【読書ノート】『親友の心得』(『ツナグ』より)
『親友の心得』(『ツナグ』より)
辻村深月著
主人公(私=嵐美砂)には、自分のことをいつも持ち上げてくれる演劇部の友人美園奈津がいた。
高校2年生の秋、三島由紀夫の『鹿鳴館』という演劇の主役のオーディションが、あった。私は当然自分が主役だと確信していたのだけど、どういうわけか、美園が主役に立候補したのだった。私には、その態度が許せなかった。えんげきでは、私には敵わないといつも言っておきながら、抜け駆けのように立候補して、私に敵対してくるということが。
力みすぎた私は、オーディションで落選してしまう。美園の勝ち誇ったような姿を想像してしまい、憎たらしくあもった。
私は、美園を骨折でもさせてやろうと通学路にある細工をしたのだった。人通りの少ない路面に夜間に水を垂れ流して、明け方、路面が凍りついたところで、彼女が怪我をすれば自動的に私が、主役に繰り上がるからだ。
そして、翌朝、美園は亡くなってしまった。
死因は、単なる事故死とされていたのだけど、私は、自分こそが犯人なのだと自覚する。
そして、使者(ツナグ)を通して、美園にコンタクトを試みる。
美園は、私に会ってくれるのだという。彼女に謝りたかったのだけど、切り出すことはできなかった。
物語の主題はなにか?
人間はみんな不完全な生き物だということ。自分のアイデンティティって、本来は他人と関係ないはずなのだけど、どうしても、他人との比較の中でアイデンティティというものを自覚してしまうもので、、他人の方が評価されている姿を見ると、ジェラシーを感じてしまう。
若い頃は特にそうだろうなあと思う。年とった今でも、他人ばかりが評価されている話を聞くと悔しいと思ったりもするわけでね。
ひとそれぞれには、全く別の賜物が与えられているということに気づくことが大事なのだろうと思う。社会人になると、どうしても稼ぎの多い、少ないが、一つの評価の尺度になっていて、生活に密接に関わってくるだけになかなか辛いね。
物語に戻ると、辻村さんの心理描写が、なかなか上手くて、ゾッとしたりできる面白い物語だった。