【読書ノート】『約束された移動』
『約束された移動』
小川洋子著
なかなか、よくわからない物語なのだけどね。
ハリウッド俳優Bが泊まるホテルの客室係が語り手。Bはチェックアウトするたびに、部屋にある1000冊以上の本の中から1冊を盗む。客室係は、どの本が失われたかを探し出し、Bと同じ本を読む。やがて、彼女はBが選ぶ本に共通点があることに気づく。それは、すべて「誰かがどこかへ移動してゆく話」だということ。
Bが盗んだ物語はどんな物語か?
いくつか上げてみた。
①『純真なエレンディラと非情な祖母の信じ難くも悲惨な物語』
ガルシア・マルケス著
14歳のエレンデイラは家火事後、母に男性と関係を持たされ、恋人ウルシーノと一緒に逃げる計画を立てる。テーマは愛、自由、搾取、抵抗、現実と幻想。
②『闇の奥』
コンラッド著
西洋の植民地主義の暗い側面や人間の本性の闇に焦点を当てている。クルツの人格の変化は、過酷な環境下での人間の本性の問題を提起される。
③『怒りの葡萄』
スタインベック著
人間の尊厳と存在の意味を探求し、貧困や社会の不正に立ち向かうトム・ジョードと彼の家族の姿を描いた物語。物語を通じて、人間の尊厳、正義、現実との闘いなどのテーマが考察される。
④『インド夜想曲』
アントニオ・タブッキ著
インドの文化、宗教、歴史、哲学を通じて自己探求と人生の意味を模索する。主人公ロシニョルは友人シャビエルを探す旅を通して、自己の深層と向き合い、読者にも自己探求のきっかけを提供する。
⑤『たのしい川べ』
ケネス・グレーアム著
自然愛と友情の重要性、そして社会階級を超えた絆です。物語は、小動物たちが自然の美しさを体験し、互いに支え合うことから、友情の価値を示しています。また、彼らは階級の違いを越えて友情を育み、社会の階級制度を風刺しています。
⑥『夜間飛行』
サン=テグジュペリ著
主題は、仕事と人生のバランス、勇気と犠牲、愛と孤独。作品は、使命感と人間の尊厳を追求する一方で、それがもたらすリスクと矛盾も描き出している。これは、郵便飛行士の危険な仕事と家族との間の緊張として具現化されている。
⑦『長距離走者の孤独』
アラン・シリトー著
主題は、個人の自決と社会規制に対する反抗、そして真実への憧れ。主人公が自己決定権を主張し、社会の期待に逆らうことで、個々の自由とアイデンティティの重要性を示されている。
『約束された移動』の主題は何か?
「移動」と「変容」なのだと理解した。選ばれた本すべてが物理的あるいは精神的な移動や変化を描いている。この「移動」は、自己探求、自由と抵抗、存在の意味、社会制度の風刺、仕事と人生のバランス、個人の自決といった複雑なテーマと絡み合う。
Bが盗んだ物語が、そのまま、人生なのだということだと思う。
不可逆的に、死に向かって変化していくこと、その変化の中に、その人の人生(物語)があるのだ。
あまり知られていない物語の中に、それぞれに稀少な真剣な人生があるということなのだと理解した。
この不気味な世界観が、小川洋子の世界だなあと改めて思った。