顧客接点体験によるブランディング戦略
[要旨]
スターバックスコーヒーは、競争力を高めるために、時間と費用をかけて人材育成を行なっています。これは、同社は顧客に想像以上の接客を行うことを戦略としているからです。したがって、それを実践するために必要な人材育成を遂行することが、経営者の重要な役割ということができます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、慶應義塾大学大学院特任教授の高橋俊介のご著書、「人材マネジメント論-儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント」を読み、私が気づいた部分について述べたいと思います。高橋教授は、価値創造が重要であり、そのためには人材育成が必要と述べておられますが、そのひとつの事例として、スターバックスコーヒーの顧客対応を紹介しておられます。「あるスターバックスコーヒーの店で、ひとりのお客様が誤って、別の人のオーダーしたコーヒーを持って行ってしまったことがあった。
それに気づいたアルバイトの女性スタッフは、すぐさまそのお客様のところに走って行って、コーヒーを間違えた事実を告げ、同時に、注文通りのコーヒーを渡した。ところが、そのお客様は、すでに先のコーヒーに口をつけた後だったので、たいへん恐縮して、その代金も払うと申し出た。しかし、その女性スタッフは、それを固辞し、笑顔で『せっかくの機会ですから、2種類の違う味をお楽しみください』と言ったという。思いもかけない言葉に、このお客さまがたいへん感激したのはいうまでもない。もし、この女性スタッフが、マニュアル通りの接客しか教わっていなかったとしたら、こんな気の利いた応対は絶対にできなかっただろう。
こういう対応のできるスタッフが、どの店にも揃っているからこそ、スターバックスコーヒーは、顧客接点体験を重視したブランディング戦略をとることができるのではないだろうか。これは、見方を変えれば、こういうことが自然にできる組織をつくるために、会社が長い時間と莫大なお金を費やして、独自の人材マネジメントをやってきた成果ともいえる。だからこそ、他社にはそう簡単にまねのできない優位性を保っているのだ」(45ページ)
この女性スタッフの臨機応変な対応ですが、これは、単なる個人的なスキルによって作られた美談ではなく、会社の人材育成によって実現された、会社の意図通りの接客であったと言えるでしょう。すなわち、そういった対応そのもの(顧客接点体験)を商品にしようとしているところが、スターバックスコーヒーの戦略であり、それを実践できていることろが同社の強みになっているのでしょう。
さらに、これに関して私が感じたポイントは、女性スタッフに、「自分は会社から信頼されている」と認識できていることだと思います。彼女は、顧客からの2杯分のコーヒー代を払うとの申し出を、即座に断っています。このような判断は、一般的な飲食店のスタッフが行うことは、なかなか難しいのではないでしょうか?それにもかかわらず、彼女にそれができたのは、彼女が、自分の判断は必ず会社が支持してくれると信じているからでしょう。こういった、職場風土の醸成も、価値創造には重要な要素だと思います。
2022/10/2 No.2118
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