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『紫の月の頃に』(三)

〈五〉

『法力とは…想いの形の様なものだ。この幽月に入る事が出来たなら、法力の種を既に宿しておる…まずあぐらをかいて、手を降ろし…両の掌を合わせて軽く器の形にする…そうだ…雪人、そうじゃない。こう、だ…』

襲津は見た目に似合わず優しく教えてくれた。

『ん…ワシの言葉は古いかもしれぬ…弘樹殿、この者たちのわかり易い言葉で伝えてくれぬか?』
『襲津さん、教えるの上手いですよ?』
『そ、そうか?』

満更でもなさそうだが、やはり弘樹が教える事になった。

『ここまではいいね?じゃあ、目を瞑って…イメージして…この世の中にある悪いものを抑えたり、封印できる力を…青白い光の玉をね。』
『ほい、来た。やって見るよ〜…集中〜集中〜…』

すると、如月の掌の中に小さな野球のボール大の光の玉が出来ていた。
次に千裕が成功したが、これはソフトボール程の大きさになっていた。

『イメージ…出来た!何となく…手が温かい…』

千裕はそう言った。襲津と弘樹は見合わせて頷くと、残りの男子二名を見てみた。
圭太郎はピンポン玉くらいの玉を作り出したが、雪人はまだ出ていなかった。

『皆、目は閉じたままで、イメージの玉を大きくしてみようか?福ちゃんは、どれぐらいの玉を想像してんの?』
『俺は…米粒くらいのをイメージしてる…』
『小さいよ!福ちゃん!もっと大きいの想像してみて?』
『…分かった…バスケットボールくらいで…』

と、言った瞬間に3mは有りそうな巨大な玉が出現して、隣に座っていた圭太郎を軽く押し退けてしまった。

『…なんだよ、雪人…なんだこれ?』

その声に、皆目を開けて雪人の作った玉の大きさに驚いていた。当の雪人は目を閉じたままだったので、まだ気付いてはいないが、その玉の中に自分自身も入っていた。何となく目を開けると、光の中にいる雪人は驚きの声をあげた瞬間、玉は消えてしまった。
驚いた様子が可笑しくて、この場にいる全員が声を上げて笑った。襲津さえも笑っている。

『ハッハッハ!いやいや、上出来だ。初めにしては上手くいっておるな!待てよ…上手くいきすぎてるな…お前達、何処かに宿泊したか?例えば信濃…いや、長野と言ったか…そこに「花月」と言う旅籠があるが、そこに泊まっているとか?』
『真千子叔母さんの旅館をご存知なんですね?僕達は皆、そこで泊まっているんです。』
『弘樹殿の叔母であったな…それは良かった。実は、真千子は幽月への誘い手の役割を持っていてな…』

ここまで12話

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