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まなざし、目差し、眼差し

 私は言葉を転がすのが好きです。眠れない夜とか、昼間にぼーっとしているときにやっています。

 具体的に言うと、次のように連想にうながされる形で言葉を並べていくのです。

 まなざし、目差し、眼差し、なざし、名指し、名付ける

 よく記事の中でも、言葉を転がしています。あれは記事を書きはじめたり、書きつづけるために、取っ掛かりを探しているのです。見切り発車で記事を書くので、どうしてもそうなります。

 言葉に詰まって、「えーっと、えーっと」と唸っているのと大差ありません。お恥ずかしい限りです。

 前回の記事では、次のように転がしていますが、かなり苦労している様子がうかがわれます。

「書く」と「描く」を「かく」と表記してずらしてみましょう。

 かく、なぞる、うつす
 かくとずれる、なぞるとずれる、うつすとずれる

 ずれる、たがう、ちがう、ことなる、あわない、あやまる、それる、かわる、はずれる
(拙文「うつす、ずれる」より)

「ずらしてみましょう」と書いているのは、「うつす、ずらす」というタイトルの記事で、「うつす」と「ずらす」をテーマにしているから、「ずらす」としただけです。

 普段は「転がして」います。私の趣味は言葉を転がすこと。

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 昨夜は「まなざし」という言葉が浮んだので、「まなざし」を転がしていました。

 まなざし、なざし、なざす、さす

 確かこんなふうに転がしていました。

 寝入り際にやっていることですから、書いているわけではないし、辞書が手もとにあるわけでもありません。だから、音というか、ひらがなで転がす感じになります。

 音で転がしながらも、ひらがなと漢字が頭に浮んでくるのは面白いものです。

 まなざし、目差し、眼差し

 パソコンに向っていると、こんなふうに転がします。文字を入力するさいの候補が画面に小さく出てくるので、それに助けられて転がすこともあります。

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 まなざし

 口だけで転がすと、柔らかくやさしい感じがするのは、「まな・mana」に心が向いているからでしょう。後半の「ざし」は鋭い音です。

 口にすると、「まなざし」というふうに、前半を強く大きく発音しているのに気づきます。「ざし」はつぶやくように言っているのです。

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 目差し、眼差し

「目差し」と書くと、その字面から魚の「めざし」――目を刺すから「目刺し」なのですね――を連想します。「眼差し」に、きりりとしたたたずまいを覚えるのは、画数の多い「眼」に「差し」と続けるからでしょうか。

 差す、指す、刺す、注す、点す、挿す、射す

 文字入力の候補に助けられて転がしましたが、きりりどころじゃないですね。どきりとします。確かに、どれもが「さす」です。

 ただでさえ痛いのに、なんだかあちこちがちくちく痛くなってくるのは私が暗示にかかりやすいからでしょう。

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 まなざし、なざし、なざす、さす

 ひらがなにして転がして痛さから逃れます。

 まなざしを送る、なざしを避けた形で、名指す、名付ける、さす、こころざす、志向する、指向する、向く

 パソコンに向っていると、こんな転がし方もできます。イメージがどんどん広がります。

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「向く」と「指す」は似ているようで異なります。「向く」は、ある方向に体ごと向っている感じ。「指す」だと、文字どおりに指で指すように、とがったものの先で指す感じでしょうか。要するに点なのです。

 おもむく、こころざす

 気になって辞書で調べると、「おもむく・赴く・趣く」とあり、「「面向く」の意」(広辞苑より)という語源的な説明があって勉強になります。

「こころざす・志す」だと「「心指す」の意」(広辞苑より)と書かれていて、これまた勉強になります。

 言葉を転がすことに加えて、辞書を読むというか、辞書にいる言葉に会いに行くのが私の趣味なのです。

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「きざす」はどうなのでしょう? 気持ちの気が指すのでしょうか? 気指すというふうに。

 調べてみると「きざす・兆す・萌す」(広辞苑より)とありました。「気指す」という文字がなくて残念でしたが、「萌す」という表記と出会えたのが収穫です。

「草木の芽がわずかに出る。芽生える。芽ぐむ。」という語義は、この季節に読むとわくわくします。

 もう一つの語義には「物事が起ころうとする気配がある。また気持ちが生ずる。」とあり、これが「気指す」に近いかなと思いました。

 萌す、萌える、芽生える、芽ぐむ

 いい言葉です。芽は目だという思いが強くなります。

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 め、目、眼、芽
 めざす、目指す……

 ここまで転がして、気になったので辞書を見てみました。

 ありました。

 芽差す

「芽が萌え出る。芽ぐむ。芽立つ。」という語義があり、当然のことながら、芽立つ、目立つという連想が起きます。

「芽ぐむ」に「恵む」とか「恵みの雨」とか「涙ぐむ」を連想するなと言われても私には無理です。連想とは私的かつ詩的なものであり、根が荒唐無稽なものだと思います。

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 め、目、芽、さす、指す、差す
 まなざし、なざし、なざす、さす

 点なのだなあと思います。

 人は点であり、草木も点であり、何かをめざす。それが生きるなのかもしれません。点が集まって、どこかをめざして、むかっていく。草木の芽はどこをめざすのかを知っているけれど、人の目は知らない。

 芽を見たくなりました。窓から外を見ると雨が降り始めていますが平気です。傘を差してちょっとだけ散歩をしてきます。

 
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