インドにしかない独自の中華料理「Indian Chinese」って何だ?1ヶ月間調べて食べ歩いて、作ってみた記録【レシピあり】
インドには独自発展しインド化した中華料理があり、Indian Chinese(インド中華)と呼ばれている。全土を通して人気メニューレストランや屋台で頻繁に見かけるので、インド料理を食べることに疲れた旅人が救われたという話をよく聞く。
自分自身、インドに長期滞在した時にたまに食べていたのがFried RiceやHakka Noodleという屋台料理で、普通に想像する範囲内のチャーハンや塩焼きそばのようなもの。インドらしく基本的にベジタリアン対応である。春巻きっぽいのは肉は入ってないけどそのままスプリングロールという名前。茶色のグレイビーはマンチュリアン(満州風)である。炒めた麺やバスマティライスのフライドライスも好まれる。
インド中華と聞くと、インド料理と中華料理の融合!?スパイシーで美味しそう!と思うかもしれないが、実際食べてみると日本人的には普通の中華、それもあまり本格的ではないタイプの中華の味がすることが多い。
日本にも酢豚や天津飯などローカライズされた独自の中華メニューがあるが、インド中華も何ら特別なものではなく、世界中にたくさんあるそういったローカライズ中華のうちの一つと捉えるくらいがちょうど良いかもしれない。
インド料理の本流ではないのだが家族での外食メニューとしてはとても人気があり、いまや全土的に愛されているインド中華。インド料理でも中華料理でもなく、既存のカテゴリに分類することが難しい新たな料理カテゴリとも言える。
中華料理にルーツを持ちながらもインド人のイメージする中華料理の枠から出ることのないため、もはやインド料理でも中華料理でもない。そんなインド中華はある意味とてもインドらしい食べ物かもしれない。
今回はそんなインド中華に関して、代表的な料理、成立した経緯、作り方について深堀りしてみた。
代表的な料理や調理法の分類
マンチュリアン
典型的には野菜または肉の揚げ団子のスパイシーあんかけ、またはマンチュリアンソースを使ったもの。グレイビーとセミドライ両方がある。
「満州風」という意味だが中国には存在せず、差別的な意味も含まれている命名。1975年に中華系のネルソン・ワンが考案したと言われている。
まずチキンマンチュリアンが生まれ、後ほどベジ対応のゴビマンチュリアンが誕生した。
カリフラワーを揚げてソースを絡めたゴビマンチュリアンはうまい。カリフラワーはお肉。
シェズワン
四川風という意味だが実際の四川にはないソース。大量の唐辛子、ニンニク、生姜、醤油、酢などで作る。シェズワンフライドライス、シェズワンヌードル、シェズワンチキンなど、ソースをまぶすようなレシピが多い。
チリ
実は多くのインド料理店やネパール料理店にこっそり紛れ込んでいるチキンチリやパニールチリという料理はインド中華で、マンチュリアンやシェズワンより前にコルカタで発明され、最も歴史が古い。酢豚のような見た目で、甘辛く酸っぱい味付けにすることが多い。
インド中華が成立した歴史や経緯
インド中華料理の発祥地はコルカタで、1700年代の後半に広東系の客家(Hakka Noodleの語源)がインドで一番最初の華僑(中国人移民)となる。彼らは皮なめし工場や港、鉄道などで働き、やがてチャイナタウンを形成した。今でもインド唯一のチャイナタウン Tiretta Bazaarはコルカタにある。
1920年代にコルカタにできた、現存する最古の中華レストランのうちの一つが「Eau Chew」だ。発音するなら「オーチュウ」、つまりヨーロッパを意味する。イギリス領インド時代なので、当時の顧客はヨーロッパ人が中心だった。それからコルカタの同胞の中国人を相手に中国料理を提供していたが、食材や調味料はインドのものなので自然とインド味になる。やがて地元のインド人客にも人気になり、リクエストに対応していくうちに味付けは濃くなり、独自の料理文化が発展していった。
次第にムンバイやチェンナイなどの大都会にも広まりローカライズされていき、今では全国各地の屋台料理にも「シェズワン(四川風)ドーサ」や「チャイニーズベル」などの数多くのインド中華料理がある。
インドのレストランの37%(2017年時点)ではインド中華料理が提供されており、現在ではアメリカやマレーシア、イギリスなど中国系インド人の多いところには「インド中華」のレストランも存在する。アメリカなどに行っていままで食べていた中華料理がインド独自のものだと知って驚くインド人も少なくないという。
国内のインド中華
日本国内でもインド中華を提供しているお店がいくつかある。特に有名なのは西大島のマハラニだろうか。
ルシインドビリヤニの中華プレート
先日、ルシインドビリヤニでちょうどゴールデンウィークインド中華イベントをやっていたので食べに行ってみた。
スパイスを使うところが醤油に置き換えられていたり、基本的にベジタリアン料理が中心なので揚げ物の具材もカリフラワーになる。使われる肉は豚肉ではなく鶏肉ばかり、チャーハンのコメはバスマティライス。トムヤムクンやガパオなど、タイ料理も取り込まれてしまっているというのがなんともインドっぽい。
やはり、インドのストリートを思い出すような味だった。
御徒町ベジキッチンのインド中華
ベジタリアン料理だけどハイカロリーなものを出すことで有名なベジキッチンにもインド中華がある。普段はインド料理を食べたいので見向きもしなかったCHINESEゾーンを頼む時が来るとは…。
結局ベジマンチュリアンとベジフライドライスを食べた。
ベジマンチュリアンは揚げた野菜団子を多めのマンチュリアンソースに浸した料理。インド人はフライドライスを食べる時も、グレイビー的なものを混ぜて食べたりするらしい。
西葛西のインド中華
インド人が日本国内で最も密集しているエリアと言われる西葛西で、インド人向けのインド中華を食べてみた。
まずはムンバイキッチンから。中華風おつまみメニューが充実している。
化学調味料マサラが使われており、胡椒の辛さが後からくる。
ピリピリする醤油ラーメンのような味でニンニクが多用されている。聞けば働いている人は全員ネパール人だが、顧客は主にインド人や日本人だという。
それからアムダスラビーをはしご。
アムダスラビーでは中国料理というカテゴリは存在せず、前菜メニューの中にインド中華料理がさらっと紛れ込んでいた。チキン65は南インドでよく食べられている鶏の唐揚げであるが、実はインド中華ではない。
2つの店を食べ比べてみて、ゴビマンチュリアンひとつとっても味付けも店によって違い、味付けもそれぞれ異なることがわかった。それだけインド中華は自分のものにされている。中華料理はインド料理店のメニューの中に自然に溶け込んでおり、注意しないと見過ごしてしまいそうである。
インド中華はもはや中国料理ではなく、インド料理のうちのひとつのジャンルであると言いたい。
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限定パート:麻婆パニール、ベジマンチュリアン、ゴビマンチュリアンなど作ってみた
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