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これは怖い! おススめ短編小説・ホラー篇 第8回
ギイ・ド・モーパッサン 『水の上』『マドモアゼル・ココット』
(『モーパッサン傑作選』 98年、太田浩一訳、ハルキ文庫)
『女の一生』で有名な19世紀フランスの作家モーパッサンは、
短篇の名手として知られています。
まとまった全集として翻訳されていないのは残念ですが、これらは90年代後半に新訳で編まれた傑作選から。
彼の短篇は、ボリューム的にはショート・ショートに近い長さながら、
発想や読み応えは短篇小説のそれと言えるでしょう。
コメディや人情話も上手いですが、
彼は怪奇小説をもっとも得意にしていたと言われ、その凄さがこれらの作品にもよく出ています。
『水の上』は、ある船乗りが霧深い川の上で一夜を過ごす話で、短いながらも、
話者が体験者から話を聞くという、
欧米怪奇小説の型を踏襲しているのが面白いです。
オチも含めて実話怪談的な雰囲気があり、
日本のホラー小説好きには好まれやすい内容。
筆致は巧妙そのもので、素朴な船乗りの語り口を借りるように見えて、
読者が恐怖を共に体験するような生々しい臨場感は醸す辺りはさすがです。
『マドモワゼル・ココット』は、
タイトルこそ優雅ですが、
陰惨なラストに打ち砕かれる凄いお話です。
裕福なブルジョワ一家に仕える御者が、
後を付いてくる捨て犬を追い払えず、
主人の了承を得て屋敷で買う事になる。
しかしこの雌犬はやたらと雄犬を惹き付け、
屋敷に害が及ぶほど犬が集まってくるので、
再びこの犬を捨てるはめになってしまう。
どこへ捨てても必ず戻ってくるこの犬に、
意を決した御者は・・・
因縁の不気味と憐憫の情、
悲しみ、おぞましさ、複雑な感情を同時に生起させる本作のラストは、
ぞっとさせられるだけでなく、
胸をかき乱されるような不思議なテイスト。
これもまた短いながら、人から話を聞く形式になっている点に、モーパッサンのこだわりが垣間見えます。
彼の怪談小説は実話だとも言われるので、
話を聞いている「私」とは、
著者自身なのかもしれません。
そう考えると、妙に細かくリアリスティックな枕部分も腑に落ちます。
最後までお読み下さり、ありがとうございました。