【書評】スタインベックの短編『朝めし』に人生で大事なことが書かれている
ロッシーです。
スタインベック短編集の中の『朝めし』という短編を読みました。
この『朝めし』は、文庫でたった5ページの短編です。
ですので、読むのは本当に朝飯前です(笑)。
『朝めし』はスタインベックの短編の中でも非常に評価が高いようで、アマゾンレビューでも「朝めし」に好意的なコメントが多かったです。
そんなに評価が高いのなら・・・ということで早速読みましたが・・・
いや~いい話でした!
読むと朝めしが食べたくなる、そんなお話でした。原題はBreakfastですが、これは「朝食」ではなく絶対に「朝めし」と訳すのが正解ですね。
※以下ネタバレにご注意ください
あらすじは、非常にシンプルです。
主人公の「私」が夜が明けて間もない頃に田舎道を歩いているとテントがあり、そこでは赤ん坊を抱いた若い女がストーブを焚いて朝食の準備をしています。テントからは、若者と老人が出てきて主人公と「おはよう」とあいさつをします。老人が「私」に朝めしを一緒にどうだと言い、みんなでベーコン、パン、コーヒーを食べます。そして、主人公は彼らと別れます。
これだけの内容なのですが、いいんですよね。
特に、老人が主人公に朝めしをすすめるところが個人的には好きです。
綿つみの仕事をしている彼らだって、それほど金銭的には豊かではないはずです。
でも、そんなことを気にせず、主人公に朝食を一緒に食べようと言うところに、人として大事なことは何なのかを改めて認識させられました。
この一家は、人生における大事なことの象徴なんだろうなと思いました。
赤ん坊を育てること、食事の支度をしてみんなで食べること、仕事をして家族を養うこと、他人に親切にすること。これらが彼らがやっていることです。
もちろん人生で大事なことは他にも沢山あるでしょう。でも、本当に大事な根っこの部分はこれらなんだろうなと思うのです。それ以外のものはある意味余分なものなのかもしれません。
スタインベックはカリフォルニア出身ですが、世界恐慌が始まった後、妻と2人で父親の別荘に移り住んでいます。スタインベックの父は無料で二人にその別荘を提供しました。スタインベックらは生活保護を受けましたが、食料が少ない時でも、友達と食料を分け合っていたようです。
そういう自分自身の経験がこの『朝めし』に反映されているのかもしれません。『朝めし』に出てくる老人は、自分の父親の象徴だったのかもしれません。
私達は、仕事を一生懸命することが善だと考えています。でも、その考えは「仕事をしないとメシが食えなくなる」という不安感から生み出されている部分もあるのではないでしょうか。
でも、もしも仕事を辞めて金銭的に困ったとき、「一緒にご飯食べようよ」と言ってくれる人達ばかりだったらどうでしょう。そんな不安感はなくなるのではないでしょうか。
それを実現するためには、今すぐに誰もがそういう考え方に変わればいいだけです。
それには一銭もかかりません。経済成長もGDPの増大も資産運用も不要です。
でも、それは理想論であって、現実には難しいです。いまのアメリカで、本書のようなシーンが成り立つのだろうかと思いますし。
それでもスタインベックがこういう短編を書いたのは、
「人生で大事なことは、朝めしを美味しく食べられること、そして人に親切にすること!」
というメッセージを伝えたかったのではないでしょうか。
え?人生で大事なのはお金?
現代のアメリカ人ならそう言うかもしれませんね。古き良きアメリカを感じられる短編でした。
朝食をとらない人にもぜひ読んで欲しいですね。収録されている他の短編も面白いですよ。
あ〜、ベーコン、パン、コーヒーの朝めしを食べたくなってきた~(笑)。
最後に一言。
「新潮社さん、本書の文字サイズがかなり小さいのでもっと大きくしてください。読んでいてしんどいです。」
最後までお読みいただきありがとうございます。
Thank you for reading!