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ショートストーリーまとめ

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私が紡いだ小さなお話たち。
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凍星の約束|ショートショート

凍星の約束|ショートショート

※このお話は『みんはいアドベントカレンダー』に寄せられた作品の中からいくつか選び、繋いでひとつのストーリーにしたものです。

「そっか、今日はクリスマスイヴだったっけね」

僕が慌てて買いに出たらもうどこも売り切れで、ようやく見つけたそれはコンビニの半額ケーキだった。

彼女はそのシールを何かの儀式のように、丁寧に剥がしていく。その度に透明なフィルムが蛍光灯の光を捻じ曲げ反射する。まるでこの世に闇

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マフラーに|掌編小説

マフラーに|掌編小説

マフラーに手袋。
それだけを置いて、
きみは部屋からいなくなった。

行くところのないきみがどこにいったのか、まったく見当がつかない。縋るようにアドベントカレンダーの引き出しを開けると、そこにはキャンドルのクッキーが入っていた。

都会から、雪で覆われたこの地へ財布一つでやってきたきみは、まるで心を置いてきたかのように表情がなかった。おそらく何かから逃げてきたのだ。心を失くしてしまうような何か..

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おかしなスノーマン|毎週ショートショートnote『山岳フリマ』

おかしなスノーマン|毎週ショートショートnote『山岳フリマ』

「入るでー」

勢いよく玄関のドアが開いたと思うと、大きなスノーマン☃️が姿を見せた。

「ちょっ..!えっ..なに.⁉︎」

呆気に取られているうちに、雪だるまはズカズカと入ってきて炬燵に座り込む。溶けない、のか..?いや、今気にするべきはそこじゃない。

「スマンな、あんまりにも寒くて…きみ、この前山岳フリマで森のアドベントカレンダー買ったやろ?んで今日入ってたスノーマンのフィナンシェ、食べた

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赤いてぶくろ|みんはいアドベントカレンダー🎄

赤いてぶくろ|みんはいアドベントカレンダー🎄

自分ハ自分ガ好キデ好キデタマラナイ..

私は、私が大嫌いだ。

この場所にいたくなんかない。

私なんてこの世界にはきっといらない。

友達はきっと私じゃなくたっていいし、
彼女はきっと私じゃなくてもよかった。

今日は12月3日。

もうこの部屋に来ることのない彼氏と買ったアドベントカレンダーは、まだ玄関に置きっぱなしだった。どうせお菓子でも入っているのだろう。開けてみると、見覚えのある赤い手

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松ぼっくりのお布団|掌編小説

松ぼっくりのお布団|掌編小説

「お母さん、どうしてうちには、サンタさんこないの?」

「サンタなんているわけないじゃない。あんなのただの作り話よ」

「でも、でも、お友達のハルのうちには、去年来たって..」

「夢みたいなこと言ってないで、早くお手伝いしてちょうだい」

ヨルは、しょんぼりとして森に出かけていきました。

ヨルは、松ぼっくりの子。

ヨルの家には、お父さんはいません。ヨルがお母さんを手伝って、なんとか2人で暮ら

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ボンゾーの秘密|掌編小説

ボンゾーの秘密|掌編小説

僕の名前は、凡造。
ボンゾー、って読む。
めずらしい名前でしょ?

実は僕は忍者の末裔で、
本当の苗字は服部っていうんだ。

今の時代、忍者は存在しないことになってる。
本当の名前は、服部半蔵の名を受け継いで「半蔵」っていうんだけど、普段は「凡造」を名乗るようにしている。これは、幼馴染みの沙綾も知らないことだ。

沙綾の家は、昔でいえば華族のお姫様。
今はそんな身分もうないってことになってるけど、

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風を治すクスリ|毎週ショートショートnote

風を治すクスリ|毎週ショートショートnote

🍄今週のえのき占い🍄

ん?当たると評判のえのき占い、今週は不吉なことが書いてある。クリスマスケーキか…でも、まだクリスマスには遠いんだけどな。

今日は12月4日、アドベントカレンダーにはクリスマスケーキ型のクッキーが入っていた。ふむ、お薬ってこれのことかしら?

バイト先にいくと、ひとつ年下の悠真が「イブの日にケーキ売らなきゃいけないなんてひどいっすよ、オレ付き合いたての彼女いるんすよ」と

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ひとりぼっちのもみの木|掌編小説🎄

ひとりぼっちのもみの木|掌編小説🎄

ある雪山に、一本のもみの木がありました。 

周りの木はみんな誰かのおうちに連れて帰ってもらえたのに、その木だけは誰にも見向きされません。

あっちの木より、背が小さかったから。
そっちの木より、葉っぱが少なかったから。
向こうの木より、幹が細いから。

他の皆は今頃、暖かな家の中で綺麗な飾りを付けてもらい、楽しく過ごしていることでしょう。

もみの木はポロリと涙をこぼしました。

「つめたっ」

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無人島生活福袋【毎週ショートショートnote】

無人島生活福袋【毎週ショートショートnote】

クリスマスなんて、嫌いだ。
サンタなんて、大っ嫌い。

僕の家にはお父さんがいない。
だから、サンタはこない。

友達が「サンタなんていないに決まってんじゃん。父ちゃんがこっそり置いてくの見ちゃってさ」

ウザそうに笑うその顔を見て、
僕は椅子をガタッと蹴った。
奴らはピタリと黙り込む。

僕は足早に教室を後にした。

家に帰ると、玄関にアドベントカレンダーが飾ってある。仕事で忙しい母が、僕が寂し

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それでも地球は曲がってる。

それでも地球は曲がってる。

吾輩の名前は、リュウキュウジュウサンホシチビオオキノコムシという。

日本で一番長い虫の名前らしいが、案外気に入っている。ちょっと長いからリュウとでも呼んでくれ。

我々の生態はあまり知られていない。
我々は木を好んで食べているが、時折赤い実を食べると別の生き物の体内に転移するのだ。

吾輩は意識を保ったままその体を操ることができる。持ち主の意識は深く眠ったままに。

とある夜、吾輩は全く動けない

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うたすと2【Simply】|絵本ストーリー

うたすと2【Simply】|絵本ストーリー

こちらの曲からの二次創作です。

歌詞 : 八神夜宵さん

曲・歌 : 大橋ちよさん

仲良しの二人は、何をするのもいつもいっしょ。

朝起きるのも
歯を磨くのも
顔を洗うのも
学校にいくのも
お弁当を食べるのも
お昼休みに遊ぶのも
家に帰るのも
寝るまでおしゃべりするのも
ずっとずっといっしょ。

ある日、

ひとりがみんなの輪に入って、ポツンとなった。

ぼくも..

でも、みんな背中を向けて

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繋ぐ者【秋ピリカ】

繋ぐ者【秋ピリカ】

「生きるって、どういうことだと思う?」

そう口にすると、彼女は視線を落とした。
先程まで絡めていた指はもう熱を失っていた。

「そんなこと、わっちに聞くかえ?客を取って、明日のおまんまの金を稼ぐ。遊女なんて、食いっぱくれないように今日を生きてくのに精一杯さ」

彼女は起き上がり、煙管に火を付けた。

「そういうお前さんはどうなんだい?」

「そうだな..歪んだ結び目を解いて、また紡いでいく、って

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風の色【シロクマ文芸部】

風の色【シロクマ文芸部】

風の色が見える、と少年は言った。

人々は少年を嘘つきだと罵った。
ある人が纏う風は浅緋色であり、またある人は鼈甲色であり、向こうの人は青丹色で、あっちの人は黒檀色だといった。人々は子供の戯言と相手にしなかった。

黒檀色と言われた人が次々亡くなって、少年は死神だと恐れられ村を追い出された。みなしごだった少年は本当の親を探すことにした。

森の中を歩いていくと1匹の狼に会った。銀色に光る大きな狼が

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モンブラン失言【毎週ショートショート】

モンブラン失言【毎週ショートショート】

『師匠!待ってください..

僕はもう足が、足が..!』

師匠は振り向きもしない。

『限界を越えたその先に、進むべき道があるのじゃ。儂が最後に教えられるのは..モンブラン失言に気をつけるんじゃぞ』

師匠が命と引き換えに教えてくれるもの。僕はそんなのいらないって突っぱねた。モンブラン失言?そんなものより、僕はずっと師匠の側にいたかった。

ぬかるみに足を取られても、ひたすら前へ進んでいく。どれ

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