高尾歳時記 2024年5月25日
高尾では、イナモリソウが見頃を迎えています。
イナモリソウは、高尾山の初夏を代表する花のひとつです。高尾山に咲くイナモリソウは前掲の写真にある標準種に加えて、花びらが細く、その縁がくるっと丸まって、まるでお星様のような形になるホシザキイナモリソウと呼ばれる品種も観察できます。
このホシザキイナモリソウは、昨年放送されたNHK連続テレビ小説「らんまん」の主人公のモデルとなった牧野富太郎博士が高尾山で発見し、発表したものです。発表当時はイナモリソウの変種としたのですが、現在は同じ種の品種違い(形違い)とされています。品種違い(分類学上は「form/forma」、略して「f.」。変種「variety/varietas」であれば「var.」が付される)は簡単にいうと、アジサイには赤い花をつけるものや青い花をつけるものがあったりしますが、色が違うだけで種としては同じ、ということです。イナモリソウの場合は、太い花びらをつけるものもあれば細い花びらをつけるものもあるが、太さが違うだけで種としては同じ、ということです。
イナモリソウ
Pseudopyxis depressa
ホシザキイナモリソウ
Pseudopyxis depressa f.angustiloba
両者は見た目が全然違いますので、牧野博士がホシザキイナモリソウを見たとき変種と考えたのもむべなるかなと思いますが、現在は牧野博士の時代にはなかったDNA解析による種の再分類が進んでいるため、正確性は向上しています。ですが、ちょっと風情が失われるような、と考えてしまうのは私のような門外漢の勝手な願望でしょうか。
あと今日はもうひとつ、この時期しか見られない変わり種のムヨウランも咲いていました。
本日高尾某所で固まって何株も咲いているところを見つけたのですが、ほとんどが登山道から離れたところで咲いていて、持っているカメラではズームの限界の向こう。もちろん登山道を外れて野生地に踏み込むなどという無法は犯しませんので、カメラを持つ手をめいっぱい伸ばして、一番近くにあった個体をかろうじて撮ったのがこれ。いっぱい咲いていたのでもっと撮りたかったのですが、ここは植物の損傷や採取に刑事罰が課される、自然公園法に基づき指定された明治の森高尾国定公園内の特別地域。とどかないなら、撮影をあきらめるしかありません。
ムヨウランは菌従属栄養植物と呼ばれる植物の一種。植物は一般的に、自分が生きるための栄養を光合成によりみずから生産します。ですが、菌従属栄養植物は光合成を行う能力を持たず、生きるために必要な栄養を、根に共生する菌に依存しています(最近は研究が進んで、「共生」、すなわち持ちつ持たれつではなく、相手に何も与えず一方的に栄養を吸い上げる種もあるらしいのですが)。
ですので、光合成に必要な葉緑素を持たないムヨウランは、このとおり濃いミョウガ色をしており、周囲の色合いに溶け込んで気づくこと自体が難しく、また、個体数が少ないことに加えて観察できる期間が短いため、見つけるのは極めて難しい。
一見地味なこのムヨウランですが、ランのしつらえを備えたその花は、よく見るととってもハンサム。その稀少さもあいまり、実は毎年楽しみにしている方々が大勢いらっしゃって、見つけて狂喜乱舞している姿をみかけるほどの人気者です。今日歩いていたら、遠く視線の先で山マダムの淑女の皆様御一行が黄色い声をあげてはしゃいでいるのが見えたので、「あれは…ムヨウランが咲いたな」とわかりました。わかりやすく目印になってくださり、誠にありがとうございます。
去る今週月曜日、5月20日は二十四節気の小満。夏は確実に深まっています。昨日は全国的に晴れて、東京は30℃近くまで気温があがりましたが、今日は少し落ちついて、午前10時時点の高尾山山頂の気温は23℃。暑くはなかったのですが、湿度が若干高く、汗を拭きながらの山行になりました。
先週まで週末の高尾山は大混雑でしたが、今日は若干少なめでした。これから梅雨を迎えますので、人出はより落ち着くでしょう。
今日も花の多いところを巡ってきました。
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