【ただいま増補改訂中】 『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 07 | 色校正も(できれば)紙派です!
11月29日の入稿から約1週間後、印刷所から『製本家とつくる紙文具』の本紙校正があがってきた。増補ページのみならず、全ページ分!
本紙校正とは、本刷りで使う紙を用いた色校正のことで、最近は「本紙校正は1折のみで、あとはデジタル出力の簡易校正」というケースが少なくない。もちろんそうすることが合理的な場合もあるけれど、著者としても編集者としても、全ページを本紙で確認できるのはありがたい。
本紙校正はみんなで一緒に確認しようということになり、12月6日、デザイナーの守屋さんとともにグラフィック社へ。会議室では、編集担当の山本さんが校正紙を広げてスタンバイしてくれていた。
文字については入稿前に校正を済ませているので、ここで確認するのは「色」だ。赤ペン片手に3人で膝を突き合わせる。まず守屋さんが写真の色調について赤を入れる。次にわたしが著者目線で気になるところに赤を加える。さらに山本さんが編集的な補足を加える。いつのまにかこんなフォーメーションができあがり、確認作業がはじまった。
本文は、全体的にやや暗い印象。とりわけ増補ページにはスミっぽいにごりが見られる。本文用紙は「b7トラネクスト」というラフ調の塗工紙で、わたしが普段編集しているビジュアル中心の書籍でも頻繁に使われる紙だ。白色度が高く、色の再現性に優れているだけに、もう少し明るくクリアにしたいところ。本紙校正は一度きりだから、こまかく赤を入れたほうがいいだろうと、守屋さんが丁寧に書き込んでいく(上の写真は守屋さんの赤字)。
わたしは工程写真のほうを重点的に見て、ディテールが暗くつぶれている箇所などに赤を入れていたのだが、そうやって見ているうちに自分の手の色が気になってきた。ときどきやけに暗いので「肌の色、明るく自然に」と入れる。こう書くと、オペレーターさんがよい感じに調整してくれるのだ。
つづけて、表紙の本紙校正を確認する。校正紙が複数あるので、そのうち一枚をトンボ(位置確認用の目印)で切り、束見本(製本サンプル)に巻いてみる。思わず「おぉー」と声がでる。本は平たいものだけど、それでもやっぱり立体物だ。ぺらりとした校正紙で見るのと、厚みや重みが加わった状態で見るのとではまったく違う。
表紙用紙は「A2コート」という紙で、上質紙に印刷再現性をよくする塗料を塗ったものなのだが、今回はさらにグロスPP加工(艶のあるポリプロピレンフィルムを貼る)をする。こういう場合、校正紙はPP前とPP後の両方がでてくる。PPを貼ることで少なからず色に影響があるためで、PPの影響を加味したうえで、よりクリアな仕上がりを目指して赤入れする。
最後は本体表紙の本紙校正だ。用紙は新聞や雑誌などの古紙を原料とする再生紙で、「アスカα」という。いわゆるチップボールの薄物だ。今回はこれに単色印刷しているのだが、こちらはまったく問題なし。
すべての確認を終えるまで、2時間半ほどかかっただろうか。午前10時からはじめたので、だんだんお腹が空いてきて、山本さんが用意してくれたファミリーサイズのアルフォートがみるみる減っていった。
予定ではこの本紙校正で責了(印刷所におまかせして校了)となるはずだったのだが、思っていたより赤字が多かったので、補正後にPDFでの確認をさせてもらうことになった。これもここ数年よくあるパターンで、補正前と補正後のPDFを比較して最終確認するのだ。
数日後、山本さんが印刷所から届いたPDFを転送してくれた。下の写真のパソコン画面の、左が補正前で右が補正後。写真じゃ伝わらないかもしれないが、背景のグレーやいちばん手前の作例を比べると、全体的ににごりが払われ、ワントーン明るくなっている。
印刷物の制作に馴染みのない方の目には「微妙な差」に見えるだろうか。でも、本の中というは一つの世界だから、そこにどんな光が差しているかは世界を支配する重要な要素であり、こうした微妙な調整にたくさんの人の力が注がれている。
PDF確認をもって校了(校正作業が終了し、印刷できる状態になること)となり、これにて『製本家とつくる紙文具』の制作は完了した。あとは見本を待つばかり。束見本に校正紙を巻いたやつ(山本さんが「持ってっていいですよ」といってくれた)を時折取りだしては、完成を待ち侘びた。
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『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 過去記事一覧はこちら
● 『製本家とつくる紙文具』永岡綾(グラフィック社)
● 英語版『Japanese Paper Craft』Aya Nagaoka(Hardie Grant Books)
● フランス語版『MANUEL PRATIQUE DE PAPETERIE JAPONAISE』Aya Nagaoka(Le Temps Apprivoise)
● ドイツ語版『JAPANISCHES PAPIERHANDWERK』Aya Nagaoka(Haupt)