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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇

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ライターが本当に怖いと思った古今の短篇ホラー小説をご紹介。
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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第13回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第13回

半村良 『箪笥』 
(『能登怪異譚』 1987年、集英社文庫)

日本の怪奇短篇の中では、
筒井康隆の『鍵』と並んで
個人的に思い切り震え上がった1作。

私は、著者の本を他に読んだ事がなく、
むしろSF作家のようなイメージだったのですが、
本書収録の短編は全て方言の一人語りで、
田舎土着の民話風物語が展開します。

ただ、全体に猟奇的だったりグロテスクな話が多く、
テイストとしては好みではないの

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第12回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第12回

ヨナス・リー 『漁師とドラウグ』
 (『漁師とドラウグ』 1996年、中野善夫訳、国書刊行会)

ノルウェーの国民的作家ヨナス・リーの短編集から。
本国では有名なのに邦訳はほとんどないという作家ですが、この短篇は代表作なのか、
アンソロジー『ロアルド・ダールの幽霊物語』(83年、長野きよみ訳、ハヤカワ文庫)にも
『エリアスとドラウグ』というタイトルで収録されています。

ヴァイキングの国、そして神

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第11回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第11回

小川未明 『黒い人と赤いそり』 
(『小川未明童話集 赤いろうそくと人魚』 1951年、新潮文庫)

日本を代表する童話作家、
小川未明の作品集から。

この本に収録された作品群は、童話といっても大人の読書に耐えうるどころか、
むしろ大人にしか分からないくらいの深度と強度と美しさが魅力。

その文章の、柔らかくて、典雅で、丸暗記したくなるほどの味わい深さといったら! 
全集とまではいかずとも、まと

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第10回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第10回

ディーノ・ブッツァーティ 『水滴』
(『七人の使者・神を見た犬 他十三篇』 13年、脇功訳、岩波文庫)

「イタリアのカフカ」と称されるブッツァーティは、
ここ数年で随分と邦訳も増えて
再評価の機運も高まっているので、
お読みになられた方もいらっしゃるかもしれません。

その作風は必ずしも一様ではなく、
ファンタジーや風刺物もあれば、
不条理劇あり、SFあり、
異常心理やホラー系もあり。

しかし

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第9回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第9回

チャールズ・L・グラント 『向こう側』
 *アンソロジー『カッティング・エッジ』収録
 (1986年、デニス・エチスン編、宮脇孝雄訳、新潮文庫)

ビジネスマンの主人公は、眠っている間に身体に切り傷が出来る事に気付く。
最初はストレスから来る夢遊病の一種かと思うが、日毎に傷はひどくなり、日常生活を脅かしはじめる。

チャールズ・L・グラントもまた、
ラムジー・キャンベルと並んで英語圏で評価が高く、

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第1回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第1回

はじめに

昔から怖い話が好きだったので、
ホラーの短編小説は積極的に読んできました。

といっても中高生の頃までは小説なんて全然を読まない方でしたが、
大学生ともなると一気に自由な時間が増えます。

私は「一生遊んで暮らすこと」をいまだに夢見ているほどの超絶的な怠け者なので、
一般的な大学生の中でも、特にめきめき頭角をあらわすほど自由な時間が増えました。

「さあ読書家にでもなってやるぞ」と一念

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第2回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第2回

リサ・タトル 「石の育つ場所」
 *アンソロジー『闇の展覧会 2』収録
 (1980年、カービー・マッコーリー編、広瀬順弘訳、ハヤカワ文庫)

ポールは幼少の頃、
海岸で恐ろしい光景を見てしまう。
土地の人間から「石の育つ場所」と呼ばれているこの草地では、
三つの石柱が毎年ある晩に浜まで水浴びに行くという噂があった。

ポールは石が動くのを確かに見た。
まるで扉が閉まる様になめらかに、石は一瞬くる

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第3回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第3回

ラムジー・キャンベル 『恐怖の遊園地』
 *アンソロジー『恐怖の心理サスペンス』収録
  (1976年、カービー・マッコーリー編、大村美根子訳、ワニ文庫)

ラムジー(ラムゼイ)・キャンベルは、
イギリスのベテラン作家。
英語圏で最大のホラー作家の一人として評価されているにも関わらず、
日本ではほとんど知られていません。

邦訳された長編はたった2作で、
そのうちの1作『母親を喰った人形』(ハヤカ

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第4回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第4回

ロバート・エイクマン 『鳴り響く鐘の町』
 *アンソロジー『ロアルド・ダールの幽霊物語』収録
  (1983年、ロアルド・ダール編、乾信一郎訳、ハヤカワ文庫)

若い夫婦が、海岸沿いのさびれた町を訪れる。
そこでは、けたたましい鐘の音が町中に響き渡っていた。
彼らは次第にイライラし始めるが、
夜中になると、鐘の音が一つ、
また一つと止んでゆく。
ついに訪れた静寂と、
遠くから近づいてくる群衆のどよ

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第5回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第5回

筒井康隆 『鍵』 
 (『バブリング創世記』 1978年、徳間文庫)

色々ホラー小説を読んでも、
結局これが一番怖いんじゃないかとよく思い返すのがこの短篇。

筒井康隆はSFと笑いに突出した才気を示す作家ですが、
そういう人はホラーもやっぱり上手いです。

特に、異世界に入り込んで抜け出せなくなる悪夢のような物語は彼の真骨頂ですが、
こちらはSF的な手法をホラーに用いた戦慄の一作。

長年放った

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第6回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第6回

チャールズ・ディケンズ 『信号手』 
 (『ディケンズ短編集』 1986年、岩波文庫)

『クリスマス・キャロル』『オリヴァー・ツイスト』など、数々の名作で知られる英国の文豪ディケンズは、
意外に怪奇小説もたくさん残しています。

本作は、ホラー短編のアンソロジーには収録されがちな有名作なので、ご存知の方も多いかもしれません。

主人公(小説の語り手)が怪異の体験者から話を聞くという、欧米の近代ホ

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第7回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第7回

レイ・ブラッドベリ 『群衆』『小さな殺人者』
(『10月はたそがれの国』 55年、宇野利泰訳、創元SF文庫)

『何かが道をやってくる』や『たんぽぽのお酒』など、
SFの叙情詩人と呼ばれたブラッドベリ。

彼が初期の頃に怪奇趣味の短篇を多く書いている事は、
ホラー・ファンの間では有名です。

私の好みとしては、前述傑作群のポエティックな美文調と較べると、
ホラー系の短篇は語り口が理屈っぽいのが少し

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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第8回

これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第8回


ギイ・ド・モーパッサン 『水の上』『マドモアゼル・ココット』
 (『モーパッサン傑作選』 98年、太田浩一訳、ハルキ文庫)

『女の一生』で有名な19世紀フランスの作家モーパッサンは、
短篇の名手として知られています。
まとまった全集として翻訳されていないのは残念ですが、これらは90年代後半に新訳で編まれた傑作選から。

彼の短篇は、ボリューム的にはショート・ショートに近い長さながら、
発想や読

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