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呉海 憂佳(yuuka kuremi)
2024年10月25日 21:24
爽やかな、という文字が道端に落ちていた。 トキコはぎょっとして、制服のスカートを押さえながらしゃがみ、手に取ってみる。「チラシの切れ端?」 見れば、畑に囲まれた田舎道の上にぽつぽつと白いチラシの切れ端が落ちていた。〈いやいや、ヘンゼルとグレーテルかよ〉 心の中でツッコミながら、もう一度切れ端を見つめる。一体どんな「爽やかな」物を載せてたんだろう。〈爽やかな……後味のガムとか? イケメ
2024年10月19日 14:50
木の実と葉が織り成す秋の絨毯冬の装いした動物たち淡い靄を夕暮れが染めて長い夜の帳がおりる秋の虫のすずやかな声梟はホウとため息アンドロメダは冷たく光って眠る森を見守っている目が醒めないことを覚悟しながら寝床についた動物たちも麗らかな朝日に秋を感じて安堵に胸をなでおろし短い秋を精一杯に駆け抜けてゆくみなさんこんにちは。今回も #シロクマ文芸部 の #お遊び企画 に参加し
2024年10月12日 08:09
金色に燃え上がる林檎は、眩しく、暖かく、夜空に高く浮いてまるで太陽のように豊かな光を降らせると、華やかに散りました。後には星屑が舞っています。アンネは感動でくっと息を飲みました。 少女の手には、森の中で見つけた燐寸(マッチ)がまだ二本、握られています。その燐寸が入っていた箱には、こう書かれていました。《森で見つけた枯れ枝にこの燐寸の炎を移して、捧げ物をくべなさい。それに見合う幻想をお見せし
2024年10月4日 23:46
夕焼けは煮え崩れる玉ねぎのように甘く溶けだして、降り止むことを知らない雨を黄金に染めた。 千年もの間、雨が降り続けている街・深水(シンスイ)は、区域全体の九割が水の中にある。この永い雨災に見舞われるようになってから、深水の民は水に浮く建物を造るようになり、その中で暮らすようになった。人間の「慣れ」というのは凄まじいもので、百年も経てば皆、この不思議な暮らしぶりにすっかり適応した。それから千年