まいにち易経_1202【「徳を広げる静かな波~正しいことを誇らない】世に善くして伐らず、徳博くして化す。[01䷀乾為天/文言伝:第二節(人事)九二]
九二曰、見龍在田、利見大人、何謂也。子曰。龍徳而正中者也。庸言之信、庸行之謹、閑邪存其誠、善世而不伐、徳博而化。易曰、見龍在田、利見大人、君徳也。
ある企業の新人研修に招かれた老易学者が、
未来のリーダーを担うポストZ世代の若者たちに向かって語る
易経には「正しいことを誇らない」という教えがあります。
例えば、皆さんが会社で素晴らしい製品を開発したとしましょう。その製品が大ヒットして、多くの人から賞賛を受けたとします。こんな時、どう感じるでしょう?
多くの人は「やった!」と喜び、誇らしく思うかもしれません。
しかし、易経はこう教えています。
それは当たり前のことをしただけだと。正しいことをしたから、素晴らしい製品を作ったからといって、誇ってはいけないのです。
それは、誇ることで他の人を見下してしまう可能性があるからです。
自分ができたことを誇ると、それができなかった人を責めたくなるかもしれません。でも、そうしてはいけないのです。
日本の茶道には「利休七則」という教えがあります。その中に「花は野にあるように」という言葉があります。これは、花を生けるときに、あまりに技巧を凝らさず、野に咲いているかのように自然に生けなさいという教えです。この教えは、易経の「正しいことを誇らない」という考え方とよく似ています。つまり、どんなに素晴らしいことをしても、それを誇示せず、自然体でいなさいということです。
さて、ではなぜ誇ってはいけないのでしょうか。
それは、誇ることなく正しいことをし続けることで、その徳が自然と世の中に広まっていくからです。
例えば、ある会社の社長が、誠実な経営を行い、従業員を大切にし、社会に貢献する製品を作り続けたとしましょう。
しかし、そのことを大々的に宣伝したり、自慢したりはしません。
すると、従業員は自然とその姿勢に感化され、同じように誠実に仕事をするようになるでしょう。取引先も、その会社の誠実さに感銘を受け、信頼関係が深まっていくでしょう。顧客も、その会社の製品やサービスの質の高さに気づき、自然と支持が広がっていくでしょう。
これが、易経が言う「その徳は世に広まり、人を感化する」ということなのです。
明治時代の実業家、渋沢栄一は500以上の企業の設立に関わり、「日本資本主義の父」と呼ばれています。しかし、彼は決して自分の功績を誇ることはありませんでした。渋沢栄一は、「論語と算盤」という考え方を提唱しました。これは、道徳と経済は両立するという考え方です。彼は、ただ利益を追求するのではなく、道徳的に正しいことをしながら経済活動を行うべきだと説きました。
そして、彼はその考えを自ら実践し続けました。誇ることなく、ただ正しいと信じることを続けたのです。その結果、彼の考え方は多くの実業家に影響を与え、日本の近代化に大きく貢献することになりました。
これこそが、易経が教える「その姿勢と行いが当たり前のこととして世の中に広まり、人々は感化される」ということの実例と言えるでしょう。
ここで皆さんに考えてほしいことがあります。
今の時代、SNSの普及により、自分の業績や成果を簡単に発信できるようになりました。多くの「いいね」をもらうことで、承認欲求を満たすことができます。しかし、易経の教えに照らし合わせると、どうでしょうか。自分の成果を誇示することは、本当に正しいことでしょうか。もしかしたら、それによって他の人を傷つけたり、プレッシャーを与えたりしていないでしょうか。
もちろん、自分の成果を適切に伝えることは大切です。特に、ビジネスの世界では自分の価値を示すことも必要でしょう。しかし、それと「誇る」ことは違います。自分の成果を淡々と伝え、それが他の人の役に立つかもしれないと思ったら共有する。しかし、決して誇らない。そんな姿勢が、本当のリーダーシップなのかもしれません。
また、この教えは自己肯定感とも深く関わっています。正しいことをしたからといって誇る必要がないというのは、言い換えれば、自分の価値は成果だけで決まるのではないということです。たとえ大きな成果を出せなくても、正しいと信じることを誠実に行い続ける。そのこと自体に価値があるのです。これは、現代社会において非常に重要なメッセージではないでしょうか。常に結果を求められ、スピードが重視される現代社会。そんな中で、易経のこの教えは、私たちに立ち止まって考える機会を与えてくれます。
本当の成功とは何か。本当のリーダーシップとは何か。
そして、自分らしく生きるとはどういうことか。
これらの問いに対する答えは、一人ひとり違うかもしれません。しかし、易経の「正しいことを誇らない」という教えは、その答えを見つける上で、重要なヒントを与えてくれるのではないでしょうか。
皆さんが、これからリーダーとして活躍していく中で、この易経の教えを心に留めておいてくださることを願っています。そして、それぞれの立場で、正しいと信じることを誠実に行い続け、周りの人々に良い影響を与えていってください。
参考出典
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