人形町魚久の京粕漬け焼き(いか、にしん、さば) イタリア アブルッツォ州のオレンジワインの滋味
先日、日本橋人形町で下車する所用あり、気になっていた京粕漬け魚久(うおきゅう)に立ち寄る。
魚弓は大正三年(1914年)創業。人形町には本店、人形町店があり、ほかに銀座店、江東区に東砂店、平野店を構える。私が立ち寄ったのは人形町店。
魚久の起こりは、奈良出身の初代が京都で料理修行後、東京日本橋へ渡り開業した高級鮮魚商「魚久商店」。二代目は鮮魚商の傍ら仕出し料理も出し、妻(女将)と共に店を大きく発展。特に粕漬けの評判がよく、土産用に漬けた粕漬けは店に並べた先から瞬く間に売れた。人気を受けて昭和四十年(1965年)、当時珍しい粕漬け専門店「京粕漬魚久」を暖簾に。京粕漬と名付けた由来は粕床に用いた酒粕が京都伏見の銘酒であることによる。詳細は魚久ホームページを。
今回はいか、さば、にしん、えいひれ、かますの5点を購入。粕漬けが土産物として人気を博した由来を思わせる、もらうと嬉しい丁寧な包み。
包み紙の内側には“京粕漬けの上手な焼き方”が印刷されている。
ふむふむ、粕はよく水で洗い流してから焼く、焼き網或いはフライパン用のクッキングシートを敷いたフライパンで中火以下で、とのこと。この日は、さば、にしん、いかの3点をフライパンで焼く。
合わせたのはチリのロゼ・スパークリング・ワイン(ピノ・ノワール品種)、イタリア アブルッツォ州のオレンジワイン(ピノ・グリージョ品種)、シチリア島のグリッロ品種。特に2種類のイタリアワインとの相性が良かったが、とりわけ酒粕の甘美なフレーバーには、オレンジワインの滋味の相性が素晴らしい。
さて、粕漬け魚とそれぞれのワインの相性について。
ファビュラス フォエミネ ピノ・グリージョ, イタリア, アブルッツォ州, 2021, 13%, 2,475円
Fabulas Foeminae Pinot Grigio, Italy
アブルッツォ州マジェラ国立公園内のPretoro自治区内(標高602メートル)に畑を所有。
カモミールと地元の植物から搾取した野生酵母を使用。ピノ・グリージョを主体に大樽で発酵後、さらにアンフォラと木樽で熟成させたオレンジワイン。ピノ・グリージョ85%、その他15%。
黒ブドウのロゼワインのような鮮やかなチェリーレッドの色調。
香りにはフレッシュな巨峰のジュース、チェリーリキュール、切って少し時間が経過したグリップのあるリンゴの香り、ほのかにシソエキス。ゼラニウムやバラのフラワー香。
味わいにはブドウの滋味と旨味の密度が凄まじくとろっとした口当たり。陶器の引き出すブドウの力か。涼やかな酸味、余韻にほのかなタンニン。もはやピノ・グリージョを超越。
いかの酒粕漬け焼きにワインを合わせる。粕が染み入り引き立てられたイカの上質な甘みに、オレンジワイン特有の果実味の滋味が寄り添う。相性: ★★★★☆
にしんの酒粕漬け焼きに。酒粕に包まれた凝縮したニシンの魚肉から広がる濃厚な味わい、脂の甘みを、ワインのブドウの滋味が包みあげる。相性: ★★★★☆
さばの酒粕漬け焼きに。甘美な酒粕のフレーバーに包まれ、ワイルドなサバの脂が良くまとまる。そのコンビネーションをオレンジワイン特有のブドウの滋味が包み込む。相性: ★★★★☆
ドンナフガータ スルスール, グリッロ, イタリア, シチリア
Donnafugata, SurSur, Sicilia, DOC, Grillo, 2021, 13%, 約3,000円
ドンナフガータ社のオーナーは何世代にも渡って酒精強化ワイン、マルサラワインの生産に携わってきた由緒ある家系。
「ドンナフガータ( 逃げた女 )」という名は、19世紀初頭にブルボン朝の王の妃が、ナポリで起きた革命を逃れて、現在のドンナフガータ社のある土地へ逃げてきたという歴史にちなんだもの。
香りにはグレープフルーツ、レモン、ライムの爽快な柑橘香。柑橘果皮のビターなニュアンス。典型的な南の緩いワインとは一線を画すフォーカス。海岸の潮風、レモングラスも。
味わいには瑞々しい果実味。冷えた状態では酸味が締まり的確なフォーカス(温度が上がり緩くなるのもまた魅力)、キュッと効いた塩味、余韻にはグリップのあるほろ苦さ。
いかの酒粕漬け焼きに。ワインの潮の香りがイカを活き活きとさせる。一方でワインと酒粕との繋がりの発展が期待ほどではないか。相性: ★★★☆☆
にしんの酒粕漬け焼きに。脂が軽快で酒粕の風味が強い分、ワインの塩気とハーブがサバに合わせた時に比べて持て余す。相性: ★★★☆☆
鯖の酒粕。酒粕のフレーバーに包まれてカドが取れたサバのワイルドな脂が、ワインの塩気とハーブ香に包まれて活き活きとする。★★★★☆
コノ・スル, スパークリング・ワイン, ロゼ, チリ, ビオ・ビオ・ヴァレー, 825円
Cono Sur, Sparkling Wine, Rose, Bio-Bio Valley, Chile
Cono Sur とは「南向きの円錐」という意味。その地理的な場所を表すとともに、世界最南端の地で表現豊かで革新的なワインを造るという気概の表れ。1993年設立。
ピノ・ノワール100%で造られるワイン。オレンジが強く入ったサーモンピンク。持続的な泡立ち。
香りには快活なチェリー香。ビスケットや食パンの香ばしさやイースト香はどこか上級のロゼ・シャンパンを思わせる。が、余韻の奥に少々甲高い植物的なニュアンスあり。
味わいは瑞々しく伸びやか、快活でチャーミングな果実味。的確にワインを引き締める酸味。余韻にはビターネスとこうばしさが続き充実のフィニッシュ。若干抽出が多い印象だが素晴らしいコスパ。
いかの粕漬け焼きに。ケンカはしないがワインの抽出が強めでややビターなタッチは入り込んでいかないか。相性: ★★★☆☆
にしんの酒粕漬け焼きに。やはりワインのほろ苦いタッチが酒粕香るにしんの身の奥までは入り込めない。相性: ★★★☆☆
さばの酒粕漬け焼きに。ケンカはしないが抽出が強めなワインのビターなタッチは、さばの脂との調和には欠ける。相性: ★★★☆☆