マガジンのカバー画像

本のこと、映像のこと

5
画で、文字で、味わったものを見返すため。いつでも手に取れるTSUTAYAの棚みたいなのが目標。いつか足跡をたどれるよう、続けられたらいいなと思う。2024.Oct.
運営しているクリエイター

記事一覧

book #5 「もったいない主義」と、閾値の話。

book #5 「もったいない主義」と、閾値の話。

閾値(いきち)という言葉を、この本で初めて知った。

例えば、にんにくの一口目は強烈な匂いがするのに、だんだん感じなくなる。それは匂いを感知する閾値が高くなるからなのだそう。
幸せの閾値。人の感覚は不思議だなぁと思う。

いわゆる物質的な「もったいない」ではなく、日常の出来事をアイデアにしなくちゃもったいない、というテンポで語られている。
少し視点を変えたら、日々のあれこれがワクワクに変わるかもし

もっとみる
book #4 「沈黙法廷」と、心の空白の話。

book #4 「沈黙法廷」と、心の空白の話。

映画「空白」を観た。
みんなちょっとずつ傷を抱えて、日々をそーっと生きている。でも誰かや何かを守ろうとする時、その人の思う「正義」が思わぬ方へ向かうことがあるかもしれない。そこから広がる波紋が、知らない誰かまで傷つけることも。

じりじりヒリヒリ。日常にある繊細な心の描写が、痛くて熱い。心の空白と向き合うのは、エネルギーが要る。

ほぼ同じ時期にドラマ「沈黙法廷」を観て、原作を読みたくなった。

もっとみる
book #3 「いとしいたべもの」と、スパイスの話。

book #3 「いとしいたべもの」と、スパイスの話。

こ、このメロンパン、美味しそう。外がザクッとしたやつだ。

懐かしいー!とか、食べてみたいなぁとか。食べ物とそれにまつわるエピソードが面白くてあったかい。挿絵の風合いに惹かれて数年前に手に取った。

ひとり暮らしのもの寂しさが相まって、母のカレーライスが恋しくなったり、夜更けのどん兵衛が羨ましくて、「おあげ」の食べ方を真似してみたり。そんな学生時代の自分を思い出しながら、今回はじっくり再読。

もっとみる
book #2 「村上ラヂオ」と、お屠蘇の話。

book #2 「村上ラヂオ」と、お屠蘇の話。

お屠蘇にあらためてしみじみ、の話。

わが家のお屠蘇は、東肥の赤酒ときまっている。
年に一度、この味に触れると、「これだよなぁー」としみじみ思う。ちょっと大げさにいうと、1年おきの自分を何十人も重ねながら「あっ、今生きている」と確認している気分になる。

村上ラヂオの「イタリアのパスタ」の話を読んで、そのことを思い出した。

好きだなぁと感じる作品(特にエッセイ)には、どんな共通点があるのだろう、

もっとみる
book #1 「人生フルーツサンド」と、仏像の話。

book #1 「人生フルーツサンド」と、仏像の話。

日常は、かっこよくなくて愛おしい。

本書のなかで著者がかけられた言葉に、こんなものがある。
『仏像は彫ろうと思えば誰でも彫れるけれど、魂を込めて彫らなければただの人形になってしまうのと同じです。』
そしてその話の最後に、『手抜きかどうか。人形か仏像か。…(中略)自問自答しながら、仏師のような気持ちで今日も書いている。』と。だからこんなに沁みるんだ。

日常に散らばっている「愛おしい」や、こぼれ落

もっとみる