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読書 |『赤毛のアン』とブラウニング


はじめに


 最近、ぼくは、小説を書くことにも、読むことにも疲れて、シェイクスピアのソネット集や、岩波文庫の「イギリス名詩選」や「アメリカ名詩選」などの短い詩を読むことが多かった。

 その他に図書館で借りた、英詩関連の本を立て続けに三冊読んだ。その中で、ブラウニングの詩のいくつかに出会った。

 ブラウニングって、名前は聞いたことがあっても、パッとどういう詩を書いた人なのか思い浮かばない人は多いかもしれない。けれども、「赤毛のアン」なら誰でも知っているだろう。

 ご存じの方も多いかもしれないないが、「赤毛のアン」シリーズの第1作品目の「Anne of Green Gables」は、ブラウニングの詩で始まり、ブラウニングの詩で終わる。


(1)「赤毛のアン」の始まり


L.M.Montgomery, 
Anne of Green Gables, 
PUFFIN BOOKs
前掲書
タイトルの下に
「BROWNING」(ブラウニング)

 「Anne of Green Gables」のタイトル下に書かれている
The good stars met in your horoscope,
Made you of spirit, fire and dew.

というブラウニングのフレーズは、
彼のEvelyn Hopeという詩の一部である。

Evelyn Hopeは、ⅠからⅦまであるが、Ⅲだけ引用してみる。

III.
Is it too late then, Evelyn Hope?
What, your soul was pure and true,
The good stars met in your horoscope,
Made you of spirit, fire and dew—
And, just because I was thrice as old
And our paths in the world diverged so wide,
Each was nought to each, must I be told?
We were fellow mortals, nought beside?

ちょっと私が訳してみます😊。
(※逐次訳ではなく雰囲気を訳してみました)


イブリン・ホープよ
遅すぎるのだろうか?
あなたの魂は
なんて純粋で
真実に満ちていることだろう
星々はあなたの中でめぐりあった
精霊と火と露があなたを作り上げた
ぼくは三倍年上だっただけ
この世での道は
こんなにも大きく隔たっているが
互いに無意味だと
言わなくちゃならないのかい?
ぼくたちは互いに
限りある命をもつ生き物だが
となりにいることは無意味なのかい?

山根あきら[訳]

 ブラウニングの詩を全部読んだわけではないが、ここだけ読むとまるで、アンの中に出てくるマシューがアンに語っているかのように私には思えた。モンゴメリーがブラウニングのこの詩を掲げた理由がわかるような気がする。

 文学史を調べたわけじゃないから勝手な推測を書くのもどうかと思うが(あとでコッソリ調べてみます😊)、「赤毛のアン」の生みの親は、モンゴメリーではなく、ブラウニングとだ言っても過言ではない(…過言かもしれないけど)。少なくとも、モンゴメリーに与えたブラウニングの影響は大きかったのだろう。


(2) 「赤毛のアン」の終わり



 "Anne of Green Gables" の最後は次にように結ばれている。

 Anne's horizons had closed in since the night she had sat there after coming home from Queen's; but she knew that flowers of quiet happiness would bloom along it. The joys of sincere work and worthy aspiration and congenial friendship were to be hers; nothing could rob her of her birthright of fancy or her ideal world of dreams. And there was always the bend in the road! 
' " God's in His heaven, all's right with the world," ' whispered Anne softly. 

前掲書、p253より引用。
強調は私の手によるもの。

村岡花子[訳]による同箇所の翻訳は以下の通り(新潮文庫、p382)


 アンの地平線はクイーンから帰ってきた夜を境としてせばめられた。しかし道がせばめられたとはいえ、アンは静かな幸福の花が、その道にずっと咲きみだれていることを知っていた。真剣な仕事と、りっぱな抱負と、厚い友情はアンのものだった。何ものもアンが生れつきもっている空想と、夢の国を奪うことはできないのだった。そして、道にはつねに曲り角があるのだ。
 「神は天にあり、世はすべてよし」とアンはそっとささやいた。

強調は私によるもの。

 太字で強調した「赤毛のアン」(Anne of Green Gables)のいちばん最後の部分、
' " God's in His heaven, all's right with the world," ' whispered Anne softly. (「神は天にあり、世はすべてよし」)は、ブラウニングの詩の引用である。

平井正穂(編)「イギリス名詩選」岩波文庫

前掲書、p240-241より引用。


Pippa's Song 

Robert Browning

The year's at the spring 
And day's at the morn; 
Morning's at seven; 
The hill-side's dew-pearled; 
The lark's on the wing; 
The snail's on the thorn; 
God's in his heaven---
All's right with the world!
 

前掲書、pp240-241
強調は私によるもの。

ピパの唄

ロバート・ブラウニング

歳はめぐり、春きたり、
日はめぐり、朝きたる。
今、朝の七時、
山辺に真珠の露煌く。
雲雀、青空を翔け、
蝸牛、棘の上を這う。
神、天にいまし給い、
地にはただ平和!


 同じ箇所を村岡花子さんは、
「神は天にあり、世はすべてよし」と訳し、
 平井正穂さんは、
神、天にいまし給い、
地にはただ平和!
と訳している。

 どちらも優れた翻訳だが、私も訳してみたくなったので、最後に私の日本語訳も書いておく。


ピパの唄 | ロバート・ブラウニング
(山根あきら[訳])


1年は春に始まり
1日は朝に始まる
動き出すのは朝7時
丘の斜面は真珠の如く
ひばりが露を見下ろしながら
その上を羽ばたいてゆく
かたつむりはてくてくと
いばらの上を歩み始める
神様は蒼穹の彼方より
すべて良しと今日もつぶやく



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