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無知と野心こそ悪の根源なり(第二説教集21章5部試訳) #200

原題:An Homily against Disobedience and wilful Rebellion. (不服従と反乱を戒める説教)

※タイトルと小見出しは訳者によります。
※原文の音声はこちら(Alastair Roberts氏の朗読です):
(10分26秒付近まで)




第4部の振り返り~悪魔を避けよ

 君主へのあるべき服従についての教義と実例をお話したうえで、わたしは前のところで反乱が神と人間に対する極めて忌むべき罪であり、どれほど恐ろしい災厄や罰や死が永遠の死とともにあらゆる反逆者の頭上に降りかかるかをお話しました。反逆者とはどのような者たちであるかを、また反乱の起こりである悪魔が臣民に対し、正統の君主に反乱を起こすようにとかき立てるのは何をもってであるのかをここでお話するのはもはや不要ですし意味のないことであると思います。その悪魔を知り、悪魔とその忌むべき示唆を遠ざけ、またあらゆる反乱を避け、すべての反逆者に定められている恐ろしい災厄やおぞましい死や永遠の破滅を受けないようにするべきです。

悪の根源は無知と野心である

 ご存じのとおり男にも女にも同じくらい多くの悪徳があります。反乱には多くの原因が考えられますが、ここでは世でよくみられている主な例にのみ触れます。それは野心と無知です。野心という言葉によって言いたいのは、神が定められたところより高いところにありたいとする人間の不法にしておこがましい欲望です。無知という言葉によって言いたいのは、技芸や学問の足りなさではなく、神のみ言葉にある神の祝福についての知識のなさです。すでにお話しているとおり人間はこの知識をもってあらゆる悪行の根源としての反乱をすべて大いに憎み、あらゆる善性の起こりであり根底となる服従に喜びを見いだすことができています。これら二つが反乱の主な原因であり、人間には二種類いるということになります。それはこのような悪徳を持つ者と、悪徳の始まりである悪魔によって不服従や反乱を起こすように唆される者です。

野心を持つ者は無知な者を捜す

 おこがましい野心をもって、ある手段かまた別の手段によってその意図する目的に達しようとするとき、彼らは合法で平和的な手段で望むものにたどり着くことができないので、そこに力や暴力で達しようとします。彼らは正統の君主や政府が持つ権威や力に対抗することができないので、たくさんの無知な人々の助けを求め、その人々を自分たちの邪な目的のために利用します。野心や悪意のある少数の者が頭目となり、多くの無知な人々がその配下にあって反乱に加わるときに反乱を起こす者にとって肝要であるのは、誰が騙されやすく無知であるかということです。そのような人々にはおこがましい野心を持つ者の示唆に注意してそこから逃れるようにと説く必要があります。野心を持つ少数の者によって引き起こされる反乱は、多くの人の加勢がなければたいした労力や危険や被害を伴わなくても、ほどなくして容易に鎮圧され霧消します。

聖書を読んで使徒の行いを知るべし

 あらゆる歴史をひも解いたり、日頃の経験から考えたりすれば明らかなことがあります。誰も皇帝や王など君主の上にあろうとしたり、有害にも無知の人々を君主に対する反乱にかき立てたりはしていないということであり、決して霊的にとらえられる方に反抗しているのではないということです。しかし、わたしはここでみなさんにはっきりと言っておきます。善良なるみなさん、救い主キリストと、あらゆる霊的な人々のうち最も霊的である聖なる使徒たちが、決して最良とは言えない統治者であった当時の君主や支配者に対してどのように振る舞っていたかとについての神のみ言葉を思い出しましょう。彼らはキリストに従う真の弟子であり使徒であって、真に霊的な人々でした。彼らが野心をもって高いところを志していたか、悪意をもって説いていたか、あらゆる肉的な行いの中で最も悪く道に外れた行いである正統の君主に対する反乱を有害にも説いていたかについて、みなさんが無知であるということはないはずです。

使徒もキリストも世の権力に従った

 聖書にはっきりと書かれていることがあります。救い主キリストご自身と使徒である聖パウロと聖ペトロが、他の人々とともにこの世を治める行政官など高い権力を持った人々に対して服従していて(マタ17・25、マコ12・17、ルカ20・25)、これと同じような服従を君主などの統治者に対して持つように他のすべてのキリスト教徒に説いたということです(マタ27・11、ルカ23・3、ロマ13・1~2、一テモ2・1~2、一ペト2・13~14)。したがって、彼らを継ぐ教会の牧師など聖職者は誰よりもまず君主に服従を向けるべきであり、その服従を持つようにと人々を説くべきです。救い主キリストはまた、ご自身の口からご自身の王国がこの世にはないということを説き(ヨハ18・36)、喩え話をもってご自身を王としたであろう人々から離れ(同6・15)、この教えを確かなものにしました。さらに使徒たちにも、また使徒たちによって牧師たちにも、国家や人々に対して君主のように振る舞うことを禁じられました(マタ20・25~26、マコ10・42~43、ルカ22・26)。キリストと使徒はともに、特に聖ペトロと聖パウロがそうであったのですが、教会のあらゆる聖職者がキリストの教会を統べることを禁じました(マタ23・8、ルカ9・46~48、二コリ1・24、一ペト5・3)。

教皇は野心にとりつかれた

実際に教会の聖職者はキリストのみ言葉で定められている秩序の中にあって、キリスト教国においては聖書で説かれているようにその君主に服従するべきです。キリストの教会に野心をもった衝突や争いがなければ、キリスト教国には騒動や反乱はないということになります。しかし支配への野心や欲望がいったん教会の聖職者の中に入るとどうなるでしょう。彼らの偉大さは救い主の教義や喩えに慎ましくあるところにあるはずなのにです。神のみ言葉の秩序から、ひとつの司教区や教区を越えて治めることはできないというのに、ローマの教皇は救い主キリストの教義や喩えをまったく無視しています。自身が聖なる使徒であるペトロの後継者でありその代理であるという、自身の法典に書かれていることを持ち出しました。世界中にある教会すべての長となるのみならずこの世のあらゆる王国の長となるという、鼻持ちならない野心によってみ言葉に反しました。野心が入り込んで、つまり反乱によって、ローマ教皇は救い主キリストの王国である教会とあらゆるキリスト教国との破壊者となり、その上に君臨する暴君となりました。

教皇の野心がキリスト教界を乱した

 このような反乱が為されるまでは、すべての国のキリスト教徒の間に大いなる友愛や敬愛があったのですが、やがて教皇やその仲間である聖職者と、東方のギリシアの聖職者やキリスト教徒との間に抗争や憎悪が起こりました。彼らは教皇が自分たちに対する高い権威を有していることを認めたくありませんでした。教皇はほかでもないこの理由のゆえに彼らを分離主義者と名付けた上で彼らを迫害し続けました。ギリシアに教区を持っていた教皇は自分の手下に、その土地の君主に対して反乱を起こすように命じ、結果としてキリスト教国の君主たちの間で恐ろしい憎悪と残酷な戦争が起きました。教皇の手には帝国それ自体があって、ギリシアやローマから他の西方のキリスト教国の君主たちにまで皇帝の称号を授けたので、ギリシアの皇帝たちに対してよりも西方の皇帝たちに対して好ましい存在とはなりませんでした。教皇は西方の皇帝に対して為された忠誠の誓いから勝手にその臣下を離れさせ、不法にも臣下を君主への反乱へとかき立てました。いわば教皇によって、息子から父に対しての反乱が起こされたのです。あらゆる国のキリスト教徒の君主たちの間で極めて残酷で血塗られた戦争が起こり、無数のキリスト教徒がキリスト教徒の手で無残にも殺害されました。これに加えて、あまりにたくさんの信仰深い都市や地域や国家や王国が、アジアでもアフリカでもヨーロッパでも無残にも失われました。キリスト教界で最も華やかであるとも言えるギリシアの帝国や教会がトルコ人の手に落ちて悲惨にも崩され、キリスト教界が嘆かわしくも犯され滅ぼされました。異教の恐ろしいほどの伝播と不信仰者の席巻はすべてひとえに教皇の扇動によるものですが、このことは教皇に追従する者が残した歴史書のなかにもあり、この歴史書を読んだことのあるすべての人々によく知られていることでもあります。

教皇の野心が世の反乱をかき立てた

 教皇の野心的な意図と極めて小賢しい細工はその大胆な行いによってはっきりとわかります。イタリアで、ロンバルディアで、シシリーでみられたことです。帝国にかつてから属していた町や都市や国家や王国を皇帝から取り上げ、そこを教皇の下にあるものとし、その土地に馴染みのない者を遣わしてそこをローマの一部とし、「イン・カピタエ」であるとして今日においてもその大部分に聖職者を送り続けています。教皇は聖職者であり教区や司教区を越えてまで統治する権限などないのに、このように野心的で実に背信的な手段をもって当地の君主を廃しました。偽りの簒奪によって多くの国家を統治して強力な暴君となり、もとからいた重臣などの臣下を従えて皇帝となっているのですが、このことも彼らの仲間や追従者が残した歴史書に書かれています。実に教皇は野心と悪逆と簒奪によって世俗の高い地位にあるようになったときから、聖職者としての教皇と自称するところの霊的な立場にある者というよりは、君主か王か皇帝のように振る舞うようになりました。教皇は自らの君主である皇帝だけでなく、キリスト教界にある他国の王や君主を操り、すでにお話したように、その臣下に忠誠の誓いを破らせ、正統の君主に対する反乱を起こさせています。

まとめと結びの短い祈り

 すべての善良な臣民よ、悪魔が反乱を起こさせようとして持つこの特別な手法や手段をよく知りましょう。そこからも、外国から来る簒奪者の有害な言葉からも、彼らの一味からも遠ざかり、神と正統の君主への服従を堅く持ちましょう。あらゆる平和と平安と平穏において、神の祝福と君主からの恩顧を享受し、救い主キリストを通して、来世における永遠の命を手にしましょう。父なる神によって、救い主イエス・キリストの功績により、それはわたしたちすべてにもたらされます。聖霊とともに、神にすべての誉れと栄えがとこしえにありますように。アーメン。



今回は第二説教集第21章第5部「無知と野心こそ悪の根源なり」の試訳でした。これで第5部を終わります。次回はいよいよ第6部の解説をお届けします。最後までお読みいただきありがとうございました。

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