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顧客に対してリーダーシップを発揮する

[要旨]

顧客重視の事業を実践するには、従業員の方が、顧客に対してリーダーシップを発揮することが必要になります。そこで、経営者は、単に、「顧客を重視しなさい」と指示をするだけでは、顧客重視は実践されず、顧客重視を実践するための具体的な活動内容を明確にし、さらに、従業員の方が顧客に対してリーダーシップを発揮できるようになるためのスキルを習得してもらう必要があります。

[本文]

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科特任教授の高橋俊介のご著書、「人材マネジメント論-儲かる仕組みの崩壊で変わる人材マネジメント」を拝読しました。高橋教授は、事業活動において、顧客重視を実現するには、人材マネジメントを欠かすことができないと、同書で述べておられます。「顧客を定義し、意識することは、当然、顧客重視という姿勢につながるが、顧客のいうことなら、どんな無理難題でも引き受けることが、顧客重視の意味するところではない。

もちろん、そういう顧客重視もあるにはあるだろうが、いまという時代を考えると、むしろ、商品やサービスの提供者が、顧客に対してリーダーシップを発揮することこそが、顧客重視の本質であると考えた方が、的確、かつ、効果的だと思われるのである。(中略)差別化を図るというのは、そういう前提条件を、すべてクリアした、自社の商品やサービスに、さらに、プラスアルファを加えるということに他ならない。問題は、その、プラスアルファが何かは、顧客にはわからないというところにある。

だから、顧客のいうことに、片っ端から応えていくだけでは、顧客が本当に欲しがっている『何か』には、辿り着くことができないのであって、これでは顧客重視とは言い難い。顧客が求めているのは、『それはこれじゃないですか』、『こうすると、もっとよくなりますよ』と、それこそ顧客が思いつかないことまで、先回りして考え、教えてくれる売り手なのだ。これが、顧客に対してリーダーシップを発揮することであり、顧客の視点で先回りして考えることができて初めてその会社は、『顧客を重視している』と、言えるのである」(26ページ)

現在は、かつてのように、製品を生産すれば売れるという時代とは異なり、ライバルも性能の高い製品・サービスを提供していることから、製品・サービスをどのように提供するかが、競争に勝つためのポイントになっている、すなわち、マーケティング志向の時代になっているということは言うまでもありません。したがって、あらゆる事業活動において顧客を重視しなければならないことは当然なのですが、この、「顧客を重視すること」とは、具体的にどういうことなのか、多くの経営者のが口にする割には、あまり明確にはなっていないと、私は感じています。

その、顧客重視のひとつの考え方は、高橋教授のご指摘されるように、「顧客に対してリーダーシップを発揮することである」と、私も考えています。でも、経営者の方が、部下に対して、「顧客を重視するために、顧客に対してリーダーシップを発揮しなさい」と言っても、それは、すぐには実践することはできないでしょう。自社の提供する製品やサービスについて、従業員の方は顧客よりも詳しいとはいえ、先回りして提案をするというスキルは、一朝一夕では習得できることではないでしょう。

そこで、高橋教授も人材マネジメントが必要になるとご指摘しておられるわけですが、そうであれば、顧客を重視するには、単に、経営者の方が従業員の方に対して、「当社の基本方針は、顧客を樹脂することだ」と伝えただけでは、それは実現しません。そして、高橋教授の言いう人材マネジメントには、単に、マネジメント活動に限らず、人材育成や組織開発のための活動も含まれていると、私は考えています。したがって、顧客重視のためには、まず、従業員の方が、顧客に対してリーダーシップを発揮できるようになるための人材育成を、経営者の方は、行わなければなりません。この観点は、意外と見落とされがちだと、私は感じています。

2022/9/29 No.2115

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