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My Mind Wanders

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短編小説をまとめました。 有料部分に小銭を投げ込むと、投げなきゃよかったなーと思うような数行のあとがきが表示されるとか。
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2014年6月の記事一覧

夜、光る。(短編小説/575字)

 夜によそよそしくなってはいけないな、と思い立ち、外に出る。

 暗いからといって避けてるばかりではかわいそうだ。

 こちらから歩み寄らなければ、夜とは仲良くなれない。

 あの電柱によりそった街灯が夜を照らすとき、やっと夜の顔がぼんやり見える。

 真昼の輝きは夜を殺す。なにもかも明らかになったら、そうでないものは死んでしまう。

 それなのに、少しの輝きがなければ夜は生きられない。

 この

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何のためでもないロボ(短編小説/774字)

「はじめまして。何のためでもないロボです」
「何のためでもないロボ?」
「ええ。誰かのためとか何かのためとか、理由があって作られたものではないということです」
「じゃあなんで喋れるの?」
「何のためでもないということを説明するため、でしょうか。しかしそうすると、何のためでもないことを説明するためのロボ、ということになってしまうので、いけませんね。やはり何のためでもありません」
「君を作った人って、

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先生は帰れない(短編小説/3249字)

「では次の方どうぞ」
「こんにちは!」
「はいこんにちは」
「すみません、先生」
「何でしょう」
「保健室の先生にこんなことを相談するのはどうかと思うんですが」
「ではやめておきましょう」
「いえ他に話せる人もいないので話します」
「ではお話ください」
「わたし……二十年前のことが、どうしても思い出せないんです」
「時差ボケですね」
「時差ボケですか」
「時差ボケのお薬だしておきましょう」
「え、

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衛星付き(短編小説/1626字)

 クラスメイトに、衛星付きの女の子がいる。

 取り巻きの人間という意味じゃなくて、実際に小さな星が回っている。大きさはテニスボールと同じぐらいで、住民は一匹の猫だ。猫はもう老体なのだけど、小指の爪ほどの大きさでしかないので、子猫にしか見えない。みんなこの子猫を怪我させないように気を遣って、星にぶつからない距離を取って彼女と話す。

 衛星は、彼女が生まれる前から存在していた。昔はもっとサイズが大

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前世ドットコム(短編小説/753字)

 前世ドットコムというコミュニティサイトに遊びで登録したら、前世でたくあんだったという人から告白された。

 その人がたくあんだった時、私は白米だったらしい。

 だから最高の組み合わせだったのだと主張するたくあんさん(前世)。

 でも待って、もし私が白米だったのなら、組み合わせは無限大。選び放題じゃない。

 そう考えると白米が前世というのも悪くない気がしてくる。

 友達にその話をすると、

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親バカ族(短編小説/1940字)

 親バカになりたい。

 世間の親バカに共通して見られるのは、幸せそうだということだ。そしてその幸せはかなりのケースで、長続きする。

 とにかく今すぐ幸せになりたい私は、親バカになる方法を探している。

 スーパーには売っていない。コンビニにも置いていない。学校では教えてくれない。

 こんなときは賢い妹に聞くに限る。

「親バカって、資格とかある?」
「まずは、親にならないとだめだよ」

 盲

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イマジネイション/クリエイション(短編小説/1532字)

 ボブは世界地図を眺めている。同学年の生徒を全て見下ろせるボブの身体よりも大きな、二メートル以上もある巨大な地図。机の上にそれを広げて、ボブは飽きる様子も見せずに、ただじっと椅子に座ってそれを見ていた。

 少しだけ気後れするものを感じながら、僕は彼に声をかけた。

「ねえボブ」
「……え? ああ、なんだい?」
「君はいつもそうやって世界地図を眺めてるけど、どこか行きたい場所でもあるの?」
「行き

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