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短編小説『第三探偵』(事件編)

〜序〜

2050年代に入ると社会は多様化を極め、消費傾向が著しく進んだ為に、2020年代では考えられもしなかった職業が乱立し始めた。
消費に傾いた…と言っても、人は働かなければならないのは、古今東西に拘わらず変わりはなかった。
大きく変わったのは、2034年に世界的な取り決めがなされた事だ。後に「世界法」と呼ばれるこの取り決めは、我が国においても「AI禁止制限法」を新たに発布させ、職業の減少や生産力の低下。自由資本の競争意識の改善と低下しつつあった就業意欲の減退に歯止めをかけ、人間本来が持っていた生産や発明への意欲をより高める事を目的とする数々の関連法令の法整備がなされたことである。
これらにより以前は、知らないうちに怠慢になっていた人類も、AIによる採決や判断に頼れなくなった以上、再び努力と研鑽を積むようにならざるを得なくなった。とはいえ、未だにAI時代を懐かしむ者も少数派ながらもいる。先進のAI技術は更なる知能と効率を呼んだ。人ならばなし得なかったであろう技術を開発したりするので、特に製造の分野では根強い依存が見られたがそれも過去の話になった。
 こうした背景もあり、各国独自の法整備や工夫の末、着々と「脱AI」は進められていった。
 そうした中で前述のような新たな職種や、以前からあった職業概念の拡大解釈が大々的に行われ、それまでは聞き慣れない、または聞いた事もない職業が増加するに至った。「探偵」と言った職業も例外なく拡大解釈が行われ、警察機関の捜査への参入が合法化されたのである。
こうして、「探偵」と言う職業の界隈にはコナン・ドイルの小説に出てくる様な「私立探偵」が多く生まれた。窃盗や詐欺。人身売買や誘拐。果ては殺人等にも被害者やまたは警告を受けたりした被害者は依頼人となり、各々気に入った探偵に依頼を出すようになった。
 探偵各社は宣伝に力を入れたのは自明であった。依頼人の争奪は宣伝合戦に留まらず、依頼をした被害者に巧みなアプローチをかけて重複契約し、手柄を争ってより成果が高い者に報酬を渡す様になったが、弊害として人は人を疑い、探偵に探偵をつけるいわば二重スパイを依頼するようになったのは、ある意味、人間の業の深さなのか当然の結果であるのか、なんとも皮肉な現象をも生んだのであった。
 世界法の施行から十二年。既に「第二探偵」と呼ばれる専門職が発生していたが、その「第二探偵」による更なる事件や依頼に対しての複雑化が顕著となってきたので、三年程前より表面化してきた「第三探偵」の職業化が一気に進んだ。この物語はその第三探偵の物語である。

〜日常と依頼〜

大都会の片隅…裏通りの一角に事務所を構える男がいた。
男の名は、「神田三月」(かんだ みつき)と言った。
退屈そうに机に足を乗せ、本をアイマスク代わりに、居眠りをしている。
部屋は12畳ほどの広さの洋間で、所狭しと本や新聞のスクラップ、過去の資料などが置かれている。一見、乱雑にも見えるが本人に言わせると、

『機能的且つインデックスに基づいて整頓されている。』

のだそうだが初見で見た者はただ乱雑に未整理のまま置かれている風にしか見えない。それが原因で依頼人からの信用を失い、折角事務所に来訪しても依頼をせずに帰ってしまったことが一度や二度ならずあった。

『センセー…仕事しないんですか?』

三月はけだるそうに生返事をした。助手である「永井甜」(ながい てん)に、起こされたのが不満なのである。

『お前ねぇ…仕事があるか無いかも知らないの?全く、助手が聞いて呆れるな…』

あくびをしながら中性的な面持ちの助手に悪態をつく始末である。悪態をつかれた方も、何食わぬ顔で微笑しながら椅子に座っている。

『俺はねぇ、仕事は選んでるんだよ。無駄に脳みそは使わない主義なんだよ…』

三月は起き上がりながら、机に置かれた新聞に目を通すと、すぐに放り投げた。

『…また戦争だなんだって言ってるよ。つくづく愚かだね…』

甜は新聞を拾い、やれやれと言った仕草で黙って聞いている。拾い上げた新聞に気になる一文を見つけた甜は、

『防衛省、定時の会見をキャンセル…面白そうじゃないですか?』
『面白い?ヒューマンエラーのしわ寄せだよ。そんなのには俺の興味は湧かないね。まぁ…詳しい内容次第…』

と言った所で、メールが届いた通知音が鳴った。依頼のメールの音である。

『センセー、依頼ですね?』

感情の抑揚があまり目立たない甜には珍しく喜色ばんで見えたのが三月には意外だったが、折角甜も喜んでいるらしいので依頼のメールを読んでみる事にした。

『あぁ…どらどら……ふぅん…』

興味のなさそうな態度である。しかし、甜は「言葉裏腹」な態度だと読み取った。目が少し、生気を帯びてきたからである。

『甜ちゃん、広瀬報道官って…知ってる?』

甜は喜色を浮かべた表情のまま、

『広瀬報道官。女性ですね?最近は何かと話題に登ってますねぇ…美人ですからね。』

頷きながら三月が続ける。

『その広瀬報道官からのメールだった。要点だけ言うと、”夕方3:00に某所喫茶店でお会い出来ますか”と、顔写真付きで…』

甜は覗き込んでみると、しばらく間をおいて、

『ホンモノですね!良かったですね!仕事ですよ?』
『政府筋だろ〜?面倒だな…』

三月は台詞とは裏腹に面白そうだと内心ほくそ笑んだ。甜はそれを察知して出掛ける準備を整え始めた。

〜喫茶…?〜


『…待ち合わせは…ほんとにココ?マジかょ…』

携帯電話に送られてきた位置情報を辿り、到着したのは喫茶店…もっともその頭に「マンガ」と言葉を足さなくてはならないが…。

『普通さぁ…喫茶店って…ここ、漫喫だよ?』

古き良き時代の喫茶店と想像していた三月は、例の美人報道官の真意を探したが、意外さと期待を裏切られた不満に邪魔されてそれどころではない。取り敢えず、入った事もない店内へとノロノロと向かった。
 受付を済ませ、個室に向かう。指定のプライベートエリアに入ると、通路に季節外れのニット帽と大きなサングラスをつけて携帯を構う女性の姿が目に入った。
(おいおい…夏だぜ?ニット帽、暑くないの?お姉さん…)
内心、その珍妙な女性のルックスに興味が湧いたが、待ち合わせはこのエリアであったので、依頼人を探すことにした。因みに、「メンソールは好きですか?」と、声をかけてくるらしい。そう尋ねられると、「コーヒーより紅茶」と応えて身分の証明にする予定なのだが、
(一体…何にかぶれてこんな合言葉を…携帯鳴らせばいいじゃないか)
と、いちいち変わった事を指定してくる広瀬報道官の人柄に異常性があるのかと少し気になった。
 三月はあたりを観察するようにユックリと、しかし目ざとくエリアを見渡した。奥の方から男性が歩いてくる。
もしもの為に男性の方へ歩みを進めると、すれ違いざまに
(違うな…)
と、確信した為、注視するのを止めた。歳は30代…太った体型。アニメキャラのTシャツにボサボサの髪…どう見ても、よくいるオタクの偶像そのものであった。その男を右肩に見送り、元の場所へ引き返すと、

『メンソールは好きですか?』

と声をかけられた。そちらに向き直ると、例の珍妙なルックスの女性であった。

(やっぱりか…やれやれ)
『コーヒーより紅茶…』

答えるや否や目の前の部屋のルームキーを押し当て、三月は中に引っ張りこまれた。
 女性はその暑苦しそうなニット帽を脱ぎ捨て、サングラスを外すと髪を急いで手ぐしで整え、

『報道官の広瀬です。お越しいただきありがとうございます』

と挨拶を済ませた。キョトンとしながらも、気を取り直し三月もそれに続いて挨拶した。

『第三探偵を専門にしております。神田三月です。よろしく…それにしても…何故、この場所に?』
『普通の喫茶店ではお話が筒抜けです。どうしようかと、検索してここがいいのでは?と…』
『なるほど…しかし…近いですね…』

広瀬報道官は三月と距離が近くにいるのを改めて認識して赤面した。

『そうですね…近かったですね…』

そんなやり取りがあって、本題に入っていった。今朝ほど甜と話した内容に関しての話であったのはタイムリーであった。

『防衛省の機密文書が紛失しまして…報道官の私が発表の為、原本を預かることになりましたが、自室に書類を置き、急な面会の為席を立ち、自室を明けた約十分の内に紛失してしまいました。状況的には盗難と思いましたので、警察に…しかし、事の重大性から大規模な捜査をすると目立ってしまいます。そこで、政府がよく使う探偵を雇いましたが…結局は警察を呼び、その上連携もうまくなく、捜査は滞りました』

 第一探偵は捜査のやり方や方針に異議を唱えるばかりで、実質的な捜査をあまりしていないとの事だった。三月は首を振りながら、

『私に声が掛かるということは、第二の探偵がいるはずですが?』

広瀬報道官は秀麗な眉根を寄せて、困った表情をした。

『第二探偵も政府筋から来ましたが彼は第一探偵と同調して警察の捜査を批判しています。普通だと、第一と第二は手柄を取り合って対立するはずなのですが、今回は同調しているようにも見えます。』

三月は時々頷きながら、また時々は余所見をしながら広瀬の話を聞いていた。ここまで聞いて、三月は話を遮り、

『第二はどなたが来ていますか?』
『確か、仁藤紡…と言いました』
『仁藤…彼は撹乱と隠蔽が得意だと認識しています。おかげで第一が撹乱されて、進まない捜査の責任を警察に転嫁する事に躍起になって真相を追求する事から意識を逸らされてますね…』

 今回の文書の盗難(または紛失)事件の発生から一日しか経っていないものの、初期段階で混乱状態にあるので早くも三月の所を頼ってきた…と言うことらしい。

『それで…気になる点がいくつか…急な来客とは…総理でしたか?』

広瀬は驚きを隠さず表情に出した。

『何故…お分かりに?』
『貴女はとても慌てて部屋を出なきゃいけなかった。施錠できないほどに…目上の方…総理が妥当かと思いまして』
『はい…突然いらっしゃった上にすぐに会いたいと…何でもない話でしたが、時間を取られて…』
『文書も盗られた…と…総理はお一人で?』
『いいえ、秘書の方と警備担当の方の三人でいらっしゃいました』
『警備の方は総理の側にいらしたのでしょうね?』
『はい』

広瀬はそう言って少し考えた後、

『秘書の方は、執務してる職員と話していました』
『その秘書は男性ですか?名前は分かりますか?』
『秘書の方は男性です。名前は…入来一等と言います。変わった名前なのですぐに覚えました』
『いりきいっとう…?聞き覚えが…』
『はい。以前は議員をしておりました。突然議員を辞め、しばらくすると総理の秘書に…』

三月は自分の尖った顎に指を当て、考えていた。

『…なるほど。入来秘書は、ずっとおしゃべりをしていましたか?』
『そういえば、私の視界に居たのははじめの一、二分でした。途中は分かりませんが総理のお帰りの際は一緒に出て行かれたのは覚えています。』
『そうですか。分かりました。…一つ確認したいことがあるのですが、入来秘書と話していた方とお会いして確認したいことが…』
『彼女が何か?気になるのですね?』
『はい。それで…このように伝えてください。
「第三が、相談があるのではないですか?なので、会ってお話下さい」
と、必ず伝えてください。』
『?…分かりました。日時と場所は…』
『ここでいいでしょう。時間は明日の昼に…広瀬報道官も同席ください。』

広瀬は承諾の返事をした。今日のところは聞くべきところを全て聞けたのでその後は、少し話したが取り留めのない、事件には関係のない話に終始した。
別れ際に、広瀬は例の珍妙な姿になりながら、

『明日の予定ですけど、あなたの事務所は何故だめなんですか?』
『私の事務所は来客向けではありませんので…一人でやってると、片付けもままなりませんからね。』

広瀬は納得して、この日は別れることにした。珍妙な後ろ姿を見送って、三月は一人の事務所に帰るのである。

〜三月と甜〜


事務所に向かいながら、三月は甜に連絡した。二、三の要件を伝えて電話を切ったあと、少し早い夕食に向かうことにした。大体は一人で食事を済ます質で、細身のその外見から察しられるように神経質だった。切れ長の双眸には光が宿る多少癖のある長めの髪を、モシャモシャと時々掻くのが癖である。二人以上で食事をするのは、神経が参るのだそうで、事務所にいる甜も似たような感じであった為、揃って食事はしたことが無い。
三月はくたびれたスーツ姿で、少し整えればそんなに見た目も
(悪くない…)
と、ショーウィンドウに写る自分を見て自惚れる姿を、親子連れには笑われ、学生達には気持ち悪がられて、好機の眼差しを向けられていることには無関心であった。知らないほうがいい事もあるもんだ…と、三月も常々思っていることである。

事務所に戻ると、甜が資料を要件ごとに整理して机の上に置いてくれたものを見て、
(どらどら…)
と、読み始めた。

まずは「入来 一等」について。
議員秘書。一昨年までは国政の議員であった。解散前にも拘わらず、突然辞職し翌月からすぐに首相の秘書となる。それまで首相の第一秘書であった、「真田 啓二」氏を第二秘書とした。議員には、新人で当選。党の強いバックアップと、秀麗なルックスにより当選…
(ふぅん…実力は疑わしい…と…)
次に、現総理の「安藤 秀人」について。安藤総理はクリーン路線が売りの政治家。ルックスが良く低姿勢且つ人好きのする笑顔が特徴。政治手腕は並み。現在は後継者がいない…15年ほど前に事故で亡くして以来、子供は誰もいない。

と、ここまで読んで顔を上げると、甜がいた。

『何か飲みますか?』

と、聞いてきたが三月は首を横に振りながら手も振るという器用なポーズで要らないとアピールをした。

 それ以降の資料は、スクラップされた政界でのスキャンダルや周辺の人物の、メディアに出た記事などをまとめたものであった。こちらには事件と絡められる事柄がなかったので、甜が集めた資料を片付け始めた時、一枚の画像がプリントされた紙が落ちた。それを拾い上げる三月は面倒くさそうにテーブルに戻し、仕舞おうとしたが、動きを止めて考え込んでしまった。
 甜が断ったはずのコーヒーを持ってテーブルに置くのも気づかず、再び安藤総理と入来秘書の資料を眺め始めた。その内、

『なぁ、甜ちゃん…この写真と安藤総理の若い頃の写真…似てると思わない?』
『…確かに…似てる部分がありますね』

甜は写真を見比べてそう言った。三月は満足そうに椅子に深く体を沈めると、断ったはずのコーヒーを啜っていた。

〜霹靂〜

次の日の昼。昨日と同じ場所に来た広瀬は、相変わらずの珍妙な格好で現れたのを、三月は揶揄った。その横には、同じ室内で働く「蔦村 乙葉」という女性がいた。三人は既に部屋に入室していた。

『神田さん。蔦村さんをお連れしましたが…』
『ありがとうございます。蔦村さん、でしたね…単刀直入に言いますと…困ったことになりましたね?』

蔦村はギクリとして三月を見た。広瀬からは学校の教師に叱られる生徒のような光景にも見える程で、顔色が青くなっていくのを同時に認めたが、今は二人のやり取りを見守っている。

『何故ご存知なのかはわかりませんが、とても困っています…』
『蔦村さんは…私は巻き込まれたと、見ています』

そう言葉をかけられると、蔦村は困り顔で話し始めた。

『騒ぎがあって、始めは何が起きたかは知りませんでした…少し経ってから、重要機密文書の紛失と聞きました。そして、事件の起きた日の、警察が初めに到着する頃ですが…私の机の中に…その文書と思しきものが…』
『え?あの書類があったの!?』

広瀬が驚きの声を上げた。

『…ありました。』
『だったら、早く渡してください。すぐに捜査を打ち切りましょう!』

蔦村は首を横に振り、

『次に見たときは、失くなっていました…』
『そんな…』

希望が見えたのに、そんな広瀬の落胆は気の毒になるほど目に見えて、三月はそれを見ながら蔦村に話しかけた。

『何故すぐに申し出なかったのですか?』
『…はい。後悔しています…まさか失くなるなんて…私は、もうすぐ婚約する相手がいます。このような身に覚えのない事で報道されると、婚約が破棄されてしまう…そう思ったのです。』
『なるほど…二回目に失くなる前後の事を詳しく思い出してください』

蔦村は考え込み、警察が横柄であったこと。第一探偵が他の職員…特に女性に粘着していたこと。そのうち、警察に邪魔扱いされて、操作方針がどうとかと騒ぎ始めたこと…宅配の業者が来たこと。第二探偵と総理秘書がやってきたこと…等を話し始めた。

『…第二の人は、入来秘書と来たんですか?』
『いえ、別々に来たようでしたが、初めから見ていたわけではありませんでしたので…二言三言、親しげに話してましたが…』
『宅配業者はいつ来ました?』
『入来秘書が去って…大体…30分位でした。』
『書類が無くなったのに気付いたのはどのタイミングで?』
『宅配の人が来た時は、事務所は大混乱でした。私も、あたふたしてしまいましたが、仕事もあり、宅配の方が帰っていったのを見て、落ち着きを取り戻し始めた頃でした』
『宅配は何だったのですか?』
『それがよく分からないのです…何を届けに来たのか…?』

三月はピシャッと膝を打った。音は意外に高く、二人は驚いていた。膝を叩いた三月は二人に構わず話出した。

『広瀬報道官…この情報を欲しがるのはどういった立場の人間だと思いますか?』
『それは…スクープの欲しい報道関係か、隣国のスパイか…』
『そうですね。そのとおりです』

三月は立ち上がり、部屋の外へ出ていった。五分もしないうちに再び個室に戻ってきた三月の手には携帯電話があった。
甜に電話していたのである。
三月はある指示を甜に頼み、二人には野暮用で電話していたと伝えた。

その後、解散し妙な変装の広瀬と並んで歩いていた三月は、
(なんだ…視線が痛いな…)
通行人の好奇に晒されているのに気付いた。普段は気にしない三月も、広瀬の風貌には辟易したが、当の広瀬は黙って歩いている。話しかけても、心ここにあらずと言った体の広瀬に少しムッとしながらも、三月達は歩き続けた。
そうするうちに電話が鳴った。

『センセー、ヒットしましたよ?リプには今日の夜に伺うとありました。』
『早いな!分かった、早く戻る…』

電話を切りポケットにしまうと、広瀬の視線に気づいて少し驚いた。

『…女性の…声が聞こえたのですが…恋人ですか?』

これには三月も吹き出してしまった。

『全然違います。情報屋…とでも言いますか…とにかく、そんなんじゃありませんよ』
『確か…一人の事務所とお聞きしていましたが…戻るって…事務所にですよね?』
(しまったな…)
三月は内心舌打ちをした。
『あぁ…ヤツには会う約束をしていたのでね…今から戻るから、何時でも来なさいという意味で、そう言いましたが…気になります?』
『神田さんは、どこか不思議な雰囲気なので…つい…』
『適当に生きてますよ…私はね。それに、ヤツは女性ではないんですよ』

それを聞いて、広瀬は訝しげにしていた。

『あ、そうだ。…一つ頼みを聞いて頂けます?』

三月は少し声を落として、広瀬に顔を近づけた。広瀬はそれを始めは驚き、次第に嘆息を漏らしながらも頷いて聞いていた。


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