CafeBarDonna vol.7
京都のビール。
その名も〝柚子無碍〟。
この言葉が目に入って思わず手に取りました。
〝ゆうずうむげ〟とは〝融通無碍〟のこと。
考え方や行動にとらわれずに自由であることを意味します。
僕の好きな言葉の一つ。
〝自由〟というのは簡単なようで難しく、楽ちんなようで厳しいものです。
僕たちが〝自由〟という概念を抱いたのは近代以降。
西洋では16世紀から18世紀にかけてのルネサンスと宗教改革によって、中世以来続いた封建制度から解放されました。
日本では明治維新を経て以降のこと。
その多大なる犠牲を伴って手に入れた〝自由〟ですが、果たしてそれは人間を幸福にしたのか?
ということをドイツ人社会心理学者であり哲学研究者のエーリッヒ・フロムが著書『自由からの逃走』の中で問題提起しました。
考えてみれば〝自由〟からの〝逃走〟というのは一見矛盾しそうなネーミングですよね。
誰もが〝自由〟を求めるのに、ユートピアである〝自由〟から逃走するなんて。
ブルーハーツの言う通り、見えない自由が欲しくて、見えない銃を撃ちまくるのがリアルの中に理想郷を求める僕たちの在り方であるのですから。
フロムは〝自由〟によって人間は幸せになったのかという問いについて、ナチスドイツで発生したファシズムに注目して考察しました。
自由であることは耐え難い孤独と痛烈な責任を伴います。
これらの重圧に耐えながら〝自由〟を求め続けることに、多くの人は疲れ果てたのです。
何をすることも〝自由〟であるということは、「何をすべきか」を自分で考え、その上、それら全ての行動には責任が伴うということです。
フロムは自由の重荷から逃れて新しい依存と従属を求めたことがナチズムを生み出したと結論を出しました。
圧倒的な力、刺激的な言葉に共鳴し、従っている方が人間にとっては実は楽なのかもしれません。
ここから汲み取ることができるのは、自分の頭で考えることの大切さ、そして自分の行動に責任を持ち、〝自分自身〟であることに対して勇気を持つことではないでしょうか?
思考停止すると人はあっという間にイワシの群れと化します。
〝自由〟から背をそむければ、すぐに刺激の強い現象に染まっていきます。
僕たちの社会はいつでも次なるナチズムを生み出す可能性を持っているのです。
融通無碍。
伸びやかで晴れやかな〝自由〟のイメージだけでなく、重たく力強い己の精神が無ければ抱き続けることは難しい言葉です。
そういう意味でも、僕はこの言葉が大好きです。
柚子無碍は、そんな〝自由〟の厳しさを感じさせる苦みと渋みを含んだ味わいでした。
麦芽とホップをふんだんに使ったIPAスタイル。
香りには柚子のフルーティな爽やかさが。
ホップの苦みと麦芽のコクが好きなビール党にはたまらない味です。
参考図書:ティムール・ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』、エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』、山口周『武器になる哲学』