親バカ族(短編小説/1940字)
親バカになりたい。
世間の親バカに共通して見られるのは、幸せそうだということだ。そしてその幸せはかなりのケースで、長続きする。
とにかく今すぐ幸せになりたい私は、親バカになる方法を探している。
スーパーには売っていない。コンビニにも置いていない。学校では教えてくれない。
こんなときは賢い妹に聞くに限る。
「親バカって、資格とかある?」
「まずは、親にならないとだめだよ」
盲点すぎて私は感心する。さすが我が妹メガネっ子。
「自分で産まないとだめ?」
「そんなこともないでしょ。里親だっているし」
「里親バカかぁ」
できればシンプルに親バカがいいけど、背に腹はかえられない。(ちょっとかえてみたい)
里親バカになるには、捨て子を拾うのが手っ取り早いけど、そう簡単に捨て子は落ちていないし、勝手に拾ってくると親に怒られるので難しかった。うちの親は賢いからきっと親バカを認めてくれない。私は賢くないので親バカの素質がある。
動物にすれば難易度は下がる。猫とか犬なら、表向きはペットということにして隠れ里親バカになることが可能だ。たぶんこれは、事実婚とかに似ている。
残念なことに私は犬も猫もそんなに好きじゃない。好きじゃないのに親バカになるのは厳しいといわざるを得ないので、ほかを探す。
虫とか花は、寿命が短すぎてだめだ。親バカ寿命を長くするには、子供の寿命も考えなくてはいけない。
「だったらもう、生き物じゃなくてもいいんじゃない?」
青天の霹靂。たしかに、どんなに幸せな親バカになったとしても、子供が先に死んでしまっては元も子もない。まさに元の子がない。
その点、子供が死なないというのは親的に最高の親バカ条件ではないだろうか。
さっそく私は子供をたくさん買い揃えた。アマゾンでたくさん売っていた。
私の子供コレクションを覗いた妹は、わーすごいとまるで驚いてない声色で驚いてくれた。
「これで親バカになれるかなー」
「愛せそう?」
「飾ってるとホコリがたまってくのが、ちょっと愛せない」
「親バカならきれいに育ててあげないと」
育てる。
そうだ、親バカといえば育児なのだ。辛く苦しい育児であっても、愛のためにがんばれる。それこそが親バカの本懐だとどこかの有名人がテレビで言っていた。
私の部屋に飾られている子供たち(塗装済み1/12スケール)は育たない。たとえ中身が育っていたとしても、傍目にわからない。なにせ喋らないし、一部の関節以外は動かないのだ。
これは大変よろしくない。私は涙ながらに離縁を決意した。(ほんとは涙は一滴も流れていない)
中古でマーケットプレイスに出品される我が子たちを眺めながら、次なる戦略を考える。
やはり思い入れがなくては、子を愛するのは難しいのだ。愛せる要素を持った子を選ばなくてはいけない。
「宝石とかよくない?」
「なんでわたしに聞くの」
「アドバイスくれるかなって」
「お姉ちゃんまえに誕生石もらってたでしょ」
いわれて思い出す。ターコイズのブレスレットを誕生日にもらったことがあった。どうしたんだっけ。チョコミントみたいな色の。
「そうだ、アルコール除菌してみたら色が落ちて戻んなくなったから、庭のプランターに撒いたんだ」
「愛あふれる行為だね」
あと本物だったら色落ちはしないはずだけど、と妹は賢さ満載の微笑みで私を見る。
言いたいことはさすがにわかる。妹は、ブレスレットをくれた母の愛が、親バカには程遠いものだったという現実を教えてくれたのだ。
さらに妹は不思議な法則を教えてくれる。
「ダンゴムシってね、迷路に放り込むと必ず右と左、順番に曲がっていくの。でも、なんでかは誰も正確にはわかってないんだって」
一説によれば、と妹は指を立てる。
「天敵から逃れるためには、同じ方向に曲がり続けるよりも、左右交互に曲がったほうがより遠くに逃げられるから、って言われてる」
「へー、すごいね」
「お姉ちゃん見てると、そのダンゴムシ思い出す」
「私そんな丸い?」
「なんか気付いたらすごい遠くにいるよねいつも」
「えー、同じ屋根の下なのに?」
妹はにこにこしている。
その慈愛の微笑みを見つめているあいだに、はっと気付く。
この子になってもらえばいいじゃない。
妹は最初っから子供だから、私の子供になっても特に問題ないはずなのだ。
灯台下暗し。身近なところに解決法があってよかった。
あとはもうバカになるだけで親バカは完成する。そしたら幸せになれて我が家はハッピーだ。
ちゃんとこの子を育てないとなー、と私は決意を新たにする。
妹はさっきからずっと楽しそうだ。
「わたしね、目的から遠ざかってる人を見るのが好き」
とか言ってるけど、私の目的はもう達成したも同然なので、ゴールインは間もなくです。
ここから先は
¥ 100
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?