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まいにち易経_0920【機密を守る:口にするべきでない言葉の真価】乱の生ずるところは、すなわち言語もって階をなす。君密ならざるときはすなわち臣を失い、臣密ならざるときはすなわち身を失い、幾事密ならざるときはすなわち害成る。[繋辞上伝:第八章(60水澤節:初九)]

不出戸庭。无咎。子曰。亂之所生也。則言語以爲階。君不密則失臣。臣不密則失身。機事不密則害成。是以君子愼密而不出也。

戸庭こていを出でず、咎なし。子曰く、乱の生ずる所は、言語以てかいとなす。きみ密ならざればしんを失い、しん密ならざればを失い、幾事きじ密ならざれば害る。ここを以て君子は慎密しんみつにしていださざるなり。

水澤節初九の爻辞には「なか庭から外へ出ないようにすれば、咎なし」とある。孔子はこれについて次のように述べている。
乱が生じる際、まず初めに問題となるのが言葉である。君主が言葉を慎重に選ばず、軽々しく発言すれば、信頼できる臣下を失うことになる。
逆に臣下が言葉を慎重に扱わなければ、その発言が原因で命を落とすこともある。また、微妙な重要事項を秘密にしないと、邪魔が入る可能性がある。したがって、君子は言葉を慎重に選び、むやみに口にしないのである。

ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る

まず、「階」という言葉から始めましょう。これは「段階」という意味です。人生も仕事も、一足飛びに成功することはありません。小さな階段を一つずつ上っていくように、着実に進んでいくものです。

しかし、その過程で「乱れ」が生じることがあります。その原因として、この章が指摘しているのが「言葉」なのです。

言葉の力は、想像以上に大きいものです。例えば、ある会社で新製品の開発をしているとしましょう。その情報が外部に漏れれば、競合他社に先を越されてしまうかもしれません。また、社内でも、適切でない言葉遣いが原因で、チームの雰囲気が悪くなることもあるでしょう。

このように、言葉には大きな影響力があります。だからこそ、私たちは言葉の使い方に十分注意を払う必要があるのです。

では、具体的にどのように言葉を扱えばよいのでしょうか。

まず、「言って良いこと、悪いこと」を区別することが大切です。例えば、部下の良いところを褒めるのは良いことですが、他の人の悪口を言うのは避けるべきでしょう。

次に、「言うべきこと、言わざるべきこと」を見極めることも重要です。時と場合によって、同じ内容でも言うべきか否かが変わってきます。例えば、会議の場で建設的な意見を述べるのは良いことですが、廊下で立ち話をしているときに機密情報を漏らすのは危険です。

このような「節度」を持って言葉を使うことが、リーダーには求められるのです。節度を持たずに言葉を使えば、どのような結果になるでしょうか。

「君主は臣下を失い、臣下は己の身を滅ぼす」と易経は警告しています。現代の言葉に置き換えれば、「上司は部下の信頼を失い、部下は自分のキャリアを台無しにしてしまう」ということになるでしょう。

ここで、歴史上の興味深い例を挙げてみましょう。古代ローマの哲学者セネカは、皇帝ネロの家庭教師でした。彼は優れた思想家でしたが、時に皇帝に対して厳しすぎる言葉を使ったと言われています。結果として、ネロの不興を買い、最終的には自害を命じられてしまいました。これは、言葉の使い方を誤った悲劇的な例と言えるでしょう。

次に、「幾事」という言葉について考えてみましょう。これは「取り扱いが大切な事柄」という意味です。つまり、慎重に扱うべき重要な情報のことを指しています。

ビジネスの世界では、このような「幾事」が数多く存在します。新製品の開発計画、経営戦略、顧客情報など、様々なものが挙げられるでしょう。これらの情報を軽々しく口にすれば、会社に大きな損害を与える可能性があります。

例えば、1990年代に起きた有名な産業スパイ事件を覚えているでしょうか。ある自動車メーカーの機密情報が競合他社に流出し、大きな騒動になりました。この事件は、情報管理の重要性を私たちに強く印象付けました。

また、個人のレベルでも「幾事」は存在します。友人の秘密、家族の個人情報、自分の将来計画など、慎重に扱うべき事柄は数多くあります。これらを不用意に口にすれば、人間関係を損なったり、自分の評判を落としたりする可能性があるのです。

ここで、言葉の力に関する興味深い研究をご紹介しましょう。アメリカの心理学者アルバート・メラビアンは、コミュニケーションにおける言葉の重要性について研究を行いました。彼の研究によると、メッセージの伝達において、言語内容は7%、声のトーンは38%、非言語(表情やボディランゲージ)は55%の影響力があるとされています。

この研究結果は、言葉そのものよりも、それをどのように伝えるかが重要であることを示しています。つまり、何を言うかだけでなく、どのように言うかも非常に大切なのです。

リーダーとして成長していく皆さんには、この点にも注意を払ってほしいと思います。同じ内容でも、声のトーンや表情、姿勢によって、相手に与える印象は大きく変わってきます。

例えば、部下に指示を出す際、命令口調で言うのと、穏やかな口調で言うのとでは、相手の受け取り方が全く異なるでしょう。また、悪いニュースを伝える際も、適切な表情と声のトーンを使うことで、相手の不安を和らげることができます。

このように、言葉の内容だけでなく、その伝え方にも十分注意を払うことが、優れたリーダーの条件の一つと言えるでしょう。

さて、ここまでお話ししてきたことをまとめてみましょう。

  1. 物事には段階(階)があり、一足飛びに成功することはありません。

  2. 乱れの原因は多くの場合、言葉にあります。

  3. 言葉には、言って良いこと悪いこと、言うべきこと言わざるべきことがあります。

  4. 言葉の使い方を誤ると、リーダーは信頼を失い、部下は自身のキャリアを台無しにする可能性があります。

  5. 慎重に扱うべき重要な情報(幾事)があります。これを軽率に扱うと、必ず害になります。

  6. 言葦の内容だけでなく、その伝え方(声のトーン、表情、ボディランゲージ)も重要です。

言葉の力を正しく理解し、適切に使うことができれば、皆さんはより優れたリーダーになれるはずです。部下からの信頼を得、組織をより良い方向に導くことができるでしょう。


参考出典

機密
「階」とは段階のこと。物事の乱れが生じるのは、まず人の言葉がきっかけになる。
言って良いこと悪いこと、言うべきこと、言わざるべきことの節度を持たなければ、君主は臣下を失い、臣下は己の身を滅ぼす。
「幾事」とは、取り扱いが大切な事柄。機密を軽率に口に出せば、必ず害になる。

易経一日一言/竹村亞希子

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