今日も子供(短編小説/1046字)
どうして年齢に資格なんかいるのだろう。
この国の誰もが、生まれたときには仮年齢が割り当てられるのに、それはずっと仮のままだ。
仮年齢が十歳であっても、十歳の資格がなければ十歳になれない。
俺の仮年齢は二十歳だけど、二十歳の資格はなく、十二歳の資格しかない。
まわりの友達はもうみんな二十歳の資格を取っているし、早い人は二十五歳、三十歳の資格まで取っている。
でも俺はもう資格に振り回されたくなくて、十二歳のときに資格を取るのをやめた。
理由は一言では説明できない。
母が十二歳で俺を産んだこととか、仮年齢と実年齢の差が開くことで生じる社会問題だとか、バースデイソングの薄っぺらさだとか、いくつかの要因はあるけれど、これが決定打と呼べるものはない。反抗期の一言で片付けてくれても、別にいい。
ともあれ世間的にはずっと俺は十二歳で、酒もタバコもやってはいけないし、免許も取れないし仕事もできない。
大学には行っているけれど、このままだと働けもしないし、卒業したらただの十二歳だ。
付き合っている彼女は、早く大人になりなさいよと言う。彼女は二十歳の資格を持っている。
「このままじゃ私、ショタコンになっちゃうし」
でもどうせセックスはできないし結婚もできない。十二歳だから。
年齢に資格がなかったら、どんなにいいだろう。
きっと自由で素晴らしい世界だ。
近頃、おなじ夢ばかり何度も見る。
神社の境内で、なにかのお祭りみたいだと思って見ていると、いろいろな生き物が檻に入れられ、売られているようだった。
はじめは犬や猫などの動物たちが目に入って、そのうちに人が混じっていることに気付く。
よく見ればそれは、昔の友人や、親や、教師や、知人たちなのだった。
ひとりの人物がひとつだけじゃなくて、様々な時代の、様々な年齢のその人が、その時々の相場で値札がつけられている。
乳幼児から老人まで、すべての年齢が取り揃えてあった。
だけど、みんながみんな、年齢に応じた値段がつけられているのに、自分だけはいつまでも、同じ値段のままに違いないのだ。
店番の男はずっと背を向けていて、顔が見えない。
俺はその男に声をかけて、俺を売るとしたらいくらになるのか聞いてみようとするのだが、なんだかその男が自分自身のような気がして怖くなり、返事が来るまえに逃げ出す。
いつも夢はそこで終わる。
目が覚めると決まって、鏡に映った姿を確認してしまう。無精髭が生えていると、少し嬉しい。
もうすっかり大人なのに、今日も俺は子供だ。
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