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タンドールと共に寝起きする合宿で、短時間でナンを上手に焼けるようになるために考えた7つのポイント
パンジャーブやデリーなど北インドを旅すると、そのあたりの路地で掘り炬燵のような床下式のタンドールでカミーリーロティ(発酵した白くて丸いふパン)やクルチャ(スパイスや野菜の詰められたパン)を焼いている光景を目にする。ナンもあることにはあるが円形で固めに作られており、日本のインド・ネパール料理店でよく食べられているようなふかふかした甘いしずく型のナンはインド現地では見たことがない。
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インド現地にはないとしても、あの白くてふかふかしたナンには抗えない魅力がある。それは高温のタンドール窯で瞬間的に焼くからこそ出せる食感であり、オーブンでじっくりと焼いたパンにはないものだ。ふかふかのナンを自分で焼いてみたいと思ったことのある人も少なくないのではないか。
縁あってタンドール窯のある場所をお借りすることができ、5日間ナンを焼き続ける合宿を実施した。期間中はタンドールの火を絶やさず、すぐそばで寝起きしながらひたすらナンや焼き物料理を作り続けた。
合宿中のナンの変遷
ナン焼きは思った以上に難しかったが、途中からコツを掴んで成功率があがった。その結果5日間でこのようにナンが成長を遂げていった。それにしてもファーストナンは黒焦げでひどいものだった。
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まだまだ完璧とは言えないが、常時安定して80点くらいのクオリティのナンを焼くためのポイントは短期間で掴むことができたと思う。まあこれくらいで焼けると言っていたらお店の人に怒られるかもしれないが。
合宿の概要
5日間霞ヶ関に泊まり込み、ひたすらナンを焼きながら技術の習得を目指すというのが今回の合宿の趣旨だ。
場所は埼玉県霞ヶ関にあるバングラデシュ人の部屋を貸してもらうことができた。そこはバングラデシュ人の方がタンドールとキッチンを設置して集会所のように使っているところで、お店並みに設備が揃っている。ラマダーン月は食事のために仲間で集まったりすることもあるらしい。
タンドール窯、業務用コンロ、冷蔵庫、インド圧力鍋などの基本的なアイテムは既にあり、寝袋を持ち込んで泊まり込みで活動する許可もいただいた。
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霞ヶ関は東京から見たら川越よりも向こう側なのであまり馴染みがないかもしれないが、東京国際大学などがある関係でネパール人、バングラデシュ人、ベトナム人、インド人などの留学生が多く、ネパール料理店やバングラデシュ料理店、ネパール人の占い師、インド系の雑貨店など「カレー好きにとっては」なんでも揃っている場所だ。肉や豆などの食材も階下に行けばすぐ買えるという最高の環境だった。
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短時間で上手にナンを焼けるようになるために
意識して取り組んだのは、具体的には以下のようなポイントである。タンドールでナンを焼けるようになるというスキル自体は限られたところでしか活かせないかもしれないが、なにか新しいことに初めて取り組む時のアプローチには共通するものがあると思う。
①積極的に失敗を発信する
②検証するポイントを絞る
③まず自分ごとにしてから専門家に聞く
④本当に必要な道具は代用できないと知る
⑤細切れ時間で取り組むよりもまとまった時間をとる
⑥仲間と共に挑戦する
⑦アウトプットのタイミングを予め決めてしまう
①積極的に失敗を発信する
誰だって最初は素人なのだから最初の取り組みでうまくできなくてもそれは当たり前。下手なのは伸びしろでしかないし、「センスがない」とか「不器用」なんてものはただの思い込みだ。失敗や間違ったことでもいいから試しに発信してみると、意外な反応があることが多い。
タンドールは最初に炭を燃やしまくって温度を上げるのが重要。
— カレー哲学たん(करी टेछगाक तन) :東京マサラ部 (@philosophycurry) February 22, 2023
不細工なファーストナン。 pic.twitter.com/s12TZp5IQE
この時は火加減がまだ強すぎて直火で表面が焦げてしまっていたので、「炭を燃やし切って熾火になってから壁面からの熱を利用して焼くといい」とタンドールに詳しい人が教えてくれた。
綺麗な姿しか見せたくない人は多いかもしれないが、失敗をあえて発信することで正しい使い方や方法を教えてくれる人がいつの間にか現れる。そのアドバイスを素直に受け入れて次にいかすことで、より早く先のステップに進むことができる。
②検証するポイントを絞る
ざっくりいうと美味しいナンを焼くための要素は以下のように分解される。実際には最初から最後まで気を抜ける所が一つもない。
良い生地(小麦粉の品質、水分量、配合、こね)× タンドールの温度管理 × 焼き(伸ばし、成形、剥がし)
だが、5日間の合宿だけで全てをいちから検証していくには流石に時間が足りない。何かを変えれば他の要素もずれてくるだろう。そこで今回は生地の作り方は京都の偉大なる先人のものを参考にして、タンドールの温度管理と焼きの技術に絞って順番に検証を行っていくことにした。
③自分ごとにしてから専門家に意見を伺う
自分で実際にやってみないうちには専門家の話を聞いてもなかなか耳に入ってこない。まずは何はともあれ一度は試してみることで自分ごとになり、ポイントが明確になった仮説を持つことができる。
ナンを何枚か焼いてみて失敗したあと、隣の店にいたネパール人にナンの焼き方を聞きに行くとキッチンに招き入れてくれて焼く所を見せてくれた。
すでにポイントを絞り込んでいたので、窯の温度と生地の伸ばし方についてしつこく観察した。お店では、おが炭のようなちくわ形の炭を使って熾火まで燃やし切り、落ち着いた火を使って壁面の熱で焼いていた。ガンタイプの温度計で表面を測ると270度だった。
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ネパール人の店員さんは手慣れた手つきで丸めた生地をとり、まず平らなところにおいて円形に伸ばした。この時空気が抜けないように指を使って潰しながら優しく広げ、すぐ手に取って手のひらを反らすようにして生地を少しずつ薄く伸ばしていく。
布をまるめた枕のようなものに生地を貼り付け、引っ張って伸ばして長い部分を作る。よく伸びたら窯の内側に貼りつける。少し隙間を作りながら蓋を閉めて、1-2分で壁から棒を使って剥がし、引っ掛けるようにして釣り上げる。ナンはあっという間に焼き上がった。
隣のお店のネパール人がいきなりナンを焼くところを見せてくれた。
— カレー哲学たん(करी टेछगाक तन) :東京マサラ部 (@philosophycurry) February 23, 2023
・炭は燃やし切って熾火
・窯の温度は270度。
・まず平たいところで丸く伸ばしてから手の上でシズク型にし、布を丸めたもので貼る。
・同じ窯の中でも場所によって温度が違う。
売り物じゃないのにナンをもらってしまった。 pic.twitter.com/j2IrQYxEUa
お客さんがいないのにも関わらずナンのデモンストレーションをしてくれて、焼きあがったものをお土産に貰ってしまった。
ナンを焼くシーン自体は今まで何度も見ていたはずなのに、自分で一度試してから見せてもらったら定着度と理解度が全く違った。
合宿3日目の夜には、既に3年はナンを焼き続けている京大カレー部そうのすけ氏とビデオ通話をした。短い会話でも生地の捏ね方や窯の内部の湿度、具材による焼き加減の違いなど、実際に焼き続ける中で浮かんできた疑問がおおよそ解消された。それも検証ポイントを持って集中的に取り組んだおかげだと思う。
④本当に必要な道具は代用できない
途中から焼きの成功率が格段に上がったアイテムがあった。アレである。ナンを焼くためにはアレは不可欠で、他のものでは代用できないのだと思い知った。
「アレ」は正式には「ギャディー」というらしい。タンドールの壁面に生地を貼りつけるために必要な平べったい枕のようなもので、お店には必ず置いてある。
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ナンを貼りつけるために最初はただの金属のボウルを代用していた。だが壁面のカーブに対してボウルのカーブが合っていないため、生地がうまく離れずにくっついて形が歪んでしまったり、もしくは粉を打ちすぎて下に滑落しナンを消し炭にしてしまうという事故が多発していた。
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一緒に焼いていた仲間がボウルを使っての生地貼り付けに3回連続で失敗したので、そのタイミングで布巾を購入して作ってみることにした。作り方は別に難しくはない。タオルを丸めて芯を作り、布を上に重ねていっただけだ。なのにこれを使うだけで格段に生地の剥がれが良くなり、貼り付けに失敗しなくなった。
やはり、本当に必要な道具は代用できない。道具ひとつで問題が解決されることもある。
⑤細切れ時間でダラダラ取り組むよりもまとまった時間をとる
1日に1枚コツコツナンを焼くよりも、他のことを全て絶ってでも数日で集中して100枚焼いたほうが確実に身になる。なるべくサイクルの時間は短く、思考を途絶えさせてはいけない。何かを身につける時にはマルチタスクをせず、短期間で試行錯誤をするのが大切だ。
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合宿の期間中に集中して身につけた感覚は今もちゃんと残っているし、その場で言語化してあるので、記憶がなくなっても再現性がある。
メリハリをつける、とよく言われるが何かに取り組むときは「何をしないか」を決め、練習に専念できる環境を整備することが何よりも大切だ。
⑥仲間と共に挑戦する
複数人で物事に向かうと、環境や設備をシェアできるのでコスト面で楽になるし、視点が違うモノ同士で議論できるのがよい。
今回は東京マサラ部室メンバー3人で中心的に合宿に取り組み、場所には関係者十数人が出入りしてくれて、その都度意見交換をしていた。モチベーション的にも複数人で取り組めると強い。
また、一つの物事に対して視点が複数生まれるというのが仲間がいる強みではないかと思う。見るポイントがそれぞれ違うので、単に話しているだけでも新しい発見につながるのだ。
⑦アウトプットのタイミングを先に決めてしまう
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積み上げ式に取り組むのではなく、ゴールを最初に設定してしまい、逆算してそこに至るにはどうすればいいのかを考えたほうが完成のスピードは格段に上がる。(決めていたことからブレないので探索的発想のないやり方ではあるが)合宿の最終日には人を呼び、ナン焼き体験会付きのパーティを開催することに最初から決めていた。
そこで楽しんでもらうためには最低限、次の3点をクリアする必要があった。
・うまく焼ける温度帯を探ってキープできるようになる
・焼きの技術を言語化して伝えられるようになる(生地の成形、貼り付け、剥がし)
・満足度の高い、相性の良いカレーを用意する
そのために、短時間で何がなんでもモノにしなければという焦りを持って取り組むことができた。時間がなくて夜中に大量に次の日の分の生地を仕込んだりしていたのも、いまや懐かしい思い出だ。
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霞ヶ関にインドをつくることはできたのか
インド北西部パンジャーブでは、シーク教徒の教えてにより、地域に共同タンドールが置かれコミュニティの形成や維持に役立っていたらしい。
合宿期間中には川越周辺のカレー好きの方々やオーナーのバングラデシュ人家族、東京マサラ部室関係者が続々とタンドール窯を訪れてくれて毎日盛り上がった。(生ビールも飲み放題だった)
タンドール窯を中心にコミュニティが形成され、色々な話に花を咲かせていく。新しい出会いも生まれ、ナン焼き体験もしてもらった。たった5日間の短い合宿だったが、我々は「霞ヶ関にインドをつくった」と言っても過言ではないかもしれない。これもまた、動かない旅なのだろう。
スペシャルサンクス
今回の合宿は霞ヶ関が地元の山口さん(今度霞ヶ関でカレー屋さんをやるそうです!)がなにからなにまで環境整備のお世話をしてくださったのが最強だった。辺りのネパール人やバングラデシュ人とはほぼ知り合いで、今回の場所を紹介してくださった上、生ビールや調理器具、寝袋まで提供してくれた。胸いっぱいのありがとうを贈ります!!
さらには合宿の翌日に自分でタンドールを購入しましたと報告をもらった。これで今後はいつでもタンドールパーティーができますね。
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そして何より、全てのポイントで的確なアドバイスをくれた、タンドール使いの先輩そうのすけ氏にも大感謝!
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【限定パート】タンドールでナンを焼くときのコツまとめ
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今回の実践の中でわかったより細かいタンドール使いのコツと、パラクパニールのレシピとパンジャーブのサーグのレシピを書き残します。初月無料なのでお試しに入ってみてね。
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