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短編 | 視霊者の夢
「わたし、守護霊を視ることができるんです」
瞳は熱心に語り始めた。「またか」というのが僕の率直な感想なのだが、彼女の自己主張の強さも知っていた。
「瞳ちゃん、君が守護霊が絶対にいるという根拠はなにかな?」
僕は聡明な瞳に理性的な説明を求めた。
瞳は気色ばみながら言った。
「わたしの目に映るからです。明らかにわたしの目に見えるから、というだけでは不十分でしょうか?目に見えないものを熱心に信じる人がいますが、ハッキリと目に見えるものを疑う人はどうかと思いますが。先生だって、そうでしょう?違うんですか?」
「どうかな?目に見えれば、すべてを信じるというのは正しいだろうか?錯覚ということもあるしね」
「でも、わたしの目に映るものは、どうしても錯覚だとは思えません。繰り返し何度も見えるものですから。蜃気楼の中で見たものでも、陽炎の中で見たものでもありませんから」
「だが、僕には守護霊なんて見えたことはない。おそらく見たことがない人が多数派だろう。瞳ちゃんしか見えないものが実在するとは到底思えない」
「わたし、その人にしか見えないものを簡単に否定してはいけないと思うのです。同じものを見ても、人によって見え方がまったく異なることは、けっこうありますよね?」
「それはそうだが、君が守護霊を見たと言っているときに、君の瞳には守護霊は映っていないようだけど」
「先生って、わたしが守護霊を見た現場に立ち合ったことがありましたっけ?だったら、今度、わたしと二人で、街中を歩いてみませんか?わたしが『守護霊が見える』と言っているとき、わたしの瞳には必ず守護霊が映っているはずですから」
「高校生の女の子と僕が二人で街中を歩くわけにはいかないな。変な疑惑を持たれても困るから」
「先生、逃げているんですか?わたしは仮に援交していると思われたって気にしません。わたしはただ、先生にわたしがウソを言っていないことを信じてもらいたいだけなんです」
僕は瞳の口車に乗せられた。休みの日に二人で街中を歩くことになった。
「先生、大丈夫よ。親には部活があると言ってあるし、友達にも口裏を合わせるようにちゃんと言っておいたからね」
僕たちは街中を歩きまわった。
瞳はカップルを見かけては、「守護霊が見えた」と繰り返した。
僕はその度に、瞳の瞳をじっと見つめていたが、そこには守護霊が映ることはなかった。
「瞳ちゃん、君の目には何も映っていないよ。だんだん暗くなってきたから、そろそろ帰ろうか?」
瞳の目から涙があふれ出した。
「先生、わたしのこと、嫌いになった?わたし、先生にはウソなんて言ってないよ」
僕は瞳のその言葉に、一滴のウソがないことを見てとった。と同時に、瞳のことをとても可愛いと思った。
「先生、一生のお願いがあるの」
瞳は僕の右手をギュッと握った。とても温かかった。
僕は、次の瞬間、瞳を抱き寄せて、キスをしていた。
どのくらい抱きあっていたのかは覚えていない。だが、確かにその時、僕の目には瞳の守護霊が見えた。
「瞳ちゃん、君の守護霊がハッキリと見えたよ」
「先生、わたしにもハッキリと先生の守護霊が見えたよ」
「そうか。それは良かったね」
「先生、わたしのことを信じてくれた?」
「あぁ、信じるよ。ホントに僕にもちゃんと見えたからね」
後日、僕は家庭教師を辞めさせられた。瞳の友達の一人が僕たちがキスをしている写真を瞳の母親に送りつけたようだ。
それ以来、瞳とは2度と出会うことはなかった。
しかし、あの時、僕には間違いなく瞳の守護霊が映っていた。それは紛れもない事実だ。
~おわり~
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記事を読んで頂き、ありがとうございます。お気持ちにお応えられるように、つとめて参ります。今後ともよろしくお願いいたします