【SS】実りの秋事件
爽やかな、という文字が道端に落ちていた。
トキコはぎょっとして、制服のスカートを押さえながらしゃがみ、手に取ってみる。
「チラシの切れ端?」
見れば、畑に囲まれた田舎道の上にぽつぽつと白いチラシの切れ端が落ちていた。
〈いやいや、ヘンゼルとグレーテルかよ〉
心の中でツッコミながら、もう一度切れ端を見つめる。一体どんな「爽やかな」物を載せてたんだろう。
〈爽やかな……後味のガムとか? イケメンとかだったら面白いけど〉
今ならお手頃価格でイケメンが手に入ります、と書かれた売り出し中のイケメンを想像してトキコはぷっと吹き出した。
彼女は立ち上がり、チラシを元あった場所に捨てようと思ったが、一度拾ったものを捨てると何だか自分がポイ捨てしたみたいで気分が悪いので、仕方なしに持ち帰ることにした。
「ただいまー」
家には誰も居ないが、何となく儀式的に言う。かかとを使ってローファーを脱ぎ、居間にカバンを放って、チラシの切れ端をゴミ箱に捨てる。
「ん?」
ヒラヒラとゴミ箱に落ちていったチラシを見て、トキコはあることに気がついた。チラシの裏になにか書いてある。
〈すき〉
あまり上手い字ではないが、丁寧に書いたのは分かる。震えて見えるのは緊張して書いたからだろうか。
「へえ」とトキコから変なため息が出る。
〈今どきラブレター? それもチラシの裏紙に?〉
そこからトキコはもんもんと考え始めてしまった。
このラブレターは想い人に渡されたんだろうか。それで、ビリビリにされちゃったのかな。じゃあ失恋したんだ。チラシの裏紙じゃ、ね。
あ、でもこれ、下書きの可能性あるな。いや、その方が有り得るか。じゃあ何で破って捨てたんだろう。家のゴミ箱に捨てたらお母さんにバレて恥ずいから?
「んー、どうなったんだろー」
トキコは切れ端をもう一度手に取って、コタツに入り頬杖をつく。
この文字を書いた人は告白できたんだろうか。付き合えたのかな。てか、どんな人なんだろ。道端に落ちてたチラシ、全部集めたら分かるかもなー。いや、ドラゴンボールかよ……。
近所のおばあさんが書いた買い物リストを、いたずらっ子の孫がビリビリにしてしまっただけとは知らず、トキコは色々と妄想を膨らませるのであった。
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すき焼きがおいしい季節になりましたね。
それではみなさん、良い週末を🐻❄️