ヘイトとウソと外国と(2)
▼前号では、フェイクニュースを広める人々は、あたかも「市場調査」のように、まずちょっと「ネット上に出す」、次に「自分たちのブログに載せる」、そして「動画配信サイトや地上波のテレビで拡散」という道筋を使うことに触れた。
その続き。
▼前号の内容は、フェイク拡散グループの「タテ」の動きだが、今号はその拡散がどう広がるのか、つまり「ヨコ」の動きに関する分析の一つだ。
▼アメリカの現代思想に造詣が深い会田弘継氏が、「ピント外れの「国民投票法」改正議論」という論文を中央公論2019年5月号に書いていた。
特集テーマは「サイバー戦争の脅威に無頓着な日本」。適宜改行。
〈ドイツのエルランゲン・ニュルンベルク大学のファビアン・シェーファー教授らが、2014年の日本の衆議院議員総選挙の投票日(12月14日)前後の23日間において、ツイッターに投稿された選挙に関係するツイート約54万の調査を行った(2018年6月12日付『朝日新聞』)。
その結果、8割にあたる約43万がリツイートか、元のツイートを機械的にわずかに変えただけのツイートだった。
内容については、一つのアカウントから100以上投稿されたツイートは、ほとんどが安倍政権反対派を批判する内容で、「反日」という言葉の多用が目立った。
つまり、「ボット」と呼ばれる自動投稿機能を用いて「反日」批判のネット右翼的な言説が大量にばらまかれたのである。
こうした右派言説のばらまきが、選挙にどういう影響を与えたのかは未解明だ。教授が特定のキーワードを使って集めた「選挙関係」とされるツイート以外では、どのような右派言説がはびこっていたのか、また誰がばらまいたのか、一層の研究が必要である。
少なくとも、安全保障の観点から、外国勢力が絡んでいなかったかどうかはチェックする必要がある。
というのも、右派言説だからといって、その発信者が必ずしも国内の過激な安倍政権支持者だとは限らないからだ。
欧米の前例でも明らかなように、外国の介入により、対象となった国の世論が分断・混乱させられ、民主主義が弱体化させられるサイバー戦が展開される時代が来ているのである。〉
〈日本の国民投票が直面する最大の課題は、こうした介入問題であるはずなのに、テレビCM規制などが議論の焦点になっているのは、どうしてだろうか。
2014年総選挙で起きたツイッター上のボットによる右派言説の氾濫状況を、外国の学者に指摘されても反応が鈍いのは、異様としかいいようがない。
日本の治安当局は当然知っていたはずである。
外国勢力が関与していたかどうかも、欧米の当局の動きから類推する限り、日本でも分析できていたはずだ。(中略)
日本で、この2014年総選挙の問題が公然と議論されない背景に、捜査当局の、選挙結果に疑義を挟むことになるのは避けたいという「忖度(そんたく)」があるのではないかと気になる。(中略)〉
▼大事なところを繰り返しておくと、〈少なくとも、安全保障の観点から、外国勢力が絡んでいなかったかどうかはチェックする必要がある。というのも、右派言説だからといって、その発信者が必ずしも国内の過激な安倍政権支持者だとは限らないからだ。〉という箇所だ。
サイバー戦の観点から考えると、この夏の参議院選挙は、衆参ダブルにならなくてよかったかもしれない。
▼筆者も似たような推測をする。日本の治安当局はサイバー戦の実状について、「把握したうえで、隠している」のだと思う。寄らしむべし、知らしむべからず。
とはいえ、「隠している」のは、「事態を把握していない」「分析していない」よりも100倍マシである。
▼会田氏は論文のラストを〈日本のサイバー専門家の中には、現状では国民投票など絶対に実施すべきでない、とまで危機感を募らせている人もいることは、知っておいてほしい。〉と締めくくっている。
とくに国民投票に限った話ではなく、ある国が、自国の得になるように日本の世論を揺り動かす、という「サイバー戦」が繰り広げられるのは、当たり前の話だ。
日本社会も、スマホの奴隷になって、SNSを彷徨(さまよ)って、反射的にスマホのボタンを押しながら、肥大化した自我を撫(な)でまわして感情ポルノに耽(ふけ)る連中が、「無意識」の裡(うち)にリアルな戦争を起こしてしまう時代に入った、と考えるのが価値的である。
そのリツイート、ご用心。
(2019年6月21日)