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彩りと心のしわあわせ【第2話】突然のご依頼状

第1話は、こちら。


【第2話】突然のご依頼状



わたしは、心和。とある施設で、カウンセラーとして働いている。

仕事で出逢う方は、それぞれのペースで進んでいくけれど、みんなが変われるわけではない。
与えられている1日24時間ということはみんな平等で、その時間の使い方や過ごし方は、それぞれ。

職場での出逢いには、時に苦しさを伴う。
ただそこにいる、ということでしか、支えられないこともある。

その時間にこそ意味はあるものと思っているのだけれど、たまに、わたしの仕事は、生き方は、これでいいのか?という不安がないこともない。


そして、この気持ちは、あの日、おばあちゃんとの会話の夢を見てから、より大きくなっていた。


わたしの輝く原石はどこにあるんだろう?

どの道を辿っていくと、見つけられるんだろう?

その考えが、頭の中を巡っていることに気づきながらも、日常を変えることができないまま、職場と家の往復をする日々だった。


この時間も大切だが、本当はもっと何かしたいことがあるのかもしれない。

人生における最大の壁にぶつかったような感覚だった。


わたしが、この仕事に就いたのも、大学生の時、初恋の子との再会を果たしたことが大きい。

再会と言っても、本人と会えたわけではなかった。


再会と同時に、もうわたしがどんなに頑張っても、探し回っても、会うことができないという事実も知った。


助けてあげられなかった。
ということではなく、最後に会った日のことを悔いている。


それは、本当のことを言わずに、いつも通り、一緒に遊んでくれた日。

ちゃんと目を見て、
遊んでくれてありがとうを言えたかな。
バイバイできていたかな。

その記憶がないほど、日常の光景だった。

だからこそ、記憶がないことを、悲しみ、悔いている。


その子が頑張って命を燃やした分。
生きられなかった分。
わたしは、一生懸命前を向いて生きるんだ。
一歩進んで二歩下がってもいい。
わたしのペースで、自分の足で歩き続けるのだ。

そう決めて、今日まで歩んできた。


時には、涙を目に溜めることもある。それは、いろんな感情が入り混じって、自分の中での落とし所がわからなくなったときに起こりやすい。


自分の生きる意味を、自分のためだけじゃなく、必要としてくれる方に届ける。

ゆらぎながらも、生きていくんだ。


その思いで、今日まで来た。

この選択をしたことに、後悔はしていないけれど、この先の人生に一抹の不安を感じていたことは、確かだった。






最寄り駅を降りて、家に向かって歩いている時、着信があった。
2歳上の姉からの電話だ。

「もう少しで家につくところだし、落ち着いて話せたほうがいいなあ」

そう思ったわたしは、“後で折り返すね”とメッセージを送って、急いで帰った。


姉の名前は、彩芽(あやめ)。
草木の芽が出る季節に生まれたから、このような名前になったと聞いている。
わたしは、あーちゃんと呼んでいた。


彩芽は、わたしとはタイプが違い、仕事ができる。
カフェの店員さんをしていたかと思えば、経理の仕事を始めたりして、1つの職業しか経験していない、かつ、マルチタスクができないわたしからすると憧れの存在だった。


わたしは、何をするにもどんくさいのに比べて、彩芽は、要領が良いのだと思う。 


2年前に結婚して、子どもはまだいなかった。
彩芽の夫は、律輝(りつき)さん。調理師免許を持っていて、仕事熱心な方という印象。

ふたりとも、仕事ばかりで、でもとても楽しそうだし、支え合って生きている感じにわたしからは見えている。


さて、彩芽からの電話とは、何事だろうか。


折り返してみると、衝撃の話をされた。


「おばあちゃんのお店を引き継いで、カフェを始めようと思っているの。で、あの地域に人気な場所にしようと思ってるんだけどさ!」


「え、おばあちゃん、『カラフル』辞めちゃうの?」


『カラフル』というのは、おばあちゃんが経営している、【喫茶 カラフル】のことである。


「あれ、知らなかったの?もう、今年の誕生日で辞めるんだってさ。」


祖母の誕生日は、およそ1ヶ月後の6月28日。


「それでさ、ここちゃんにお願いがあるんだけど!週1回くらい、手伝ってくれないかなあ?ちょっと、うちらにはできないメニューがあってさ〜」


彩芽が、わたしの名前を呼び捨てではなく、ちゃん付けで呼ぶときは、なにかとんでもないことをお願いされる時。
小さい頃からそうだった。

「え?それって、どういうこと?また、あーちゃん無茶ぶりしてこようとしてるでしょう。」


「さすが、鋭いね!それなら、話が早い。おばあちゃんの店の人気メニュー知ってるでしょ?」


「うん。人生相談付きのメニューでしょ?おばあちゃんがゆっくり話を聞いてくれて、最後におばあちゃんが即興で作った詩を渡すっていう。って…え!それをやってほしいってこと?!」


「そそっ。話聞くのは私たちより、ここちゃんの方が絶対いいって思ってて!必要なものは、こっちで準備するし、食事も出すからさ〜。曜日は任せるけど、土曜日とかがいいんじゃないかな。あとさ、明日、予定空いてる?おばあちゃんのお店に一緒に行かない?」


「とりあえず空いているから、いいけど。」


「じゃあ明日11時にお店で!よろしくねっ!」


…相変わらず、一方的な話だったなあ。


彩芽からの依頼を受けて、驚くことに、不思議と嫌な気はしなかった。

今の仕事に満足していなかったというのは、少し語弊があるけれど、なんだか楽しそうになる気がする。そんな直感があった。



その方の生活の一部に触れながら、ちょっとだけ、その方の背中を押してあげる。

何かあったら、また休みに来ていいよ、というメッセージも伝えられる。


仕事だと、結果や成果が求められがちで、わたしはそれが苦手だった。

人生がかかっている選択に、数字的な結果や成果を求められるのは、なんだか違う気がしていたのだ。


この誘いが、結果的に、わたしの仕事観も変わってくるのではないかと期待さえした。


ただ、おばあちゃんのように、人生経験は豊富ではないし、詩も、短歌も、俳句も読めない。

はてさて、どうしたものかなあ…。

四つ葉のクローバーのしおりを眺めながら、ため息をついた。





「•••あーちゃんは、いつも急なんだよなぁ。」


とはいえ、わたしの中での気持ちは固まった。
明日のために、早めに寝ることにした。


第3話へつづく

#創作大賞2024
#お仕事小説部門



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RaM
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