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【ただいま増補改訂中】 『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 05 | 文字校正は紙派です!

11月中旬、デザイナーの守屋さんが『製本家とつくる紙文具』の本文レイアウトをあげてくれた。思い描いていたものが形になる、心躍る瞬間だ。

レイアウトは、新章の16ページ分だけでなく、全ページ分あがっている。この機会に既刊ページもいま一度校正するためなのだが、実はもう一つ理由があった。守屋さんによると、Adobeの仕様変更により既刊本で使用していた欧文フォントが使えなくなり、すべて置き換えることになったそう。字幅が変わるので調整が必要となり、ほぼ全ページに手を入れることに……。

というわけで、既刊ページも増補ページも、新たな気持ちで文字校正に取りかかる。編集担当の山本さんも、同時に校正を進めてくれている。


まずは実寸で出力。PILOTのフリクション0.38を片手に、1ページ目から順に読んでいく。最近はパソコンの画面上で読み、画面上で赤入れする編集者もいると聞く。だけど、わたしには無理。校正は紙でやるべきだ、などというつもりはなくて、紙でないと誤植に気づけないのだ。

少し前までは、新しい環境に対応できないのはまずいな、と焦っていた。でも、RICHOが発表したある記事を読んで、紙でよかったのだと知った。その記事によると、紙で文字を読むとき=反射光で読むとき、人の脳は「分析モード」になり、情報を個別に精査しようとする。他方、画面上で文字を読むとき=透過光で読むとき、人の脳は「パターン認識モード」となり、こまかな部分を無視してでも全体を把握しようとするという。

紙のほうが誤植を発見しやすいことが脳科学的にも証明されたわけで、「iPadとかで赤入れすればいいのに」といわれるたび、この記事の受け売りを力説することにしている。


さて、増補ページはとりわけ念入りに校正しなくてはならない。寸法や図面は、いま一度作例を実測して確認。つくり方のほうは、誤植はもちろん、工程に抜けがないか注意する。材料リストから漏れているものはないか、「糊を塗って3に貼る」といった場合の「3」に間違いはないか、同じ作業なのにまちまちな表現をしてしまっていないか……。レイアウトされた状態で全体を通しで読むと、原稿のときには見落としていた齟齬に気づいたりする。

一方、既存ページはすでに世にでているものだから、修正はないはずなのだが……そこそこ赤が入ってしまった(上の写真は赤字を入れた既存ページ)。せっかくだから、「こう説明したほうがわかりやすいかな」とか「もう少しことばを補っておこう」などと思う箇所に手を入れた。


今回の文字校正で気を遣ったのは、工程説明にたびたびでてくる「◯ページ参照」の記述だった。参照先は巻末の「紙文具づくりの基本」というコンテンツなのだが、新章が加わったことでページがずれ込み、漏れなく変更する必要が生じたのだ。

こんなとき役に立つのが「台割(だいわり)」だ。台割とは本の設計図のようなもので、どのページにどんな内容が入るのかという割り振りを一覧表にしてある。構成が決まったところで編集者が作成し、デザイナーも印刷所もこれを拠りどころに本の全貌を把握する。今回は、新章の5作例が決まった時点で台割を用意してあった(上の写真は増補改訂版の台割で、ページの列に色網のかかっている箇所が増補ページ)。


数日後に山本さんから赤字が届き、それをわたしが赤入れした校正紙に転記して、守屋さんへ送った。すると、守屋さんから修正版が届く。再び山本さんと校正する。再び少々の赤が入り、再び守屋さんへ送る……。こうしたラリーを2週間かけて2回くり返し、文字校正が完了した。

文字校正をしている間に、フォトグラファーの清水さんからは実データ(補正済みの高解像度画像)が届いた。文字、イラスト、画像、レイアウトのすべてがそろい、11月29日、とうとう印刷所へ入稿!

入稿すると、ゴールが視野に入ってくる。ここまでは、何本もの細い川がバラバラに流れていたようなものだった。ざあざあ流れるのやら、ちびちび流れるのやら、くねくね流れるのやら。それぞれに異なる流れ方をしていたのがいよいよ合わさって、一筋の太い川となる。


ところで、今週からamazonと楽天ブックスで『製本家とつくる紙文具』の予約注文がはじまったようだ。よかったら、のぞいてみてくださいませ。

『製本家とつくる紙文具』 ができるまで 過去記事一覧はこちら


●『製本家とつくる紙文具』永岡綾(グラフィック社)


● 英語版『Japanese Paper Craft』Aya Nagaoka(Hardie Grant Books)


● フランス語版『MANUEL PRATIQUE DE PAPETERIE JAPONAISE』Aya Nagaoka(Le Temps Apprivoise)


● ドイツ語版『JAPANISCHES PAPIERHANDWERK』Aya Nagaoka(Haupt)

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