時代小説『ひなげしの雫』(伍)
第五回
子期の姓は「虞」である。呉が出身であった。父親は虞威と言う者だったが、野盗だった。ただ生来の野盗では無く、陳勝と呉広の乱に呼応して、春秋の英雄にかぶれて勢いでなったものだった。それまでは、秦の地方官吏をしていたが厳罰主義の秦の法制と己の無能さが故に秦を見限ると言う、なんとも日和見な父だった。
小さい頃から楚の項燕等の地元の英雄譚を聞いて育った。その熱の入り様は、時々は子期も呆れるほどでどちらかと言うと、虞威の方が夢中であった。
この野盗崩れの父は、己には才覚がないの