何のためでもないロボ(短編小説/774字)

「はじめまして。何のためでもないロボです」
「何のためでもないロボ?」
「ええ。誰かのためとか何かのためとか、理由があって作られたものではないということです」
「じゃあなんで喋れるの?」
「何のためでもないということを説明するため、でしょうか。しかしそうすると、何のためでもないことを説明するためのロボ、ということになってしまうので、いけませんね。やはり何のためでもありません」
「君を作った人って、よっぽどの変人なんだね」
「作った人はいません」
「え? ロボなのに?」
「何のためでもないロボなので、作られる動機や理由があってはいけません。ですから、作った人はいません」
「動機も理由もなく作られたってことでいいんじゃないの?」
「動機も理由もなくものを作ることは、人間にはできません」
「つまり君はロボットに作られたってことかな」
「そうかもしれませんが、だとしても何のためでもありません」
「じゃあ、今こうして会話してるのは何のため?」
「何のためでもありません」
「哲学的だね」
「哲学ではありません」
「じゃあ私が会話を楽しむためのロボってことにしよう」
「それはいけません。何のためでもないロボでなくなってしまいます」
「なくなると困るの?」
「何のためでもないロボですから」
「でももう私は楽しんじゃったから、会話を楽しむためのロボとしての役割は達成しちゃってるよ」
「では今の会話はなかったことにして下さい」
「なかったことにできるロボ?」
「できないロボ」
「そうロボか」
「……博士、やはり『何のためでもない』というアイデンティティには矛盾が生じます。論理構造の定義を見直す必要があります」
「じゃあ次は『その必要はないロボ』でいってみよう」
「…………」
 何のためでもない博士を目指す彼の研究は、誰に知られることもなく秘密裏に行われている。
 もちろん、何のためでもないからである。

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