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ケルト 装飾的思考
古代のヨーロッパで活躍した、ケルト民族に関する本です。
といっても、直接、ケルト民族の生活ぶりなどを、書いた本ではありません。
「ケルト文様」と呼ばれる文様の歴史を追った本です。分野でいえば、美術史の本ですね。
本書は、ケルト文化の重要な一面を、扱っています。
ですから、ケルト民族に興味がある方なら、読む価値はあります。
ただし、ケルト民族の歴史や生活については、あまり詳しくは書かれていません。
そういうケルト民族の実態を知りたければ、別の本を読んだほうがいいです。もっと、ふさわしい本があります。
ケルトの神話や伝説については、ある程度、載っています。
それらを知らないと、ケルト文様の解釈に、支障があるからです。
ケルト民族に興味がなくても、本書の表紙を見て、「一目惚れ」してしまう方が、いるかも知れません。
ネットの画面ですと、見にくいですが……本書の表紙は、渦巻【うずまき】文様や、複雑にからんだ組紐【くみひも】文様で、埋め尽くされています。
これが、ケルト文様です。
まるで、空白を恐れるかのように、執拗【しつよう】に画面を占有し、からみ合う文様。
そこには、何か、呪術めいたものさえ、感じられます。
本書は、実物を手に取ってみなければ、価値のわかりにくい本です。
ぜひ、実物の表紙を見て下さい。そして、中のページをめくって見て下さい。
中のページにも、たくさんのケルト文様が載っています。これの虜【とりこ】になってしまう方が、多いのではないでしょうか。
ケルト民族は、謎の多い民族です。
本書は、その謎に迫りつつ、さらなる謎へ、いざないます。気づけば、あなたも、ケルトの魅力の捕らわれ人です(^^)
以下に、本書の目次を書いておきますね。
はじめに――ケルトの国へ
序章 西のトポス――アイルランド修道院文化
1 スケリグ・ヴィヒール島へ
2 エグザイルの精神――聖コルンバーヌスの放浪
3 学芸の島
4 ケルト写本
第一章 装飾の系譜――写本芸術の伝統
1 挿絵【イラストレーション】と装飾【イリュミネーション】
2 装飾の理念
3 文様の蠢【うごめ】き――カーペット頁【ページ】
4 視られる文字――装飾 頭文字【イニシャル】
5 顛倒【てんとう】の論理
第二章 ケルトの想像力――変形から幻想へ
1 ゲール語と『アラン島』
2 異貌のケルト人
3 幻の版図
4 歪んだ神像
5 負の人体
6 ケルトの貨幣
第三章 渦巻文様の神秘学
1 『ダロウの書』渦巻の頁【ページ】
2 ラ・テーヌ様式
3 切られた首
4 神秘思想
5 拮抗【きっこう】の精神
第四章 北方動物の変容主義【トランスフォーミズム】
1 ヨハネ福音書の扉
2 ケルトの神々と動物
3 航海譚【イムラヴア】の怪物
4 怪獣文字
5 北方動物文様
6 ダロウ・アニマル――二つの脅威
7 動物の変容
第五章 組紐【くみひも】文様の呪縛
1 ケルトの十字架
2 十字架と組紐文様
3 『ダロウの書』のトリック
4 「結び目」の欲動
5 イスラームの組紐文様
6 レオナルドの組紐
7 文様の侵食
8 磔刑【たっけい】の組紐
9 組紐のシンボリズム
10 緊縛された身体
11 組紐人間
第六章 世界文様【オルナトウス・ムンディ】
1 モナスターボイスの十字架――図像と文様
2 文様的世界像
3 ケルト美術の遺産――カロリング朝・フランコ=サクソン派
4 ロマネスクへ――魔性の装飾
第七章 ケルト復興
1 ケルトと世紀末
2 絵画におけるケルト的モチーフ――バートンとマックリス
3 ピートリと《タラ・ブローチ》
4 ケルティック・デザインの展開
5 アール・ヌーヴォーへ
あとがき
註