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2014年8月の記事一覧
サボテンの日(短編小説/1141字)
目覚めると隣のベッドはもぬけの殻で、出窓に佇むサボテンが静かに私を見つめていた。
ああそうか、今日はサボテンか、と私は思い出す。
数ヶ月に一度、季節的には春、夏、秋の三回、私の妻はサボテンになって一日を過ごす。
結婚前からこの生活は変わらない。はじめは驚いたものだが、今ではもうサボテンとしての妻の接し方にも慣れたものだ。
妻の種類は日本でもメジャーなキンシャチと呼ばれるもので、丸
椅子男(短編小説/1524字)
どうも、こんにちは。椅子男です。ここ、座らせてもらってもいいですか?
ええ、椅子はこの通り、持参してますので。いつも持ち歩いてますよ。便利ですから。あなたもお一つどうです。役立ちますよ、椅子。
何てったって、座れますからね。地面がある限り、どこでも座れます。一息入れるにはやっぱり椅子がないと、駄目ですよ。人は二足歩行のベテランになったつもりでいますけど、生まれてくるときは四足歩行で、死ぬ
むにリスト、語る(短編小説/575字)
「むにってかわいいよねー」
「むに?」
「むに。しゃにむに、ゆいいつむに、しんめんむに」
「最後のわかんないんだけど」
「宮本武蔵の父だよ。いい名前だよね。武蔵よりかわいい」
「かわいい言われるなんて思わなかっただろうね。むにさんも武蔵さんも」
「私は世の中のありとあらゆる「むに」を愛してやまないよ」
「ありとあらゆるってほどないでしょそれ」
「ふ……おまえはまだ、むにの奥深さを知らないのだ。ムニ
緑の瞳と白いお皿(短編小説/6729字)
耳鼻科と婦人科に通うことが人生の一部になっている私は、夏休みに海はおろかプールにも行けない。
耳栓すればプールくらいはいけるかなと思ったりもするけど、そんなにがんばって行きたいわけじゃないし、友達もインドア派ばかりだから野外系のイベントはほとんど起こらない。
水を飲むのは口だけでいい。鼻も耳も目もぐずぐずで、滞っている私の細胞。
バイト先の道すがら、いつも通る小さな橋の小さな川で、た
今日も子供(短編小説/1046字)
どうして年齢に資格なんかいるのだろう。
この国の誰もが、生まれたときには仮年齢が割り当てられるのに、それはずっと仮のままだ。
仮年齢が十歳であっても、十歳の資格がなければ十歳になれない。
俺の仮年齢は二十歳だけど、二十歳の資格はなく、十二歳の資格しかない。
まわりの友達はもうみんな二十歳の資格を取っているし、早い人は二十五歳、三十歳の資格まで取っている。
でも俺はもう資格に振
宇宙飛行士(短編小説/220字)
宇宙飛行士は宇宙を飛行するのが仕事なので、地球には降りない。
他の惑星にも行かない。ただ宇宙を飛行する。宇宙飛行士だからだ。
「休日は?」
そう。仕事なら、休日があってもいい。
だけど宇宙飛行士は、どこにも漂着しない。
生まれてから死ぬまでずっと、休むことはない。宇宙飛行士だからだ。
「それって仕事じゃなくて、生き方なんじゃない?」
そうかもしれない。
だけど宇宙飛行
ノスタルジー中島(短編小説/813字)
ノスタルジー中島はノスタルジーに溢れている。
靴紐を結んではノスタルジー。夕陽を見つめてはノスタルジー。微笑んでノスタルジー。
些細なことでもノスタルジーをまき散らすので、ノスタルジー公害であるという訴えも近隣から出ているが、本人は意に介さない。日本の法律上、ノスタルジーでは罪にならないからだ。
ノスタルジー中島のノスタルジーを止めるために、彼を故郷へ帰してはどうかという案が持ち上が