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短編小説『第三探偵』(解決編)

〜対決〜

『やれやれ…』

事務所に戻った三月は、少し疲れていた。ドサリとソファーへ倒れるように座った。ソファーを占領して、歩いてくる甜に声をかけた。
『奴さん…なんだって?』
『焦っている感情を検知しました。効果的だったですね。さすが、センセー!』
普段は感情の起伏というものを表さない甜は珍しく饒舌であった。そうは言っても、普段よりは僅かに興奮気味だと言う程度であるので、三月の様に普段からよく知っていないとわからない程度の変化ではあるが…

『おぉ…珍しい反応で、ビックリだ。甜ちゃんにしてはね。』
『時間が空いたら動画を見て勉強していますからね!』
『何の勉強やら…おや?誰か来たみたいだぞ?』

ノックの音が聞こえる。甜は出迎えに行くと、公安の浦上係長であった。

『おぅ!甜!少し変わったか?』
『ウラっちさん、こんばんは!』

と、親しげである。何しろ、甜を三月に預けた張本人であるので、勝手知ったるものだ。

『よう!三月!相変わらず若作りだな!見た目より一回りも若く見えるなんて!そのうち年齢詐称でとっ捕まるぞ?ハッハッハ…』

中に招こうとする甜を遮って、浦上は簡潔に要件を伝えた。

『お前等の情報と推理の通り…外国人スパイを抑えておいた。甜が流した情報は奴らにとっては魅力的だったようだな!面白いほど湧いてきたぞ?お陰で、面目がたったぜ?ありがとな!』
『いえ、いつもお世話になってる恩返しですよ。この後も控えていますので…ね?』
『あぁ。向いの空きテナントで張らせてもらうぜ?』

そう言って、サッサとて行ってしまった。
騒がしい浦上は公安でも異色と言える。

『さて…静かになった…そろそろ、主役を迎える準備をしようか、甜ちゃん?』
『そうですね。少し片付けます。』

テーブルや壁に貼り付けた資料と写真の必要なもの以外は、隣室の物置代わりの部屋へと移動させ、一応は応接の出来る環境になった。

先方の伝えてきた時間は20時…時計はその3分前を示していた。夜の収まらない喧騒とは無関係な事務所周辺である。表通りも人はまばらで、通行人の足音で男性か女性かが分かるくらいであった。
今、長身であろうことが伺える男性が事務所前の歩道を歩くのが聞こえる。
やがて、旧式のエントランスのドアを開け、そのうち通路を歩く音が聞こえた。足音は事務所前のドアに止まった。ほんの暫くの間が空き、ドアをノックする音が聞こえる…
ドア越しに甜が、

『どなたですか?』

そう尋ねると、

『入来です。ご用件をお聞きしたく参りました』

来訪者は入来秘書であった。
 三月は手をすり合わせ、顔を隠すような仕草をしながら、瞳の奥に鈍い光を放っていた。
それから甜に目配せをして、招き入れた。入来は入ってくると、甜をまず見て少し観察するようであったが、直にやめて案内された事務所の中に通された。
形式上の挨拶を済ませた三月と入来は、応接セットのソファーにそれぞれ相向かいに座った。

『それで、ご用件は?』

入来が微笑みながら三月に話し掛ける。

『単刀直入に申し上げると…紛失書類をお返し願いたいのです。』

コーヒーを運んできた甜が、それぞれに配っていたが、入来の顔を見るとさっきまでの微笑は消えて、端正な顔に残忍な目つきに変貌していた。

『…弁解などはどうやら不要みたいだな。』

入来は紳士風ないかにも秘書らしい口調から、低くゆっくりとした口調に変わった。

『なるほど…それが君の本来の姿と言う訳かな?』
『まぁ、そうだな…なぜ分かった?』
『説明するのは簡単だけどね。それに答えるよりもまずは私の質問に答えてもらいたいね』
『ふん…いいだろう』
『何故…父親である総理の不利益を行っている?』

そう言って、三月はコーヒーを一口含んだ。入来は驚きで一瞬目を見開いたが、甜の様に観察していなければ気づけなかっであろう。
 平静を装いながら、入来はスーツのポケットから時代錯誤な紙巻きを取り出して、

『吸っても?』

と、三月に尋ねた。
三月は無言で頷き答えを待った。

『それはいずれ気づかれるとは思っていたから構わないが…あの書類はもぅ、手元には無いぞ?』

三月は立ち上がり窓辺に移動して背を向けた。窓の外にライターの灯りをモールス信号にして何かメッセージを送った。
すると、向いのビルから数名の男達がどこかへと去っていくのが見えたので、小さく頷くと入来に振り向いた。振り向くと三月はそこで動きを止めた。

『残念だが、種明かしの全てに付き合っている暇はない。頃合いだからな…この国を出て、ドイツにでも行こうか?』

三月は今や入来の拘束下になっている甜を見やった。頭には銃を突きつけられている。入来は、甜が抵抗も無くされるがままになっているのを意外そうな表情でチラリと甜を見たが、三月に話しかけられて再び三月を見た。

『…ドイツ?推理と予測が正しかったな…「入来一等」…その名前からヒトラーを意識したのか?』

三月は冷静に、入来へ問い掛けた。甜は後ろから羽交い締めにされ、戸惑いと困惑の表情を浮かべているが、恐怖でパニックにはなってはいない様子だ。
三月は続けて、

『総理の一人息子…あれをやったのも、君か?』

入来は笑い始めた。

『そこまでわかってるなら尚の事…お前たちには消えてもらわねばならないな?』

甜のこめかみに押し当てられた銃口が火を吹いた。

『甜!』

床に崩れ落ちた甜に近づこうとすると、入来はそれを許さず銃口を今度は三月に向けた。
三月は数歩後ろにゆっくりと下がったが、その分、入来は近づいてきた。
立ち止まり、甜を再び見やっている三月だったが、瞳を閉じたり開いたりを繰り返した。入来はそれを恐怖と見て取った。

『どうした?流石に助手をやられて、怖くなったか?』

三月は入来を見直しながら、

『ど、どうか命までは…』

入来が鼻で笑った瞬間、

『な〜んて…そんなモブみたいな事を言うと思う?どちらが優位なのかな?勿論…俺の方だよ!』

そう言い放つと、三月は横に移動した。物陰に隠れる様に移動する様子は普段の彼の動きからは想像できない俊敏さであった。動きを追って入来は一発を発砲した。次弾を撃とうと引き金に力が篭もる。三月は部屋の隅まで逃げたが、入来ににじり寄られて必死の間合いになった。

『往生際が悪いな?』

そう言われた三月だったが、余裕の笑みを浮かべていたので入来は訝しく思った。その瞬間。突然銃を叩き落とされて唖然とした。死角となっていた左側を見ると、撃たれた筈の甜であった。

『な…何故、生きてる?』

そう言った入来は、瞬時に甜に投げ飛ばされた。今度は甜が入来を拘束する番となっていた。入来は意外に「重い」甜の体重に喘ぎながらも、抵抗を試みていた。

『クソッ…』

できうる限りの抵抗をしていた入来も、突入してきた浦上の再登場により観念したようだった。

 浦上に手錠をかけられ大人しくなった入来であったが不遜な態度は変わらなかった。

『ふん…今日の夕方には…この国から無くなっているはずだ。俺を捕まえても、不利益なのは変わらんぞ?』
『うるせぇな!黙ってろ!』

浦上に一喝されて入来は多少はしおらしくなった。


〜甜とは〜


資料室になっている部屋が甜の部屋でもある。今、三月と甜はこの部屋にいた。三月は甜を覗き込み、銃で撃たれたこめかみあたりを見ていた。

『外的な損傷は殆ど…ないな。』

そう呟き、三月は今は大人しく座っている甜から少し離れた。
 甜は見開いた目を真っ直ぐ向け、三月の腹部あたりを見ているであろう視線を今度は三月の目に向けた。

『戦闘モード継続しますか?』
『いや…もぅいい…AI-10、休眠モード。』
『了承しました。おやすみなさい、センセー…』

そう言うと、瞼を閉じて休眠モードに移行した甜はそのままの姿勢で動かなくなった。

 「永井 甜」はアンドロイドである。
かつて国家機密であったものだが、某製造会社が外国からの産業スパイによって情報を盗まれると言う事件で密かに浦上が預かり、三月の所に「匿われて」いるのであった。
先進の技術で製造された甜は、見た目にも人間と変わりない。ただ、試作機であるので実装予定筐体よりも小さい体で製造されたのは、コストを抑える為であった。
 休眠モードになったのを確認し、資料部屋から出た三月は、再び入来と対面した。

『随分大人しくなったじゃないか?』
『…』

 顔を上げ、無言で三月を見返した入来の表情は不思議と穏やかでそれを見て、三月は怪訝に思った。

『なぁ、三月。教えてくれ。何故、こいつが星だと思ったんだ?』
『…簡単です。報道官室の職員と話したのは一旦隠す場所の観察…第二探偵は懇意の者を使い、撹乱を指示…総理の若い頃に似た所のある面立ち…そして、その動機…』

入来は口を挟んできた。

『お前達が言う、機密文書の持ち出しを俺がしたと言う証拠はない。推理と状況証拠だけで、俺を立件は出来ないだろう?尤も…銃刀法違反と障害はつくかもしれないがな。』

三月と浦上が顔を見合わせた。浦上は小さく頷いて言った。

『…そうだな。お前の言う通り残念だが、「今の所」その件ではしょっぴけないな。』

入来はフフンと鼻を鳴らし、どうとでもなると言った表情を浮かべた。

『だが、どうかな?そろそろ…』

そう、三月が言うか言わないかの間に浦上の携帯が鳴った。入来を見ながらその電話に出て、始めは何かボソボソと話していたが、

『そうか!良くやった!』

と、言って電話を切った。勝ち誇る浦上の表情が入来の不安を煽る。

『お前が渡した書類は回収された。某国の工作員の身柄と共にな!』

それを聞き、入来は愕然とした表情だった。悔しいというよりも、絶望した様な表情になった。顔色は土気色になり、冷や汗の滲む様子が手に取りわかった。そのうち項垂れて、完全に沈黙したのだった。

『じゃあ、行こうか?国家機密を持ち出した男さんよ?』

浦上は入来を迎えに来た捜査員と共に出て行った。そうして、今夜の事務所で起きた騒動はようやく平静を取り戻し、甜を出せる状態になった。その前に、三月は広瀬に解決を伝えるべく短く電話した。
電話の後、三月は少し手揉みして今夜の冒険の余韻に浸りながら、甜の休む部屋を見やり、おもむろにドアを開けたのだった。

〜終章〜


翌日の新聞には事の顛末が大々的に掲載され、俄に三月は時の人となった。何処に行くにも都合が悪く、特に事務所に人が来るのは最早、迷惑に近い思いだった。
 甜を隠蔽しなければいけないので、事務所でのアポは取れない。なので、外出しての対応となるのが、元来物臭な三月には苦痛でもあった。

 それとは別に、広瀬に頼んで取り付けた約束がありその為に、例の喫茶へ向かった。今度は三月も変装しなくてはならなかったが、それは先方も同じ事である。少し肩を透かしながら指定の部屋のドアをノックした。少し特徴のあるノック音は合図にもなっている。
 ドアが開くと三月は素早く入りすぐに閉めた。中にはややガッシリしているが、若い頃はさぞかし浮名を流したであろうその顔に、今は苦悩が見て取れる。部屋にいるのは時の人の双璧をなす、安藤総理であった。未だ入来との関連性までは報道に至っていないものの、首相の秘書である彼の不祥事は政権の維持のためには大打撃であった。

『お呼びに応じて頂き、ありかとうございます、総理。この度は大変な事になりましたが、身から出た錆…とでも申しましょうか…』
『…アレが、こんなことをしでかすやつだとは…あの時に遠ざけるべきだったが、もぅ遅い…』
『確かにね。色々過ぎてしまった事です…隠し子であると、彼からの告白でしたか?』
『むむむ…広瀬君から話を聞いた時は肝が冷えた。
漏洩するとは思ってなかった訳ではないが、息子を亡くし政治的な後継者としてアレに…一等に残りの政治家活動を共にし、修行させるつもりだったが…』
 
広瀬との別れ際に、会いたい事と息子の件について話をしたい事を伝言し、昼前になって連絡があったので夕暮れの頃に人目を忍んで…と言う事になった。場所は広瀬の入れ知恵であろう事は容易に想像できた。

『それにしても、私の若い頃の面影には似ていないと思うのだが…』
『特徴的な目と、鼻…形が類似しています。AIがまだ稼働していたら…容易に分かると思いますが?』
『ん?神田…三月君と言ったかな?聞き覚えがあると思ったら…例の一件の…』
『そうです。あれは秘中の秘…たとえあなたであっても、漏らせば安全の保証が出来ない案件です。』
『AI-10プロジェクトの、引き取り先…とはな…それなら致し方ないな?で、解決と逮捕を見越して、私を呼んだのは…何か狙いがあってのことか?』

 三月は少し笑みを浮かべて、安藤総理に嘯いた。

『第三探偵なんて割に合わない仕事なんです。それで、前例を作っていただきたいのです。何、厚かましいお願いではないのです。第一、第二と政府が用意した探偵が無能だったので、第三が解決した場合は…依頼費用の総取りである、と…総理に示して頂きたいのです。…恐らく、この後政権は解散するのでしょう?その前にやっていただきたいのです…勿論…こちらも総理の情報は隠す事が条件になりますが…如何ですか?』

総理はそんな事かといった表情で了承した。

『それでは神田君。達者でな。再び会うことは…無いことを願いたい。』

別れ際に、安藤首相はそう言った。

『総理。予め言っておきますが、これは「脅迫」ではありませんのでね?こちらとしては、そんなつもりは微塵もありません。』
『分かっているつもりだ。』

 そうして、部屋の前で密かに別れた二人は今後はどちらかがメディアに出る時以外は、顔を合わせることは無かった。

事件から数ヶ月が経った。
以前は閑古鳥の泣く事務所であったが、最近では携帯電話だけでは事務が成り立たないくらいに問い合わせが多い。

『チッ…安藤め…余計な置土産をしていきやがって…』

あの会談のあと、しばらくして安藤内閣は解散して新政権が生まれた。安藤は約束の通り、「第三探偵が解決した場合は報酬の総取りが妥当」と言う概念を定着させる為、自らそれを実施し後世に伝えた後、議員バッチを置いた。
去り際には各メディアや政財界の友人。社会的に地位の高い友人達に、三月を宣伝していったので問い合わせが鳴り止まなくなっていた。そのせいもあって、過分な仕事の量で忙殺されているのであった。

『俺が何をしたってんだよ…』
『センセー!お客さんだよ!』
『断れ!…っていうか何勝手に対応してるんだよ?お前って…立場分かってんの?』

苛立ち気味で甜と話す三月は来訪者が既に入室してることにも気付いていない様子である。

『立場…とは?』

甜の声ではない声に、ギクリと体の動きを止める三月は、次に恐る恐る声の方向を見たが、次の瞬間片手を額に当てソファーに崩れ落ちるのであった。

『来ちゃ、いけませんでした…か?』
『まずいですよ!非常にまずい…これで、あなたは!秘密を共有しなくちゃいけなくなったんですよ?広瀬報道官!』

 来客は広瀬であったが、既に報道官ではなくなっていたのも失念してしまう程の狼狽ぶりを見て、吹き出してしまう広瀬であった。
甜は笑顔ではあるが、何がおかしいのか理解できないでいた。

電話が鳴り止み、遂に静かな事務所に戻ったが三月は憂鬱そうな表情で広瀬と向かい合ってソファに腰を下ろしていた。

『しかし…急に…よくわかりましたね?』
『あれだけ報道されていたんです。わからない方が不自然ですよ?』
『まぁ…そりゃ、そうか…』
『ところで…お聞きになっているかと思いますが、入来一等…どこにいるんでしょうね?』

 そう、入来は脱走していた。護送中に、何らかの事故があり護送車両からまんまと逃げおおせていた。今も行方は分かっていない。

『さぁねぇ…こちらの失態ではないからね…どうでもいい…』
『神田さんは、態度を変えられるタイプなんですね?初対面の時とは随分違う印象ですよ?』

三月は苦々しく笑ったが、別に可笑しくも何ともなかった。

『それで…来ちゃったもんは仕方ないとして…ご用向きは?』
『はい。この度、田舎に帰ろうと思いまして…政界に残るのは嫌気がさしましたので、考えはまだまとまっていないものの…解決して頂いた神田さんに、ご挨拶を…と思いまして。』

『そうでしたか…しかし、田舎に帰るのは考えを改めた方がいい。何しろ、国家機密に触れた訳ですから…向こうに行っても常に尾行がつきますよ?』

 三月は、甜が国家機密のアンドロイドである事。存在を知られない為に事務所での応接を避けていた事。これを知るのは数人しかおらず、その内の一名が広瀬である事等を手短に伝えた。俄には信じられない様子だったが、甜が三月の瞼の開閉による、自称「虹彩モールス」により遠隔指示され、休眠したのを見るとようやく信じた。

『AI-10…だから、永井とつけたのですか?』
『安直だけどね…』
『一体、いつ頃から入来を疑っていたのですか?』
『う〜ん…まずは、第二と懇意な点…通常は第一と第二は反目し合うもの…だけど同調したからね?珍しいな、とはじめ思った。そう思えば、議員を退職した者が秘書をやるのは、どうも釈然としない。逆なら分かるんだけどね。そこで俺の中には引っかかりがあった。
あ…そぅそぅ、蔦村さんに話しかけた事も、計画的に一旦隠す場所の選定と確認…もしかしたら、彼女が「虎猫亭佐吉」と言う噺家と婚約間近なのを知っていたかもしれない。まぁ、それはいいとして…宅配屋に変装して侵入したのも、入来だった。彼女がまごまごしてるうちに、まんまと取り返した。怪しまれないからね。安藤は入来に頼まれたんだ。防衛省の重大発表を任された、若い報道官を激励してくれ…ってね。安藤は下手に断ると、思わぬタイミングで隠し子である事を公表されるのを恐れた。だから、素直に従わざるを得なかったっ…て、まぁ、そんな具合だな』

滔々と流れ出す三月の推理の根幹に、目を輝かせ聞き入る広瀬であったが、

『何故、そんな大きな事をしようと思ったのでしょう?総理は実の父親でしょう?』
『うん…そこは自白の前だったから明らかにはなってないけど、俺の予測では…恨み…だろうね?』
『恨み…ですか…』
『入来は総理の長男を殺害…または、そうなるように工作した。カマをかけたら、案外すんなり認めたからね?』

 ふぅ〜…っと、ため息のように息を履いて、ソファに深くもたれた広瀬は少し宙を見てから思い出した。

『あ、そういえば!私に尾行がつくって…冗談…ですよね?』
『い〜や〜…』

いたずらっぽくほくそ笑む三月は更に、

『結構、面倒だと思うよ?田舎に帰っても、なかなか休まらないと思うけど?…そこでだ!明確な予定がないなら、一つ、安全な方法を教えようか?』
『え?何ですか?そんな方法があるんですか?』

食いついて前のめりになった広瀬に、三月は顔を近づけて言った。

『それは…この事務所で働くことだよ。』
『えっ!?』
『報道官は辞めたんでしょ?だったら、国家機密を知った以上、機密が現在進行形で保たれるこの事務所は、身柄の保証には最適だけど?どぅする?』

顔の近さに気付いて広瀬は赤面しながら、体をゆっくりと反らしてソファに座り直した。

『えっと…魅力的な提案ですね…でも、急に言われましても…』
『どしたの?センセー。』

突然、充電が終わった甜が割り込んできた。

『あぁ、広瀬君を事務所に勧誘してるんだよ。』
『へ〜!宜しく!広瀬さん!』
『まだ決めてないので…』

と、立ち上がり出口に差し掛かると、

『近いうちに…』

とだけ言い残して、広瀬は帰って行った。

 残された三月と甜は、その後ろ姿を見送りながら、

『また、来るよね?センセー。』
『…まぁ、そぅだろうな…』

含み笑いをして、三月は静かにドアを引くと静かな館内に、小気味の良いドアの閉まる音が響いた。

〜終わり〜

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