
人はなぜ物を愛するのか? ~「お気に入り」を生み出す心の仕組み~
使い古したぬいぐるみ、擦り切れたジーンズ、色褪せた写真…
誰もが、特別な愛着を抱く「物」を持っているのではないでしょうか?
それは単なる「物」ではなく、思い出や感情、そして自分自身のアイデンティティと深く結びついた存在です。
アーロン・アフーヴィアの著書『人はなぜ物を愛するのか:「お気に入り」を生み出す心の仕組み』は、私たちがごく自然に抱く「モノへの愛」という感情の奥深さを探求し、そのメカニズムを解き明かします。
幼い頃、いつも一緒に眠ったクマのぬいぐるみ。
初めて買った大切なギター。旅行先で見つけたお気に入りのマグカップ。
それはただの「物」ではなく、私たちの人生の一部であり、かけがえのない思い出や感情と結びついています。
なぜ私たちは、特定の物に特別な愛着を抱くのでしょうか?
アーロン・アフーヴィアは、長年「モノへの愛」というテーマを研究してきた第一人者です。
彼の著書『人はなぜ物を愛するのか:「お気に入り」を生み出す心の仕組み』では、心理学、社会学、進化論などの多角的な視点から、この深遠な問いに迫ります。
愛着の対象は、驚くほど多岐にわたる
アフーヴィアによれば、愛着の対象となる「物」は、実に多岐にわたります。
コレクターが情熱を注ぐグッズ、高級ブランド品、音楽、芸術作品、スマートフォン、車、ジュエリー、代々受け継がれてきたアンティーク家具、家族写真、恋人からもらったプレゼント…
人それぞれに、特別な思い入れのある物が存在します。
さらに興味深いのは、缶コーヒーや薪割りなど、一見すると愛着とは無縁に思える物でさえ、人によっては特別な意味を持つということです。
ノルウェーでは、暖炉の火をただ映し続けるだけの8時間のテレビ番組を流したら、なんと国民の2割が見続けたという意味不明なエピソードがあります。笑
これは人々の「モノへの愛」の多様性が伺える良い例だとされています。
そして、多様な価値観を持つ人々を結びつける共通の愛着対象として、「自然」の存在が挙げられます。
都会に住む人も、自然の中で過ごす人も、自然の美しさや雄大さに心を動かされる経験は共通しているのではないでしょうか。
モノへの愛は「本物の愛」?
アフーヴィアは、モノへの愛を、人間関係における愛と同様に「本物の愛」として捉えています。
しかし、恋愛、家族愛、友情など、人への愛にはさまざまな種類があるように、モノへの愛もまた、その対象や関係性によって形を変える多様なものです。
恋愛には性的な欲求が伴う一方、家族愛にはそれがありません。
モノへの愛は、これらの人間関係における愛とは異なる形で、物や活動との関係性によって形作られます。
愛着が生まれるメカニズム
では、なぜ私たちは物に愛着を抱くのでしょうか?
アフーヴィアは、その心理的なメカニズムを、アイデンティティや人類の進化と関連付けながら解説しています。
私たちは、自分が大切にしている物を通して自己を表現することがあります。
例えば、好きなアーティストのグッズを集めることで、そのアーティストへの共感を表明したり、自分の趣味や価値観を表現したりします。私の家にもたくさんバンドTシャツがあります。
また、過去の思い出や経験と結びついた物に特別な感情を抱くこともあります。
子供の頃に遊んだおもちゃや、旅行先で購入したお土産などは、当時の記憶や感情を呼び覚まし、特別な愛着を感じさせます。
さらに、進化の過程で、生存に有利な道具や資源への愛着が形成されたという側面も指摘されています。
食料や住居など、生存に不可欠な物への愛着は、人類が生き残るために重要な役割を果たしてきたと考えられます。
また、アフーヴィアは、「崇高な理解」という概念を紹介しています。
これは、人が愛する物の美しさや素晴らしさを言葉で表現しようとする際に生じる心理的なプロセスです。
例えば、ランニングの爽快感やテスラの加速性能を熱く語るように、人は愛する対象の美点を積極的に表現しようとします。ようは大げさに言ってしまうということ。
愛着がもたらす影響
愛着のある物に触れることで、安心感や幸福感を得たり、創造性を刺激されたりすることがあります。
しかし、物への執着が強すぎると、喪失感や不安感に苛まれたり、物質主義に陥ったりする可能性もあるので危険でもありますね。
貧しい家の写真には必ず物がたくさん写っているというが、ネットで話題になりました。
ここ最近で一番面白い本
『人はなぜ物を愛するのか』は、モノを愛する自分の心理を知りたい人にとって、新たな発見と共感をもたらす、かなり面白い一冊です。ここ最近買った本のなかではダントツで面白かった。
あとこれ、愛されるモノを開発したいビジネスパーソンにとっても、消費者の心理を理解する上で必読書です。
結論
アーロン・アフーヴィアの『人はなぜ物を愛するのか』は、私たちが普段何気なく感じている「モノへの愛」という感情を、心理学、社会学、進化論などの視点から分析した興味深い書籍です。
本書を読むことで、自分自身と物との関係性を見つめ直し、モノへの愛着が持つ意味や影響について深く考えるきっかけになるでしょう。
モノへの愛着を理解することは、より意識的な消費行動、所有物への感謝の念、そして自分自身への深い理解へとつながります。
私たちは、物を所有するだけでなく、物との関係性を通して、自分自身を形成し、豊かな人生を創造していくことができるのです。
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