前世ドットコム(短編小説/753字)

 前世ドットコムというコミュニティサイトに遊びで登録したら、前世でたくあんだったという人から告白された。

 その人がたくあんだった時、私は白米だったらしい。

 だから最高の組み合わせだったのだと主張するたくあんさん(前世)。

 でも待って、もし私が白米だったのなら、組み合わせは無限大。選び放題じゃない。

 そう考えると白米が前世というのも悪くない気がしてくる。

 友達にその話をすると、

「いや白米の相手っていったら水しかないでしょ」と言われた。

 うーん、水か。水が前世の人っているのかな。たくさんいても混ざっちゃって誰が誰だかわかんなくなりそう。

「つまりハイブリッド前世ってやつね」

 初めて聞いたよその言葉。

 まあ白米っていったって、白米一粒なのか、稲一束分なのかもわからないし、稲と白米は別個の前世扱いにしちゃっていいのっていう問題もある。

 そう考えると、たくあんさんはどこまでたくあんだったのかも疑問だ。

 だって漬け込んだ時点で米糠と塩が混ざっちゃってるもの。

「ハイブリッド前世!」

 さっそく活用する友達。たぶん広まらないと思うけど。

「あ、でもそうするとわたしの子供はわたしのハイブリッド来世?」

 知らん知らん。

 でもさ、と友達は続ける。

「そんな食物の前世の記憶があるってことが事実なら、ヤバいよ」

 ヤバいの?

「だってあんた、毎日食べてるご飯に実は意識があるって知ったら、美味しく食べられる?」

 おっとそう来たか。

 確かにそれは嫌かも。

 万物が誰かの前世っていう理屈が通ってしまうと、日常生活がすごく困難になりそうだ。

「実証できたら世界は変わるね」

 変わってほしくねー。

 とりあえず「漬物はきゅうり派なのでごめんなさい」とたくあんさんに断りの返事を書いて、私は明日の献立を考える。

 現世の私は食べる側なのだ。

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