一日一言/竹村亞希子

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