ファイナンス(企業財務)の基本㉞:「決算書ナゾトキトレーニング」を読んで、大切そうなことをまとめてみた
今回は、決算書ナゾトキトレーニング 7つのストーリーで学ぶファイナンス入門(村上茂久著)を読んだので、自分にとって大切そうなことをメモしてみました。
まず「読んでいて面白い !!」というのが、この本の率直な感想です。登場人物の対話形式でストーリーが展開されており、とても読みやすいです。(「ナゾトキ」という言葉につられて、何となく手にとってみたのですが、読んでよかったです)
今回、この本で特に面白いなと感じたところや、自分にとって大切なところをメモしてみました。もし、自分のまとめ(メモ)をみて「この本を読んでみようかな」と思ってくれる人がいたら嬉しいです。
※ このnoteのまとめ(メモ)には、自分の解釈が多分に含まれております。
メガベンチャー「メルカリ」 228億円の赤字でも絶好調の謎
メルカリの時価総額は、株価:6160円、発行株式数:1.57億株であるため、約9827億円(株価 x 発行株式数、2021年9月30日時点)である。しかしながら、損益計算書(P/L)上でメルカリは「赤字」であるため、「なぜ、メルカリの時価総額がそんなに高いのか?」は疑問に思うかもしれない。
ここで重要なことは「損益(赤字)の質」をしっかりとみることである。
具体的には、まずはキャッシュフロー計算書(C/S)をみる。
すると、営業キャッシュフローはプラス100億円以上あり、その中身をさらにみると「預り金の増減額(例えば、メルカリでものを売った人が、メルカリの中に残しておくお金)」がプラス300億円以上ある。この「預り金の増減額」のお陰で、当面メルカリは倒産しないといっても過言ではない。
さらに、P/Lをよくみてみると、メルカリの赤字は「広告宣伝費をかけているから(売上高の45%、300億円以上)」となっている。
これは、メルカリは黒字にしようと思えばいつでも黒字にできるが、広告宣伝費をかけて新規顧客を獲得した方がトータルでのリターンが高くなると考えた「攻めの経営判断」によるものである。よって、メルカリの赤字は極めて戦略的なものであると考えることができる。
また、メルカリは国内CtoCビジネスで得たキャッシュを、メルペイとアメリカ事業(問題児)に投資することで、次の花形事業を作ろうとしている。
上記をまとめると、「P/L上でメルカリは赤字なのに、なぜ、時価総額が高いのか?」に対する答えは下記3点となる。
営業キャッシュフローはプラスであり、「預り金」によりキャッシュを確保できる状態であるため
トータルでのリターン最大化を目指し、広告宣伝費にあえて攻めの投資をしている状態であるため
次の花形事業を作るために、積極投資しているため
※ 上記以外にも、書籍にはいくつかのポイントが説明されていました。
経済のプロ99人が読み解けなかった「ソフトバンクグループの決算書」
ソフトバンクG(グループ)の決算は日本一複雑と言われている。
2019年のソフトバンクG決算説明で、孫会長が「Uberの株価が変動した場合、あるいはアリババの株価が変動した場合、ソフトバンクGの営業利益にどれだけの影響があるか、わかる方はいらっしゃいますか?(Uber、アリババは、当時ソフトバンクGが投資をしていた会社)」と参加者に質問したところ、回答できたのは100人中1人だけだった。
ソフトバンクGの投資パターンには、大きく分けて下記3つある。
連結子会社
自らが株式を保有する会社を実質的に支配している状態。子会社は、親会社の決算書(P/L、B/S、C/S)も含めて連結されることになる。ソフトバンクGの収益が大きな理由の一つは、連結子会社のP/Lを合計しているためである。持分法適用会社
保有する議決権の比率が20-50%の場合、原則として連結子会社にはならずに、持分法適用会社となる。親会社にとって重要度が低い場合には、持分法を適用しないこともできる。また、P/LとB/Sは連結されず、株式の持分に応じた金額(利益)が投資会社の損益に反映される。ソフトバンクGからすると、ヤフー、アリババは持分法適用会社に相当する。ソフトバンク・ビジョン・ファンド
ソフトバンク・ビジョン・ファンドは、上場手前のスタートアップなどに投資するベンチャーキャピタル。これまでの投資先はUber、WeWork、OYO、Slackなど。ビジョン・ファンドの場合、投資先の公正価値(時価総額)の変化した差額が「投資損益」という形で利益計上される。
上記より、先ほどの孫会長からの問いかけ「Uberの株価が変動した場合、あるいはアリババの株価が変動した場合、ソフトバンクGの営業利益にどれだけの影響があるか?」に対しては、次のような回答が正解となる。
アリババは、持分法適用会社であるため、持分に応じて利益の一部がソフトバンクGに計上される。よって、アリババの株価が変動しても、ソフトバンクGの利益には影響を与えない。
Uberは、ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資先であるため、株価が変わることで時価総額が変わり、それに応じて利益も変動する。
※ 上記内容以外にも、書籍には「なぜ、ソフトバンクGの利益は5兆円もあるのか」「ソフトバンク・ビジョン・ファンドの仕組みはどうなっているのか」といったことが説明されていました。
3兆円で買収された300億円赤字企業「Slack」のポテンシャル
Slack(2013年創業)は、2020年11月に、セールスフォースによって約3兆円で買収された。一方、買収時点でSlackは約300億円の赤字であるため「なぜ、セールスフォースは3兆円でSlackを買収したのか?」という点は気になるポイントである。
Slackのように、成長著しいSaaS企業の企業価値評価(マルチプル法)には「PSR」が使われる。
Slackの場合、セールスフォースによる買収額のPSRは33倍であった。
このPSRは、米国SaaS企業の平均値(PSR:19倍)、中央値(PSR:16倍)と比べてもかなり大きい。では、なぜ、Slackはこんなに高く評価されたのか?
それは、SlackのP/L(赤字)の中身を見てみるとわかる。
Slackが赤字である理由は「研究開発費」と「セールス・マーケティング費用」に積極投資して、さらなる成長を目指そうとしているためである。そのため、黒字にしようと思ったら、いつでもできる状態(メルカリのケースと類似)であると言える。
また、SaaSビジネスの指標(下記)についても、Slackは極めて健全であると考えられる。
1社あたり顧客獲得費用は約104万円、1社あたりの平均MRRは5.7万円(2020年当時)であるため、顧客1社につき18.2ヶ月以上サービスを継続利用(月次解約率5%以下)してもらえれば、顧客獲得費用の104万円を回収できる。
Slackの場合、解約どころか既存の有料顧客が純増し、さらに新規顧客も増加しており、顧客数は前年比35%増である。
売上継続率(既存顧客の売上高をどれだけ維持できているか)についても、120%以上となっている。
Slackは、今はP/L赤字でも、攻めの投資をしてユーザー獲得した方が、長期的収益に貢献するとわかっているのである。ゆえに、セールスフォースはSlackの考え抜かれた戦略と将来性を高く評価したと考えられる。
※ 上記内容以外にも、書籍には「SaaSビジネスの指標」や「Slackの戦略」について、丁寧に説明されていました。
GAFA売上高No.1のアマゾンは、本当に「利益を出さない」のか?
アマゾンは、未だに売上高が20-30%も成長しているモンスター企業。
「アマゾンは利益を出さない」は、ちょっと昔の話であり、現在(2020年頃)は利益を出している。
また、アマゾンはキャッシュを生み続ける経営をしている。
具体的には、「キャッシュコンバージョンサイクルがマイナス」であり、キャッシュの資金繰りに困らない状態を実現している。これは、アマゾンのECマーケットプレイスにおいて「アマゾンに商品を卸した業者に対して、アマゾンは売上代金を回収した後に、支払いをする」という仕組みになっているため、実現できている。
この仕組みは「アマゾンに商品を卸した業者」にとっては不利な条件であるが、アマゾンのECマーケットプレイスではアマゾンが主導権を握っているため、交渉で勝つことはできない。
さらに、アマゾンの研究開発費は世界トップクラス(4兆円)である。一方、広告宣伝費はかなり低い。アマゾンはAWSにより「クラウド市場の上流」を押さえることにも成功した。
お金のプロでも差が出る「決算書の読み方」
IRで押さえるべきなのは、下記3つの一次情報である。
有価証券報告書
上場企業は、事業年度経過後3ヶ月以内の開示が義務付けられている。
公認会計士が監査したもので、最も信頼性がある情報。決算短信
上場企業は、決算期末期45日医内の開示が適当とされており、速報を知ることができる。来期の売上高や利益の見通しも記載されている。決算説明資料
企業が独自で作成する非定型の資料であり、纏まっていて読みやすい。
企業のKPIや企業独自の経営に関する数値などが書かれている。
また、非財務情報については「統合報告書」に記載されている。
統合報告書
企業に関する非財務情報が記載されており、機関投資家の投資判断にも活用される。ESG投資やSDGsに関係する事項が記載されている。
※ 上記内容以外にも、書籍には「それぞれの立場で見るべきポイント」について、丁寧に説明されていました。
世界初の「ESG経営」エーザイは、何がそんなにすごいのか?
2006年に、当時の国連事務総長が機関投資家に対して「責任投資原則(PRI)」を発表した。そこにESGについての言及があったのが、「ESG」のそもそもの始まりである。
PRIには「ESGを考慮に入れて経営をしている投資対象に投資をしましょうね」ということが書いてあった。
機関投資家の行動がPRIを踏まえたものになることで、企業の行動も変わってきている。日本でも、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人、世界最大クラスの機関投資家)が2015年にPRIに署名をしたことで、日本の機関投資家のPRIへの署名は増えている。
また、銀行向けには責任銀行原則(PRB)というものがあり、日本ではメガバンク3行のグループはもちろん署名をしている。
エーザイは、時代に先駆けた「ESG経営」「パーパス経営」を実践し、「非財務情報の数値化」までおこなっており、これがエーザイのすごい点である。
電通の「本当の値段」はいくら?6000億円が吹っ飛ぶ!?名門企業の大誤算
電通は、会計基準としてIFRS(国際会計基準)を採用している。
そして、電通のP/Lでは、減損損失が大きいことがわかる。
これは、電通は大規模なM&Aをおこなったが、その際の買取価格を高く見積りすぎてしまい、巨額の減損損失※を計上(無形資産の「のれん」の減損損失)することになったのである。
ここで、会社には4つの値段があることを押さえておく。
簿価
過去の企業活動の積み上げを表す。決算書の純資産を見て算出する。時価
過去の企業活動の積み上げを、現在の価値で再評価したもの。ファイナンシャル・アドバイザー等が算出する。買取価格
未来を見据えた買収者の評価。買取価格 x 株式数で算出する。時価総額
上場企業の場合、株式市場が評価した企業の値段。日々の時価 x 株式数で算出する。
日本の会計基準では「のれん」は、最長20年以内に減価償却して費用として計上していくことが決められているが、IFRSではのれんの減価償却はない。
そのため、電通は「減損損失」として、のれんの損失を計上したのである。
そして、電通には残り約6000億円の「のれん」があることを考えると、油断はできない状態にあると考えられる。
以上です。